「発達障害ではないか」SNSで他人を決めつける危険性 専門家が警鐘...言われた相手や当事者への影響とは
昨今、SNSで炎上の渦中にいる人などに対して「発達障害ではないか」「投稿にある言動は発達障害の特徴だ」などとする旨の書き込みがたびたび見られる。しかし、SNSの一部の投稿内容だけでは発達障害の傾向があるかどうかの判断はできず、一方的な決めつけに過ぎない。
こうした決めつけの危険性について専門家は、実際の当事者が障害をオープンにして必要な支援を受けづらくなることを指摘し、「安易に発達障害の疑いがあるなどと言うべきではない」とした。
発達障害を本人に伝えるかどうかはセンシティブな問題
発達障害とは脳機能の発達に関係する障害の総称だ。厚生労働省のウェブサイトには、発達障害として広汎性発達障害(自閉症スペクトラム、ASD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)が紹介されており、ほかにも「我慢していても声が出たり体が動いてしまったりするチック、一般的に吃音と言われるような話し方なども、発達障害に含まれる」という。
ネット・ゲーム依存の予防・回復支援サービス「MIRA-i(ミライ)」の公認心理師・臨床心理士の森山沙耶さんはJ-CASTニュースの取材に「最近、発達障害という言葉が一人歩きしていると感じます」とし、次のように見解を示した。
「発達障害の中には、ADHDやASD、LDなどいろいろなタイプがあり、その人それぞれの持つ特性は異なりますが、一括りに『発達障害』というラベリングとして広まってきてしまっています。しかし、(発達障害であるかどうかの)自己判断はできません。必要な検査などを受けて、医療機関で診断されるものです。例えば子どもの場合、親御さんと一緒に受診して検査をした結果、発達障害の傾向があると診断されたとして、それをご本人に言うかどうかはとてもデリケートな問題です。(発達障害の傾向があると伝えることで)伝え方やその人の受け取り方によってはさらに自信がなくなってしまうこともあります。逆に、強みや弱みをきちんと知ることで自己理解が深まり、必要な支援を受けやすくなることもあります。(発達障害を伝えるかどうかは)とてもセンシティブな問題なので、一般の人が数少ない言動や投稿から判断して、安易に発達障害の疑いがあるなどと言うべきではないと思います」
他人を「発達障害」と決めつけてしまうのは「レッテル貼り」
SNSなどで他人を「発達障害の疑いがある」と決めつけて投稿してしまう心理について、森山さんは「認知行動療法という心理アプローチに基づいて考えていくと理解しやすい」とし、次のように説明した。
「1つの状況に対して、その状況をどのように考えるかは、人それぞれ異なります。例えば、コップの半分に水が入っているときに、『半分も入っている』と思うのか、それとも、『半分しか入っていない』と思うのかは人それぞれ違いますし、そのときの心理状態によっても違ってきます。認知行動療法では、人には『考え方のクセ』というものがあり、そのクセが過度にネガティブであると、気持ちが落ち込んでしまったり、自分を責めてしまったり、他者に対して攻撃的な感情が強まってしまったりと、自分を苦しめてしまうと言われています。『考え方のクセ』にはいろいろなパターンがあるのですが、今回は『レッテル貼り』に近いのではないかと思います。明確な根拠があるわけでもないのに、ちょっとしたことを取り上げて、『あの人は発達障害だ』とか『発達障害だから仕事ができない』とか『空気が読めない』といったように、決めつけてしまうのがレッテル貼りです」
さらに森山さんは、発達障害だと決めつけて投稿する人は、実は発達障害に関心のある人もいるのではないかという。
「おそらく、発達障害について関心があるから、発達障害の情報をいろいろとSNSで見る。そうするとタイムラインに、発達情報関連の情報が流れてきます。ますます情報が多くなるので、より思い込みが強くなるという悪循環があるような気がしています」
必要な人が支援を受けづらくなる可能性も
発達障害だというレッテル貼りをすることはどのような危険性があるのか。森山さんは次のように見解を示した。
「(レッテル貼りのような)考え方のクセはそれ自体が絶対的に悪いものではありませんが、思い込みが強くなりすぎると、より偏見を助長してしまう可能性はあります。言われた相手も自分自身に対してレッテル貼りをしてしまい、それによって『自分は発達障害の傾向があるからダメなんだ』と自信を低下させてしまうことにも繋がると思います」
さらに森山さんは、「SNSでは『発達障害だからこの人はこういうことをしてしまう』というように、ネガティブな印象で広まってしまいがちです。発達障害であることで社会の中でうまくいかない面もありますが、能力を発揮できる特性を持つことも多くあります。そのことについて正しく認識されるべき」とし、SNSなどを通して偏見が広まることによる発達障害の当事者への影響について次のように説明した。
「発達障害であることをオープンにしづらくなります。もちろん、障害をクローズにして一般就労されている方もいます。それも1つの選択肢ですが、オープンにすることで、必要な配慮を受けることもできます。(生活や仕事の中で)どうしても難しい部分については、必要なサポートや支援を受けて補うことで、うまくやっていける可能性があります。オープンにしたい人にとっては、(発達障害だと)言えなくなることは辛いですね」