田島令子、『金八先生』で注目を集めた“過保護な母親”役。話題作のあまり小学生からも「健ちゃんのママだ!」
『地上最強の美女 バイオニック・ジェミー』の主役・ジェミーの吹き替えをはじめ、アニメ『ベルサイユのばら』のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ、『クイーンエメラルダス』のエメラルダスなど声優としても知られている田島令子さん。
声優として人気を集める一方、映画『人間の約束』(吉田喜重監督)、映画『話す犬を、放す』(熊谷まどか監督)、『3年B組金八先生』(TBS系)など多くの映画、ドラマに出演している。
◆初めてのベッドシーンは不安だったが…
1986年、映画『人間の約束』に出演。この映画は、三世代が同居する森本家で亡くなった認知症の祖母が自然死ではなかったことから、それぞれが抱える問題がしだいに明らかになっていく。田島さんは森本家の長男・依志男(河原崎長一郎)の愛人・冴子を演じた。
「(吉田)喜重さんはすごく紳士で、映画監督という感じがしなかったですね。大学の教授のような方でした」
−田島さんは、キャリアウーマンの先駆けみたいな役でしたね−
「河原崎さん演じる依志男の愛人役で、一度は別れてアメリカに行くんですが、帰国してまたヨリが戻って…。最初に監督にお会いしたときにベッドシーンがあるので、『私は胸が豊かではないので自信がないんです』とお伝えしたんです。そうしたら、『いいえ、豊かなほうが残酷ですよ』っておっしゃって。
それはなぜかというと、河原崎さんが、私が演じる愛人の乳房を見て自分の病み衰えた母親を想うシーンなんです」
−お顔もプロポーションもとてもきれいでした−
「いえいえ、本当に恥ずかしくて。初めて映像で脱いだので緊張しました。舞台では『おうエロイーズ』でも脱いでいるんですよ。でも、あのときは、私がドレスをスッと落とすと、アベラール役の仲谷昇さんがマントでサッと隠す。だから一瞬だったんです。
でも、『人間の約束』では、私がベッドにいる河原崎さんのところに歩み寄りながらスリップを肩から下ろしていくシーンで、緊張のあまり息を止めていたみたいで、監督のカットがかかったときに思わず『ハーッ』と。
そうしたら照明さんたちも『ハーッ』って…(笑)。現場での一体感を感じましたが、息を止めるなど役者としては真にお恥ずかしいエピソードです。
喜重監督はとても優しくて知的な方でございました。あの映画は『カンヌ国際映画祭』にも出品されたんですよね。
私がご一緒したのは河原崎さんだけでしたけど、映画の宣伝でなぜか三國(連太郎)さんと二人でバラエティ番組に出たことがありました。このとき初めてお目にかかって、人を包み込むようなやわらかい空気を纏(まと)っていらしたのを覚えております」
◆金八先生で演じた過保護な母親役が話題に
田島さんは、『3年B組金八先生』(TBS系)第3シリーズと第5シリーズにそれぞれ別の過干渉な母親役で出演。
第3シリーズでは、息子のすべてを管理しようとする過保護なママ。第5シリーズでは、引きこもりの長男を溺愛し、成績優秀な次男はないがしろ。長男の自立をめぐって母子ゲンカとなり、長男が持ち出した包丁を取り上げようとした次男に腹部を刺されてしまうという衝撃の展開に。
「第3シリーズも、第5シリーズも過保護な母親役でした。第5シリーズは、あんなに膨らむ役じゃなかったみたいです。次男の健ちゃん(風間俊介)は、すごく優等生で良い子なんですけど、陰で結構悪いことをしているんですよね。
(脚本家の)小山内(美江子)先生が最初に健ちゃんの家庭を描いたときは、長男の部屋のドアの前にスッと食事を置くと、中に引きこもりの長男がいるというシーンだったんです。
人気ドラマだったので、『あの家庭って何だろう?』という視聴者からの声が上がって、昔だから投書がいっぱい来たんですって。小山内先生は詳細にリサーチなさって脚本をお書きになるとお伺いしておりました。あの家庭のリアル感は小山内先生ならではと拝察いたしました」
−2年間引きこもりだった長男が、ようやく独り立ちをすることになるのかと思ったら、お母さんがまた干渉して−
「そうです。過保護で干渉しすぎるんですよね。それで、父親は家庭を顧みないで仕事をしている企業戦士」
−次男の健ちゃんは、お母さんに振り向いてもらえなくて複雑な想いを抱えていて−
「陰で悪いことをしていてね。『健ちゃんはいい子ね』『健ちゃんはいい子よね』って、あれがいけないんですよね」
−最終的にお母さんが包丁で刺されてしまって−
「そうです。あれは行き違いで、もみ合っているうちにそうなってしまって…」
−その前の第3シリーズでも、息子に過干渉なお母さん役でした。高校に受かるまではと、大好きなバイオリンも取り上げて、女の子の友だちとも付き合ってはいけないと。それでその息子も包丁を手に持って庭に突き刺す−
「あれもものすごく過保護なママでしたね。でも演じていておもしろかったです。役者は、自分の範疇(はんちゅう)にない役ほど魅力を感じるものです」
−インパクトのある役でした−
「そうですね、金八先生は本当に人気番組でしたよね。その後何年か経って、私が信号待ちをしていたとき、自転車に乗った小学生の男の子が私のことを見て驚いて、『健ちゃんのママだ!』って。『そうよ』って言ったら、固まっていましたね(笑)」
−すごい影響力がありましたよね−
