記者会見終了後、撮影に応じる(左から)ハヤシさん(仮名)、志賀泰伸さん、中村一也さん、平本淳也ジャニーズ性加害問題当事者の会代表、石丸志門同副代表、二本樹顕理さん、イズミさん(仮名)=4日、東京都千代田区の日本記者クラブ(写真:時事通信)

今年3月に配信された英BBCのドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』、およびそれに続く元ジャニーズJr.の岡本カウアン氏の記者会見により、ジャニーズ元社長の故・ジャニー喜多川氏による性加害が大きな問題となって5カ月。

その後も、新たな告発者が続いたり、ジャニー氏を擁護する著名人の言動が物議を醸したりはしたが、報道されるニュースの量は徐々に減っていき、日々新たなニュースが出てくる中で、人々の関心も別のところに向かっていたように見えた。

“通常営業”を続けるだけでは済まなくなっている

ところが8月4日に行われた国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会(以下「国連作業部会」)、およびそれに続く「ジャニーズ性加害問題当事者の会」(以下「当事者の会」)の記者会見によって、潮目が大きく変わっている。

メディアやスポンサー企業(広告主)など、ジャニーズ事務所と取引のある企業も、もはや「タレントに罪はない」「推移を見守る」と表明しながら、“通常営業”を続けるだけでは済まなくなってきている。

東洋経済が行った企業へのヒアリング調査によると、明確な回答を避けた企業、積極的な対応を行っていない企業もあった。一方で、ジャニーズ事務所に対して対応や問い合わせを行っている、あるいは行う意向のある企業も見られた。

国連も調査「ジャニーズ問題」に企業はどう対応? CMスポンサー企業や日テレ、電通に尋ねた』(8月5日配信)

企業は、本問題に対して、今後どのような向き合い方をすべきなのだろうか?

記者会見の4つのポイント

国連作業部会の会見は、日本の政府と企業の人権問題に関する広範なものだったが、記者の質疑応答はジャニーズの問題に始終しており、本問題に関する日本の記者の関心の高さがうかがえた。

特にテレビ局は、本問題をこれまで積極的に報道はしてこなかったが、現場レベルでは、「報道したい」という意識は強いようにうかがえた。


ジャニーズ性加害問題で国連人権理作業部会が会見(写真:つのだよしお/アフロ)

さて、本記者会見において、ジャニー氏の性加害問題について重要なポイントは下記の点である。

1. ジャニーズ事務所側の調査に対して、透明性・正当性に疑念があることが示された

2. 政府主体での被害者への救済の必要性が訴えられた

3. 「メディアがもみ消しに加担した」可能性が言及された

4. 被害が数百人に及ぶ疑いがあることが言及された

「推移を見守る」と表明してきたメディアやスポンサー企業にはこれまで、「ジャニーズ事務所は再発防止特別チームを作って対応している最中だから、報告まで待とう」というのがしばらく静観する根拠としてあった。しかし、国連作業部会の会見で、特別チームの対応に対して疑義が示され、その直後の「当事者の会」の会見でも、実際に特別チームのヒアリングを受けたメンバーによって対応の不備を指摘されている。

静かに見守っているだけでは、事態は解決へと向かわない懸念も出てきている。

記者会見を受けて、これまでこの問題の取り扱いに積極的でなかったテレビ局も報道を行うようになってきている。今後、メディアが十分な報道を行わなければ、国際的な批判も浴びかねなくなっている。

報道が増えてくると、ジャニーズタレントをCMに起用している企業のリスクも大きくなってくる。起用していること自体に対する風当たりが強くなるだけでなく、ジャニーズ事務所に関するネガティブな報道がされた直後にジャニーズタレントが出演する企業CMが流れる確率も高くなり、CM効果の低下につながる懸念もある。

国連作業部会の提言は強制力のあるものではないが、外圧としての影響力は十分に大きい。ジャニーズ事務所と関係がある企業にとっても、「他人事」では済まされなくなっている。

今後想定されるいくつかの展開

ジャニー氏の性加害問題は、今後も容易には収束しないだろう。今後の大きな動きとしては、以下のことが想定される。

1. 「当事者の会」の影響力が強まる

2. ジャニーズ事務所やメディア、取引先企業にさらなる「外圧」がかかる

3. 政府が本腰を入れて本件に介入する

まず1についてだが、筆者は国連作業部会の記者会見はもちろん、その直後の「当事者の会」の記者会見も全て視聴したが、「当事者の会」はかなり戦略的に動いていることがうかがえた。一方で、当事者としての切実な思いを熱く語っており、その声は世論を動かす力を持っていたように思う。

