大谷翔平がネクタイ姿で示した「美意識の高さ」
大谷翔平選手と通訳の水原一平氏(写真:AP/アフロ)
「勝つことが一番」という想いから、愛犬の名前まで、見どころだらけだった大谷翔平選手のドジャース入団会見。筆者もテレビ中継をリアルタイム視聴しましたが、ビジネスマンのスタイリストという仕事柄「大谷選手と水原通訳の着こなし」に着目しました。
ドジャーブルーのソリッド(無地)ネクタイや着用していた時計については、各メディアで話題に挙がっていますし、通訳の水原一平氏が締めていたレジメンタルストライプについて指摘するメディアもありました。ただ同時に「我々ビジネスマンが、魅せ方について学ぶ」良い機会だと感じたのです。
「会見内容のみならず、身なりについて話題が挙がる」ということは、それだけ注目度が高いわけですが、見方を変えれば「普段は指摘されないだけで、実はビジネスシーンにおいても、相手はあなたの身なりをチェックしている」とも捉えられるのでは。
ネクタイを締める機会は減っていますが、新年会や新入社員の迎え入れ・式典など、年に数回は「大事な場面でネクタイを締める」ケースもあることでしょう。そこで今回は、大谷翔平選手のネクタイ姿から「魅せ方のインテリジェンス」を考察いたします。
ドジャーブルーのタイで示した美意識の高さ
エンゼルス所属の2020年から、大谷選手がドイツブランドのヒューゴ ボスと契約を締結し、同社コアブランド「ボス(BOSS)」のアンバサダーを務めている話は有名です。スーツ一式はオーダーメイドされたもので、Full-Countの取材に対してBOSS広報担当者は「今までにおつくりしていた中から選ばれたようです」とコメントしています。
同社サイトによると「BOSS Made To Measure」の価格帯は、生地やオプションによって変動するため、2ピースのもので38万〜86万円。そして、ドジャースを意識したであろうブルーのソリッド(無地)ネクタイは4万円ですが、決して「高級だから良く見えた」という話だと私は思っていません。
大谷選手の着こなしが秀逸だったポイントは、チームカラーをイメージした「ソリッド(無地)のネクタイ」を合わせたこと。つまり、「スーツとネクタイのドレス感が合っている」好事例だったのです。
あなたも取引先に伺うとき、意図してネクタイ色を決めるケースはありませんか。たとえば相手先のコーポレートカラーを締めていれば、打ち合わせのときに話題に挙がりやすいもの。ところが色ばかりに意識を向けたネクタイ選びでは、柄や質感を見落としやすいのです。にもかかわらず大谷選手の事例では、スーツの光沢とソリッドネクタイの質感までも見事にマッチしていました。
ネクタイを単品ではなく、部品として捉える
スーツとネクタイを合わせるとき、考え方ひとつで、選び方も変わります。「ネクタイを単品ではなく、全身のなかにある部品」だと捉えることで、スーツ姿の仕上がりは洗練されるもの。これが入団会見の着こなしで起きていた現象だと私は見ています。
ネクタイを部品として捉えた統一感あるコーディネート(写真:筆者撮影)
つまり我々ビジネスマンは、「ドジャーブルーのネクタイを締める」という表面的な真似ではなく、「ネクタイを全身のなかにある部品」と捉える本質的な視点をもつこと。難しそうに聞こえますが、実は意外と簡単なのです。
たとえば紺スーツと白シャツに合わせるネクタイを想像してみてください。ネクタイを単品で捉える場合、「色や柄のバランスで、全身のアクセントになるもの」を選びがち。一方、ネクタイを部品として捉えるならば、「紺青系のソリッド(無地)ネクタイで、全身を調和させる」という発想も浮かびあがるのです。
特にお手頃価格のスーツやネクタイで、安っぽく見えないVゾーンをつくるとき、真っ先にスーツ色に近い「ソリッド(無地)」が候補に挙がります。全身の色数を絞ることで、ドレス感を高める着こなしですが、ここでちょっとした工夫も欠かせません。
ソリッドタイをビジネスシーンで生かすコツ
「ソリッド=無地」とは言われていますが、織り柄があるものもソリッドに含まれます。ちなみに大谷選手のネクタイ柄は、会見時の写真を拡大してみればわかりますが、織りがあるもの。
そしてリーズナブルなソリッドタイを選ぶならば、まさに織り柄があるものがおすすめ。というのもお手頃価格のネクタイの場合、織り柄のない無地は、ケースバイケースですが、ペラッと安っぽく見えかねないからです。
ドジャース入団会見でスーツ姿の大谷翔平選手(写真:EPA=時事)
ここまでソリッドタイの活用についてお伝えしてきましたが、「ソリッドはフォーマルだから、ビジネスでは柄物を選ぶ」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ただ最近のスーツ着用シーンでは、「特別な場面が多い」という背景からも、むしろスーツ着用のビジネスシーンこそ「迷ったらソリッド」だと私は考えています。
とはいえ水原通訳が締めていたようなレジメンタルストライプが、ビジネスシーンの定番であることは変わりません。
会見の主役である大谷選手の相棒として支える水原通訳のネクタイは、ドジャーブルーを意識した地色のレジメンタルストライプ柄でした。
そもそもレジメンタルストライプ柄は、英国陸軍における「部隊の連帯感を示す」アイテムです。部隊を表す配色のストライプが左から右斜め上に入っているネクタイですが、所属のシンボルとして「同じパターンのネクタイを締めていた」と言われています。ただし軍隊という背景からも、「レジメンタルストライプは、フォーマルには向かない」とも言われているのです。
水原通訳がレジメンタルを身に着けたのはなぜ?
ここから読み解けるポイントは、水原通訳は会見の主役である大谷選手を引き立てるため、「あえてソリッドではなく、レジメンタルを身に着けた」という可能性です。つまり、同じ色であっても「柄で表情をつける」作戦です。
もちろん、これは筆者の勝手な想像ですが、会見直前にドジャース公式X(@Dodgers)に掲載された大谷選手と水原通訳のお二人がにこやかに映る写真は、今後の活躍を予見するステキな一枚でした。
ところが会見がはじまって、ネズ・バレロ代理人と3人で撮られた写真では、バレロ氏のネクタイもソリッドのように見えたため、チームとしての一体感に欠けるよう見えてしまった方もいらっしゃったかもしれません。
ちなみに私が水原通訳のレジメンタルで印象に残ったポイントは、英国式の正当なストライプを締めていことでした。英国発祥のスリーピーススーツを着用していたため、ネクタイとスーツの世界観を合わせていたのです。
レジメンタルストライプは、「左から右斜め上に伸びたストライプが英国式」ですし、反転させたものが米国式と言われています。アメリカLAという土地柄を考えれば、同じレジメンタルであっても米国式という選択肢もあったのかもしれませんが、スリーピーススーツに合わせていたため、全身の世界観は合っていたのです。
(森井 良行 : ビジネスマンのためのスタイリスト)