キャリアで悩む原因は「自分自身」や「やりたいこと」への理解不足にある。「資格至上主義」に陥る理由と、脱却方法を紹介します(写真:kouta/PIXTA)

就職、転職、起業、独立……キャリアで悩む原因は「自分自身」や「やりたいこと」への理解不足にあります。仕事選びがうまくいかない人の陥りがちな「資格至上主義」とその脱却方法とは何か? 『3ステップで簡単! 「やりたいこと」が絶対見つかる 自分理解ワークBOOK』を監修した、チャンネル登録者数22万人超のキャリア系YouTuber・宇都宮隆二(Utsuさん)が解説します。

“資格オタク”を待ち受ける不都合な現実

将来は広告関連の仕事に携わることを夢見て、地方から上京してきたAさん(20歳)は、都内の有名私立大学に在籍しています。学業優秀でサークル活動やアルバイトにも積極的だったAさんは、就活も楽勝だと考えていました。

しかし、いざインターンシップを開始すると、学歴や外見、コミュニケーション能力など、就活に有利そうなスペックを持つ学生がゴロゴロいるのです。Aさんは、日に日に自信を喪失していきます。

ある日、Aさんは、就活を有利に進めるうえでプラスになるスキルを身につけようと、ネットで情報収集することにしました。スマホに「就活 有利」と入力すると、検索候補(サジェスト)のトップに「就活 有利 資格」と表示されます。

「確かに、仕事で使える資格をたくさん持っていれば、企業側にアピールできる!」

そう考えたAさんは、いろいろな資格を取るための勉強を開始。順調に取得を進めていきました。

履歴書の資格欄が1つずつ埋まるたび、憧れの広告会社への内定が近づくような気がします。再び自信を取り戻したAさんは、余裕たっぷりに就活を開始しました。

ところが、実際に就活を開始すると、資格は内定の決定打にならないことを思い知らされることになるのです。

資格があれば「市場価値が上がる」?

昔から「資格があれば市場価値が上がって就活で有利になる」という考え方が存在します。検索候補のトップに「就活 有利 資格」と表示されやすいのも、それを信じた多くの人が就活に有利な資格をネットで検索するからです。

資格は「◯◯のスキルや知識を持っています」ということを、客観的に保証するもの。自信をつけるためにも、就活に有利な資格を検索したくなる気持ちはわかりますが、人事採用の現場で活動していた経験を持つ私に言わせると、新卒でも転職でも、資格が採用の決め手になることはほとんどありません。

もちろん、資格が応募条件の求人もありますが、その場合は応募者全員が有資格者になるので、やはり資格が採用の決定打にはなりません。

そもそも「市場価値」とはマーケットにおける商品の評価額のこと。バブル崩壊後に転職情報サイトで、「あなたの市場価値を見てみよう」といったフレーズで、推定年収を算出する際に使うようになりました。個人情報を入力してもらうのに便利なキーワードだったからです。

ただし、労働者の市場価値はさまざまな側面から算出されるため、「資格があれば市場価値が上がる」という考え方は現実的ではありません。

私は過去に企業の人事採用の責任者を務めたことがありますが、その企業のみならず、採用のお手伝いをした多くの企業でも、最重要視されるのは「入社後に何をやりたいか、何ができるのか」というビジョンでした。

企業は、入社後のビジョンが明確な人材を求めているのです。

そして、ビジョンの有無やその解像度の高低は、自然と「顔つき」に現れるものです。

「入社後に何をやりたいか、何ができるのか」が明確ということは、応募する企業についてよく調べていること、さらに自分のスペック(性格、能力、特徴など)をちゃんと把握していることになります。

そうした人材は採用側からの質問に適切に回答できるだけでなく、自分が知りたいことを整理して的確に質問することができます。

つまり、面接の質疑応答が有意義かつスムーズに進むのです。

求人採用は企業にとって必要不可欠ですが、お金と時間の負担が大きい活動でもあります。そのため、せっかく採用した人材が短期間で退職することは企業にとって大きなダメージとなります。

応募者が持つビジョンの解像度が高ければ、入社後のミスマッチを面接の段階で確認しやすいため、それが表れる「顔つき」を採用担当者は重視するのです。

そのため就活を始める際は、まず「自分は何をやりたいのか、何ができるのか」を確認する必要があります。それが人材市場における価値決定に大きく影響してくるのです。

市場価値は「やりたいこと」の把握で高まる

自分の「やりたいこと」を考えるとき、注意しなければならないのが「好きなこと」や「得意なこと」との混同です。

「好きなこと」は、努力や情熱を惜しみなく注げる対象のこと。ただし、必ずしも自分の性格や才能と合致しているとは限りません。

一方、「得意なこと」はストレスや苦労がなくできること。自分の才能を活用できることとも言い換えられます。

そして、「好きなこと」と「得意なこと」の両方の要素を備えているのが、「やりたいこと」になるのです。

就活がうまくいかない人や、就職後のミスマッチに悩む人は、「やりたいこと」を「好きなこと」または「得意なこと」だと勘違いしていたり、「好きなこと」と「得意なこと」のバランスが悪い可能性があります。

ただし、「得意なこと」にも注意が必要です。

先天的に備わっている「才能」のおかげで、「得意なこと」はさまざまな仕事に応用でき、時代に左右される心配はありません。しかし、学習によって後天的に身につけた「スキル」や「知識」によって「得意になったこと」は、技術の進歩によって価値が下がるリスクが高くなります。

また、人間は周囲の意見に影響されやすい生き物です。

「△△くんはコミュ力が高いね」「◯◯さんはまじめだね」といった何気ない褒め言葉で、自分でもそのように思い込んでしまうこともあるでしょう。自分が本当に「好きなこと」や「得意なこと」、そして「やりたいこと」は何なのか、じっくり考える時間を持つことが大切になります。

もしかしたら、意外な自分自身に気づけるかもしれません。

「やりたいこと」がある人間は強い

昨今、外資系IT企業などでは積極的なリストラが始まっています。これまでは事業が拡大していたので採用の間口が広かったのですが、景気悪化に伴い、雇用者の人数を調整する必要が出てきたのです。


当然のことながら、真っ先に切られるのは活躍できていない社員。求められる業務が「できる」状態になっていない人から解雇されていきます。

ただし、能力的に優れていなくても首を切られない人というのが、一定数存在します。それは、「やりたい」という情熱を持った人材です。

私も過去に企業で人事を担当していましたが、人事権を持つ人間が組織に残すのは、「できない」人の中でも「やりたい」という情熱を持って仕事をしている人です。

資格や経験を評価されて入社しても、人員調整の時点ですでに「できない人」と評価されています。こうなると、伸びる余地は「やりたい」の中にしかないと考えるからです。

採用でも人員調整の場面でも、「やりたいこと」がある人間は強いのです。

(宇都宮 隆二(Utsuさん) : YouTuber)