「そうですね。あと『GTO』(フジテレビ系)というドラマでは、教師と生徒のいじめの首謀者である女生徒・みやびのママでPTAの会長を演じました。
みやびは、過去に付き合っていた恋人と教師の間に起きたある事件をきっかけにして大人を嫌い、大人を信用しなくなって、教師と生徒のいじめの首謀者となる問題児。
みやびの常套句、『ママに言いつけるからね』。そのママとして途中から登場するんです。他の仕事の撮影現場で、ガングロちゃんたちに『みやびのママだ!』って言われて(笑)」
◆週に2回はプールで1000メートル
2017年に出演した映画『話す犬を、放す』(熊谷まどか監督)では、43歳になる娘で売れない女優・レイコ(つみきみほ)にようやく映画出演の仕事が舞い込んだとき、認知症を発症する母・ユキエを演じた。
「認知症の役というのは初めてでしたから、とても演じがいがありました。あの映画は、まどか監督のお母さまをモデルにアイデアを得て脚本をお書きになったんです。お母さまからはたくさんのものをいただいたとおっしゃっておりました。
私の母は99歳で大往生。子どもはもっと生きていて欲しいと思うけれど、それは多分わがまま。『こんなに長生きしてくれてありがとう』そう思っています。『本当にお母さん、ありがとうございました』って」
2022年には映画『千夜、一夜』(久保田直監督)に出演。この映画は、北の離島にある港町で30年前に突然姿を消した夫の帰りを待ち続けている主人公・登美子(田中裕子)の日々を描いたもの。田島さんは水産工場で働く登美子の同僚・境妙子を演じた。
−イカの手さばきがすごかったですね−
「あれは、現地に早く入って教わったんです。私の隣にいらした、てっちゃんという方は、撮影で使用した工場で実際に働いている方なんです。ですから、イカの捌(さば)き方を教えてくださって、自然体でステキでした。
久保田監督は、数多くの作品を手がけるドキュメンタリー畑の方で、佐渡の空気感溢れる中で境妙子役を演じられて本当に感謝しています」
−主人公・登美子が30年間、夫を待ち続けるというのもすごいことですね−
「そうですね。夫が何で突然姿を消してしまったのか、その理由が知りたい。生きているか死んでいるかもわからないというのが一番残酷ですよね」
ドキュメンタリー出身の久保田監督は、年間約8万人とも言われる日本全国の警察に届けられる行方不明者の「失踪者リスト」から着想を得て、8年もの歳月をかけてこの映画を完成させたという。
同年、田島さんは、映画『そばかす』(玉田真也監督)、映画『TELL ME〜hideと見た景色〜』(塚本連平監督)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)などに出演。公開40周年を記念して、1982年に公開されたアニメ映画『スペースアドベンチャー コブラ』(出粼統監督)も4K映像でリバイバル公開された。今月8日(火)には『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』(テレビ朝日系)に出演。
「私は、織田(裕二)さんとはすごくご縁があって、何回も共演させていただいているんです。『監査役 野崎修平』(WOWOW)とか『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)、織田さんが若いときにも渋谷スタジオでご一緒したりね。『SUITS/スーツ』のときは、私は織田さんの相棒役・中島裕翔(Hey! Say! JUMP)のおばあちゃん役だったんです。
織田さんは本当にすばらしい方です。気を遣ってくれるし、何事にも一生懸命で、すごくナイスガイ。『SUITS/スーツ』のときに『さらにカッコよくなりましたね』って言ったら『これからも精進します!』っておっしゃってらして(笑)。『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』でまたご一緒できてうれしかったです」
−コンスタントにお仕事をされて来ていますが、健康の秘訣は何ですか−
「プールが大好きで、週に最低2回は行って1000メートルは泳いでいます。もう37年くらい続けています。この職業は、自分の基礎体力をいつも整えて維持していなければいけないと思っているわけです」
−カッコいいですね−
「だから私は、『外出するときはお家をきれいにして出る』。まるで“死出の旅”のように…。いつどこで不慮の事故に遭うかもわからないし。そういうときに、警察の方が家に入ったらと考えるわけですよね。家が汚いとその人の人となりがわかるでしょう? ですから、想像を促すような手紙や写真はすべて燃やします(笑)」
−いつ頃からそのようにされているのですか?−
「一人住まいをしたのが24歳でしたが、暮らしているうちに徐々にそのように思うようになったんでしょうね」
−今後やってみたいことは?−
「私は、もともと舞台で始まっていますから、ちゃんとセリフがしゃべれる間に舞台に立ちたいんです。記憶やテンポの問題をクリアにして挑んでいけるうちに挑戦したいんですよね」
−でも、ブランクもなくずっとお仕事を続けてらして、おからだも整えて−
「ただ、年々体力も少しずつ落ちてくるわけですし、不安はありますよね。でも、考えても仕方ないからポジティブに生きています」
目指す演出家の舞台は積極的に観劇しているという田島さん。明るくてバイタリティ溢れるとてもステキな方。潔い生き方がカッコいい。(津島令子)