2011年のアメリカ国債格下げでは、日経平均は9000円台からさらに下落した。今回も当時の記憶がよみがえったのかもしれないが、さすがに下がりすぎだったかもしれない(写真:アフロ)

日経平均株価は7月3日に年初来高値3万3753円をつけてからモミ合いに入っていたが、同月末に3万3000円台を回復した。すると、気の早い筋の買いもあり、翌8月1日には3万3476円と、上記の高値にあと277円に迫って調整完了かという動きを見せた。

しかし、話はそう簡単ではなかった。とくに「上値につられ、つい買ってしまった」という感じではなかったはずだが、日経平均は上昇したあとの8月2日には今年最大の下げ幅となる前日比768円安を記録、3日も同548円安。結局2日間で1316円安となり、市場の雰囲気は一変した。

アメリカ国債格下げで「むしろ日本株下落」の不思議

これは報じられているように、大手格付け会社のフィッチ・レーティングスがアメリカ国債を格下げしたのが原因だ。ただ、NYダウ工業株30種平均は2日に同348ドル安、3日に同66ドル安で、4日の同150ドル安を加えても計564ドル安と、とくに「格下げショック」と言うほどの下げではない。

では、なぜ日経平均が2日間で1316円も下げたのか。世界の中で日本株の優位性が認識されていたではないか。

しかも、外国人投資家はここ3年、7月は売り越しになっていたが、今年の7月最終週の「対内証券売買契約」(財務省ベース、外国人)は約1960億円の買い越しだった。買い越しは「5週連続」となっている。

また証券取引所ベースでも738億円の買い越しで、やはり外国人買いは途切れることなく続いている。それなのに、なぜアメリカ本国よりも過剰な反応が起きたのだろうか。

その理由について、兜町筋は口をそろえて「2011年を思い出したからだ」と言う。2011年3月11日の東日本大震災は日本人にとって、記憶から消えることはないだろう。これは投資家にとっても同じだ。

この年は前年から「ソブリン危機」が叫ばれ、とくにギリシャ危機によってそれは最高潮に達していた。そんなときに起きた大震災だ。その恐怖が冷めやらぬ8月5日にアメリカ国債の格下げがあった。

このとき格下げしたのは前出のフィッチ・レーティングスではなく、S&P(スタンダード&プアーズ、現S&Pグローバル)だったが、当時も「トリプルA」から「ダブルAプラス」に格下げ、その理由も同じく債務上限問題で、財政赤字削減計画が不十分というものだった。

この格下げが世界に与えた影響は甚大で、「2011年アメリカ国債ショック」として歴史に刻まれている。このときの日経平均も、8月4日の9659円から直後の3日間で8656円へと1000円幅、約10%の急落に直面した経験が日本の多くの投資家に刻まれている。

米国株の反応を見れば影響が軽微なのは明らか

しかし、今回の格下げは、アメリカ経済に対するジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の「事実上のソフトランディング宣言」のあとにあり、唐突感が否めない。

ジャネット・イエレン財務長官は「古いデータに基づいている」と言い、ノーベル経済学者のポール・クルーグマンNY市立大学大学院センター教授など多くの専門家は「馬鹿げている」という趣旨の発言で一致している。

2011年と状況が異なっているのは明らかで、米国株の反応が示しているとおり、ショックというほどのことではない。アメリカよりも日本が不安や波乱になることはない、と言いたい。

では、日本株もすぐに反発でいいのだろうか。例年、8月と9月は「低調な月」といわれる。事実、統計で見ても、日経平均の月間騰落率はこの2カ月が断トツでワーストを争っている。とくに8月は太平洋戦争終戦の月であり、お盆という先祖の霊に向き合うときで、厳粛にならざるをえない。

今回は12年前ほどではないにせよ、アメリカ国債の格下げというやはり予想外の材料で波乱のスタートとなった。だが、日本の投資家はある程度の調整は覚悟しているはずだ。それでも、上昇を期待する向きは「このモミ合いがいつまで続くのか、いつまで我慢すればいいのか」と迷っていることもまた事実だろう。

反転の起点になるのは「ジャクソンホール会議」?

その悩みを解決するのは、アメリカのワイオイミング州で開かれるジャクソンホール会議(24〜26日)だろう。

7月の「中央銀行ウィーク」は終わったが、結局、次の9月以降の金融政策はすべて「データ次第」という課題を残した。そのデータの蓄積に、「言霊(ことだま)」として世界に力を与えるのがジャクソンホール会議ではないか。

呪術めいていると笑われそうだが、兜町では、真剣にこの会議での心理が世界の9月以降の金融政策を決めると見る向きが少なくない。やはりパウエルFRB議長の講演が大きく注目され、筆者もこの講演で相場の流れも変わるとみる。

もちろん、9月からの急騰を保証しているわけではなく、例年の相場サイクルのイメージからいっても、「本格的な2段目の上昇は10月から」とみるのが無難かもしれない。

その間、相場にたまったストレスはおそらく個別株に向うはずだ。日本の上場企業の2023年4〜6月期の純利益は、8月4日時点で前年同月比約20%増となっている。

6月の日銀短観では大企業製造業の為替想定レートの平均は1ドル=131円61銭で、全産業でも132円43銭だった。現在の為替水準と比較すると、やはり円安効果は大きく、円安メリットが大きい企業ほど大きく買われるだろう。

もちろん、これからの金融政策はその都度「データ次第」で決まるので、ジャクソンホール会議までの経済指標には注目だ。もちろん、アメリカ以外の指標もしっかり見ておきたい。

筆者が直近で注目しているのは、9日に発表される国内の7月マネーストック、中国7月CPI(消費者物価指数)・PPI(生産者物価指数)、10日の7月国内企業物価指数、アメリカ7月CPI、11日の同7月PPI、同8月ミシガン大学消費者態度指数などだ。

このコラムで毎回訴えていることだが、30年の眠りから覚めた今回の大相場は始まったばかりで、1年や2年では終わらない。焦らずにしっかり見極めて行動しよう。とにかく下げたら弱気にならず買えばいいと思っている。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)