リコーは、ESG戦略について説明。2025年度を最終年度とする第21次中期経営戦略において、「ESGと事業成長の同軸化」を打ち出した姿勢を改めて強調。同中計における社会課題解決型事業の売上目標値を、マテリアリティごとに新たに設定したことを明らかにした。

リコーが21次中経で目指すこと

社会課題解決型事業として、オフィスサービスやドキュメントイメージングなどの「はたらくの変革」の領域では、2025年度の売上高目標として1兆500億円(2022年度実績は7,800億円)、オフィス以外を対象とした保守・サービスによるGEMBA、バイオメディカル、自治体ソリューション、教育ソリューションによる「地域・社会の発展」の売上高目標は500億円(同130億円)、環境配慮型複合機や商用印刷、ラベルレスなどによる「脱炭素社会の実現」、「循環型社会の実現」の売上高目標は4,500億円(同1,560億円)とした。

21次中経の7つのマテリアリティ

マテリアリティの社会課題解決型事業における目標設定

「社会課題解決型事業は、21次中計において、マテリアリティに基づいて注力する事業に位置づけており、売上高そのものを継続的に拡大していくことになる」(リコー コーポレート執行役員 ESG・リスクマネジメント担当の鈴木美佳子氏)と述べた。

リコー コーポレート執行役員 ESG・リスクマネジメント担当の鈴木美佳子氏

「はたらくの変革」において主軸となるオフィスサービスでは、中小企業の生産性向上や成長を支援する「スクラムパッケージ」を事例にあげ、「業種プロデューサーが、100〜150件のニーズを把握し、受注検証を行い、商品開発しており、他社にはないプロセスを踏んで製品化したものである。これまでの複合機の販売実績などによって裏づけられる、お客様に伴走するという他社にない力も生かすことができる。2023年9月、10月の実績は新記録を達成している。まだ多くの中小企業の課題解決に貢献できる余地が大きい」とした。

「地域・社会の発展」では、GEMBAによる医療機器安定稼働への貢献を紹介した。ネットワーク、ロボット、蓄電池、POSといったマルチサポートができる強みを生かすほか、カスタマエンジニアのリスキリングにより、医療機器の保守を強化。「医療機器そのもののネットワーク化が進んでおり、この分野でもネットワークの知識が求められている。医療機器サービスの人材を現在の115人から、2025年度には倍増させる。また、医療機器メンテナンスを切り口に、オフィス機器やサービスの提案も行っていく」という。

「脱炭素社会の実現」、「循環型社会の実現」では、2023年2月に発売した業界最高水準の環境性能を実現した環境配慮型複合機「IM Cシリーズ」の取り組み事例をあげ、「3年半前から開発を進め、リコーが蓄積してきた小型軽量化技術、マテリアルリサイクル技術などを活用することで実現したものである。ESGと事業成長の同軸化の事例のひとつになる」とした。

A3複合機では、世界初となるプラスチック回収材搭載率50%を実現。従来機からカーボンフットプリントを約27%削減し、生産工場の電力は、100%再生可能エネルギーを使用しているという。

また、包装材に直接印字できるラベルレスサーマル技術を開発し、業界初の部分塗工技術によって、透明フィルムに直接印字。中身の見やすさと成分表示を両立しながら、包装材のラベル削減やプラスチック削減に貢献することができているという。2022年からは、セブン-イレブンやローソンでも採用。今後は、医療や物流、製造分野にも展開していくという。

一方、同社では、「事業を通じた社会課題解決」と「経営基盤の強化」の観点から、16のESG目標を設定しているが、これを役員報酬にも反映させ、16項目の達成数で評価することも発表した。2023年度からは、取締役株式報酬全体の2割をESG要素が構成することになるという。

さらに、16のESG目標を各部門にブレイクダウンして設定。たとえば、全社ESG目標として掲げた「製品の新規資源使用率80%以下」という目標に対して、ビジネスユニットごとに新規資源使用率目標を設定したり、再生複合機の販売台数の目標を掲げたりした。

「事業を通じた社会課題解決」と「経営基盤の強化」の観点から、16のESG目標を設定している

ESG目標の各部門へのブレイクダウンのイメージ

リコーの鈴木氏は、「外部評価ではリコーは、ESGのグローバルトップクラスの企業として認識されつつある。今後もESGグローバルトップを目指した挑戦を進める」と前置きし、「ESG外部評価を、企業の健康診断ツールと位置づけ、経営陣や現場の取り組みの強化と、開示の強化を進めていく。これまでにも、リコーは、社会や顧客の変化の後追いではなく、先駆けた動向把握と経営戦略の反映によって、企業価値を向上させてきた。ESG目標は、非財務指標という位置づけではなく、将来財務と捉えている。いまから取り組むことが、3〜5年後の事業成長に結びつくことになり、それを示す指標になる」と語った。

