マザーハウス流・新規事業の生み出し方
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、バングラデシュをはじめとした発展途上国で生産したアパレル製品や雑貨などを販売するマザーハウス。2006年の創業以来、代表の山口絵理子さんとともに同社を牽引してきた山崎大祐さん(副社長)は、佐宗邦威さんの著書『理念経営2.0』について「困っている経営者がすぐに使える」「書いてあること全てがエッセンス」と絶賛している。
一方で、マザーハウスは佐宗さんが『理念経営2.0』を執筆するうえで大いに参考にした企業の一つでもある。このたび、書籍刊行をきっかけとして、お二人による対談が実現した。その一部始終をご紹介する(第3回/全4回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。
銀座にチョコレート工場
佐宗邦威(以下、佐宗) 少し前からマザーハウスでは「IRODORI CHOCOLATE」というチョコレートを手がけるようになりましたよね。今までとは異なるカテゴリーでの挑戦ですが、どういった経緯ではじめることになったのですか?
山崎大祐(以下、山崎) あれは特殊な商品で、現場起点で生まれたプロダクトなんですよ。2020年4月に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言があって、ぼくたちはお店が開けなくなってしまいました。
ですが、マザーハウスはあのときがいちばん忙しかったんですよ。なぜなら「そのときしかできないことをやろう」と決めたから。まず、自由が制限されている状況だったので、人類が自由というものをどう獲得したのかを学んでもらおうと思って、自由の歴史についてオンラインでぼくが講義することにしました。ファッションの歴史、メディアの歴史、いまだに戦後につくられたスキームのなかで動いている日本、フランス革命のことなど、かなりいろんなことをインプットしてもらったんです。
そのうえで、みんなで新規事業を考えることにしたんです。足元を見たら「売上9割減」みたいな状況でしたから、当然ながらみんなは不安になりますよね。だからこそ、ぼくには「みんなには未来を見てもらわないと!」という意識がありました。そこで、「コロナが明けたあとにどういう社会が来るか?」「そのためにぼくらはいま、一体何をやっておくべきか?」を5人1組のチームで考えてもらって、そのうえで新規事業のピッチコンテストをやったんです。
佐宗 新規事業のピッチコンテスト! 未来志向ですごいですね。
山崎 そのコンテストで多かったのが、フード関連の事業アイデアだったんですよ。「外出できない状況では、みんなバッグは買わないよね。最後まで残るものはやっぱりフードだよね」という話になりました。そして、途上国にはまだまだ大きな可能性があるのに生産者が虐げられている食材がある。カカオやコーヒーはその代表格ですよね。そうやって話がまとまってきたんです。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というぼくらの理念に照らして、ぼくらにしかつくれないチョコレートをつくろう、と。
緊急事態宣言が解除されて、みんなは少しずつ通常業務に戻りつつありましたが、当時はまだ、さすがに現地の生産者を訪問をするのが難しい状況でした。しかたなく、オンラインで商談をして、インドネシアのスラウェシ島の農家さんからカカオを送ってもらい、どうやって自分たちらしいチョコレートをつくろうかと検討を重ねたんです。そして最終的に、銀座に工場を持つことにしました。
佐宗 えっ! 銀座にチョコレート工場があるんですか。
山崎 そうなんです。マザーハウスのほかのプロダクトは、途上国現地で最終プロダクトまでつくっているんですが、食品であるチョコレートはそういうわけにいきませんでした。どうしようかと悩んでいたのですが、そもそもマザーハウスの価値は「途上国×ファッション」にあるのだと思い至り、いっそのことMade in Ginzaのチョコレートをつくろうということになったんです。
株式会社マザーハウス代表取締役副社長
1980年、東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。日本法人で数少ないエコノミストの一人として活躍し、日本およびアジア経済の分析・調査・研究に従事。在職中から後輩の山口絵理子氏(現・マザーハウス代表取締役)の起業準備を手伝い、2007年3月にゴールドマン・サックス証券を退職。マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。現在、マーケティング・生産の両サイドを管理。また、さまざまなテーマで社外の人と議論を深める「マザーハウス・カレッジ」も主催。