今後、まだ声を上げていない被害者はジャニーズ事務所の特別チームではなく、「当事者の会」に連絡をしてくる可能性も高い。ネットワークはさらに拡大していくことが想定される。

次に、2についてだが、本件が日本で問題化したのは、海外メディアであるBBCのドキュメンタリーだった。今後も忖度や圧力と無縁の海外メディアが積極的に報道して、それが日本に逆輸入される可能性が想定される。

日本のメディアが積極的に報じなくなったとしても、それで問題が鎮静化するとは限らない。

2024年開催予定の「ワールドカップバレー」において、参加国からの抗議により、予定していたジャニーズグループの起用が取りやめになったという報道も出ている。企業のタレント起用においても、すでに「外圧」は働き始めている。

3については、上述の通り、国連作業部会が政府主体での被害者救済を呼び掛けている。これまで政府は、法整備等の包括的な対応を行っていたが、当案件については「個別の事業者の問題」として、独自の対応は講じていなかった。

すでに立憲民主党は個別にヒアリング活動等を行っているが、国連作業部会の提言を経て、政府も個別対応へと動き始める可能性もある。

「当事者の会」も、状況を進展させるために、国内外のさまざまな組織に働きかけを行っていくことになるだろう。

これからのことを考え合わせると、「事態が鎮静化するのを静観する」というリスク回避的な行動を取るほうが、企業にとってのリスクはむしろ高まってしまうように思える。

ジャニーズ事務所との取引企業はどう動くべきか

ジャニーズ事務所側もこの事態を放置しているわけではなく、記者会見のあった8月4日に、8月末に特別チームが提言を行うこと、さらにそれを受けてできるだけ早く記者会見を行うという趣旨の表明を行っている。

故ジャニー喜多川による性加害問題に関する件について

特別チーム、あるいは事務所側がどの程度までジャニー氏の性加害行為を認めるかは未知数だ。

しかしながら、国連作業部会のヒアリングは「ジャニーズ事務所の代表」にも行われたとされており、それを踏まえて被害が数百名に及ぶと表明されていることを考えると、事務所側は性加害が行われたこと自体は認めることになるだろう。

また筆者には、特別チームの提言、および記者会見の日程は、ジャニーズタレントが出演する「24時間テレビ」(8月26、27日放送予定)以降に設定しようとしているようにも思えてならない。

もちろん、発表の準備に時間がかかることもあるだろうが、「24時間テレビ」の前に公表することがリスクとなるような情報が含まれている可能性も感じられる。

それでは、今後ジャニーズ事務所との取引企業はどう動くべきなのだろうか?

まず、メディア企業は忖度なく報道を行い続ける必要があるだろう。記者会見の内容など、事実関係を伝えるだけでなく、独自に取材を行ってしっかり視聴者、読者に情報を送り届けることが求められる。

たとえ、それがジャニーズタレントを日ごろから多く起用するメディアなどには短期的な不利益をもたらすとしても、「メディア企業」としての長期的な信頼性を獲得することの重要性を考えれば、メディアがどちらの対応をすべきかは明らかだ。

CM等にジャニーズタレントを起用しているスポンサー企業については、すぐに契約を破棄する必要はなく、8月末の特別チームの報告、それに続く事務所の記者会見を待つという判断で良いだろう。

ただし、現状の特別チームの対応が十分ではないという現状を踏まえると、それを待たずに、事務所側に誠実な対応を求める、東洋経済の記事(問3)にあるような「問い合わせや確認を行う」といった対応を行うことは重要となってくる。

特別チームの提言、ジャニーズ事務所の記者会見次第では、タレントの継続や新規起用を行わないという判断もあるだろうし、場合によっては契約中のタレントの途中解約という可能性もあるかもしれない。

ただし、最も好ましい幕引きは、ジャニーズ事務所が真摯な対応を行い、十分な経営責任を取ることで、被害者、所属タレント、ファン、関係企業への影響を最小限に留めることであるのは言うまでもない。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)