説明のなかでは、国内外の商談や取引時において、ESGに関する要求が高まっていることについても言及した。

国内外の商談や取引時において、ESGに関する要求が高まっている。スライドは各地域の法規制の例

とくに欧州においては、「EU ESPR」や「包装と包装廃棄物規則案」などにより、ESGへの関心が高く、公共調達では、複合機やプリンタについて、一定割合の再生消耗品が要求されたり、複合機の調達時に再生機を含めると加点されたり、リサイクル梱包材の使用や梱包材のリサイクルの要求があったりというケースが増えているという。

リコーが獲得したフランスの公共調達では、複合機1万台以上の商談において、ESGに関する配点が100点中20点を占め、「選定要素として、QCD(品質、コスト、デリバリー)と同様のウエイトを占めるようになっている。英国の公共調達でも30点を占めた例があった」と指摘した。ここでは、再生材含有率や再生機提供なども求められたという。

オランダの民間企業における複合機100台以上の商談では、ESGの取り組みを金額換算し、サプライヤーの評価に反映。入札価格から、「サービス&メンテナンス」「導入計画」「サステナビリティ」の3つの付加価値を金額換算してマイナスし、最終評価金額を決定したという。入札においては、リコーが、サステナビリティのスコアで高く評価されており、これがなければ競合に負けていたと分析。サステナビリティが経済価値と同等に評価された事例と位置づけている。

日本でも、2024年4月からは、複合機の公共調達時には、CFP(カーボンフットプリント)の開示を義務化するほか、東京都では2023年4月からCFP開示やカーボンオフセット要求を調達ガイドラインに反映。公共調達においてグリーン調達の基準が整備されつつある。また、民間企業でも、大手企業に限らず、中小企業においてもカーボンオフセットを採用するケースが増加しているという。

「フランスの化粧品メーカーから、三重県の中小企業に、CDPのレーティングスコアの要求があり、リコーがそれを支援した。SDGs貢献の具体的な取り組みを示すことが求められているが、何から着手したらいかがわからずに困っている中小企業が多い。リコーでは、環境配慮型複合機やカーボンオフセットサービスを提供しており、リコーが発行するカーボンオフセット証明書を、ホームページに開示する中小企業もある」という。

リコージャパンでは、全国700人のSDGsキーパーソンを中心に、中堅中小企業のESGやSDGs活動を支援する体制を構築。SDGsセミナーを開催して、個別の課題把握と提案活動につなげたり、地銀や信金との連携により、地元企業のSDGsやDXの推進に必要な支援を行ったり、リコージャパン独自のサステナビリティヒアリングシートを用いて、ESG視点での取り組みを整理、可視化して、改善を支援したりといった活動を行っているという。

さらに、「EcoVadisのスコア開示要請数がここ数年で急増しており、2022年度は69件だったものが、2023年度は9月末時点で47件に達している。年間では100件以上になるだろう。EcoVadisは総合スコアが47点以上であることが条件となり、リコーはクリアしているが、2〜3年以内に総合スコアを75点以上にするための計画提出が求められている」としたほか、「非営利団体のCDPを通じたCO2排出量の提供要請数も増加しており、2022年度の開示要求は48件。これらの企業に対する売上高は500億円以上に達し、無視ができない規模になっている。なかには、CDPのレーティングAを要求するケースも出ている。ESGが商談参加や商談獲得に重要な要素になっているのは明らかだ」と述べた。

ESG情報の提供要請の推移。ここ数年で急増している

一方、人的資本経営の取り組みについても説明した。

リコーでは、人的資本経営の柱として、自律マインドと自律的な働き方が、社員個人のパフォーマンスを最大化することで実現する「社員の潜在能力発揮を促す」、デジタルスキルを活用することで、個々人の創造性を解き放ち、事業成長を促進させる「個人の成長と事業の成長を同軸にする」、グローバル共通の社員エクスペリエンスを通じて、はたらく歓びの企業風土を創る「社員エクスペリエンスを“はたらく歓び”につなげる」の3点を掲げている。

「はたらく歓び」の実現に、人的資本経営の3つの柱を掲げた

また、同社では、9つの戦略テーマを設定。ケーパビリティとして、「デジタルサービス提供力」、「リーダーシップパイプライン」、「プロセスDXと高い生産性」、「マネジャーケーパビリティの向上」、「個人とチームパフォーマンスの最大化」の5つと、マインドセットとして、「自律」、「DE&I」、「グローバルリコー」、「デジタルマインドセット」の4点をあげている。

21次中経達成のための課題に対し、9つの戦略テーマを設定

リコー コーポレート上席執行役員 CHROの瀬戸まゆ子氏は、「人的資本経営の3つの柱のなかに、9つの戦略テーマを設定し、それらを人事施策として社員が体験し、その体験を積み石とすることが、変革を推進することになる。その成果を、2025年度を目標にしたKPIで推し量ることになる」と語る。

リコー コーポレート上席執行役員 CHROの瀬戸まゆ子氏

2025年度には、IDP(Individual Development Plan)に基づく異動率を60%以上にすること、デジタル研修履修率を100%とすること、女性管理職比率をグローバルで20%、日本で10%とすること、社員エンゲージメント指標を3.91とすることを掲げている。現時点でIDPによる異動率は70%、社員エンゲージメントは3.73、グローバルでの女性管理職比率は15.9%になっているという。

2025年度のKPI

「リコーは、デジタルサービスの会社に変革することを目指しているが、そのためには、カルチャーも変えていかなくてはならない。新たなリコーカルチャーを構築することを目指している」とし、「リコーカルチャーが作られると、ビジネス戦略の実行力がつき、計画に蓋然性が生まれる。また、小さな成功体験の積み重ねによって、エンゲージメントが強化され、継続的にチャレンジし、変化が起こる体質になる。これを循環させることでリコー全体が成長することができる」と述べた。

その一方で、第21次中期経営戦略の達成のためには、人材、仕組み、カルチャーにおいて、課題があることを指摘。なかでも、デジタル人材の育成、再配置に関して触れた。ここでは、人的資本を活用するためのフレームワークをグローバルで統一。さらに、トップダウンによるビジネスニーズからの育成計画をもとにしたリスキリング研修と、eラーニングなどの研修体制や資格取得制度の用意など、ボトムアップによる自律的な学習環境の整備を推進していることを示した。

国内のリコーグループでは、2022年度からリコーデジタルアカデミーをスタート。きめ細かい教育を行うために自前で開発した教育プログラムと、社会で通用するレベルを推し量るための社外教育プログラムを組み合わせ、先鋭化した専門的能力強化や、リスキリングなどを行うデジタルナレッジの強化のほか、社員育成のベースとするスキルを持つために全社員を対象に実施しているデジタルリテラシー教育を用意。現時点で国内3万人の社員に対して、1万3000人がデジタルナレッジ教育に関わり、96%の社員がデジタルリテラシー教育を履修しているという。

2022年度からスタートしたリコーデジタルアカデミー

また、4つの重点育成人材を定義し、育成目標を設定。ビジネスプロデューサー/ビジネスデサイナーを2025年度までに500人(2023年度実績で100人)、クラウドアーキテクトは1,000人(同600人)、データサイエンティストは500人(同300人)、情報セキュリティ人材は2,000人(同1,100人)を目指す。

さらに、リコージャパンでは、職種と役割に分けて、全職務でプロフェッショナル制度認定を実施。社外資格と社内認定レベルだけでなく、ジョブグレードと処遇に整合した仕組みへと変更。リコーヨーロッパでは、リスキリングやアップスキルのための教育プログラムを用意して、人材の育成とシフトを継続的に実施し、同地域で成長しているオフィスサービス事業の推進を支えて例を示した。

加えて、将来の経営人材を育成するためのMIRAIを用意。8カ月間のプログラムを通じて、次世代のグローバルリーダー育成に取り組んでいることも示した。

将来の経営人材を育成する「MIRAI」の概要

リコーは、OAメーカーからデジタルサービスの会社への転換を図っており、第21次中期経営戦略は、その実現に向けて重要な意味を持つ。そして、ESGへの取り組みは、デジタルサービスの会社に変革するする上での具体的な施策が盛り込まれる内容になっている。「ESGと事業成長の同軸化」を、名実ともに達成することが、リコーがデジタルサービスの会社に変貌する上では不可欠な要素になる。