「五島市」がゴルフに力を入れる理由とは?(写真:五島市提供)

長崎県の離島、五島列島――。

五島と言えば「釣りの聖地」といわれ、2018年に世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として登録された教会があることでも知られるようになった。

テレビドラマにも登場した「大瀬埼灯台」はインスタ映えスポットとして紹介されている。また、日本三大うどんの1つ(諸説有り)という「五島うどん」などの名物も聞いたことがあるかもしれない。


「五島うどん」が有名だ(写真:五島市提供)

ゴルフ場を利用して「島おこし」

その五島列島の最大の島、福江島にゴルフ場がある。五島カントリークラブ(CC)で、1971年に9ホールで開場しているというから、歴史は古い。1990年に、日本プロゴルフ殿堂入りしている往年の名選手、河野高明プロの監修で9ホールが加わり、18ホールのゴルフ場になっている。

そのゴルフ場を利用して地域創生「島おこし」をしようと、同CCがある五島市が「五島市のゴルフ資源を活用した観光事業の造成」事業に動き出している。

同事業について、五島市地域振興部文化観光課観光物産班の松野尾祐二氏に聞いてみた。

――五島CCを活用した島の活性化をしようというきっかけは?

松野尾氏:五島列島は「国境離島」ということで、雇用を生む事業や観光事業などに国から補助金が出ます。国境に面している島が無人島になっては防衛でも問題が生じます。観光事業として、五島にいらした方の滞在泊数を伸ばすために着地型旅行商品を促進しようと考えました。

五島は元々釣りで知られていましたが、ゴルフもその1つとして面白いのではという事になりました。島にあるゴルフ場でプレーしてもらえたら1泊増える、酒蔵巡りや世界遺産の教会を見てもらって、2泊、3泊と増やしていく、ということを目指しています。

――着地型旅行商品とはどういうものですか。

松野尾氏:いわゆる「オプショナルツアー」のイメージです。五島に来た方が現地で申し込めますし、事前にも申し込めます。五島にゴルフ場がある、という事を知らない方が多いと思いますので、ゴルフ場がある、プレーできるという事を認識していただけるように事業を支援していきたい。

――ゴルフで地方創生事業というのは、市でも賛否があったのでは。1900万円を予算化したとのことですが、反対はなかったですか? また、予算をどう活用していきますか。

松野尾氏:事業個別の賛否ということではなく、全体の予算案の中での採決ですので、賛成多数で可決されました。

予算は、ゴルフだけではなく、釣りも合わせた事業への支援になります。ゴルフでは今年度は、だれでも参加できるゴルフ大会「五島市長杯椿カップ」(来年2月)の開催、モニターツアーの実施やメディアへの露出などを考えています。11月、12月ぐらいには具体的な旅行商品ができる予定ですので、その告知なども行います。

予算1900万円の本気度

釣りも含めた予算とはいえ、1900万円という数字に、五島市の「ゴルフで島おこし」に対する「本気度」が見えてくる。今年5月に事業の企画募集・審査を行い、ゴルフ、釣り関連事業の業者も選定している。

五島CCの入場者は2022年で1万8540人。うち島内ゴルファーが1万2521人、島外からは6019人で、ここ数年は2:1の割合で推移している。

五島市が受け取るゴルフ場利用税交付金は年500万円ほど。日本で一番多くのゴルフ場を抱える千葉県の市原市ではゴルフ場利用税交付金は6億円超になる。

この交付金の使途は自治体の自由なのだが、『コース数日本一「市原」のゴルフで街おこしの全貌』で紹介した市原市が日本プロゴルフ協会(PGA)と連携して始める、主にジュニア育成を目的としたゴルフ関連事業でも数百万円ほどの予算だった。

それでも画期的といえるのだが、五島市はゴルフ場利用税交付金の4倍近い額をゴルフと釣りの事業活性化のために投資をしようとしている。交付金と事業支援が直結する訳ではないが、自治体予算という枠組みの中ではさらに画期的なことだ。

全国の自治体のどこもそうだが、五島もコロナ禍で観光が打撃を受けてきた。現在、全国的には外国人観光客の受け入れも始まって徐々に回復してきている。各自治体で観光客誘致にアイデアを絞っているが、五島市はそれをゴルフと釣りにスポットを当てた。

五島市では、コロナ前は年間25万人ほどの観光客が訪れていたが、コロナ禍で11万人台に落ちた。昨年は16万6979人まで回復。「まずは(コロナ前の)25万人を目標にしたい」(松野尾氏)。

ただ、外国人観光客、インバウンド需要は少なく、昨年も延べ宿泊客は1000人に満たない。「世界遺産もあるので、インバウンドも期待していますが、予算も限られているので、どこにどうPRしていいのかがはっきりしないのです」(松野尾氏)と言う。

アクセス面で劣る五島

島というと、沖縄のゴルフ場は台湾や中国、東南アジアなどのゴルフ客を取り込んできている。国境の島なので、中国、韓国などは近いが、船を含めて直行便がないのでアクセス面では沖縄のようにはいかないだろう。

五島への船便や航空便が出ている長崎や福岡までは、日本人観光客も外国人観光客も多く来ており、それを呼び込みたいところだ。

今の外国人観光客を見ると、以前なら観光地とはいえなかったようなところや、日本人でも知らないようなところでも、SNSなどで評判が広まってにぎわう、という事も多い。景色のいい五島CCや映えスポットもあるので、SNSの利用も効果がありそうだ。


多くのホールからは海が見えてロケーションもいい(写真:五島市提供)

五島列島の福江島にゴルフ場があることを知っている方はそう多くはないと思われる。このゴルフ場、先述したが1971年に9ホールで開場した歴史あるコース。五島市三井楽出身のプロ野球ヤクルトの名物オーナーだった故松園尚巳氏との縁で、1960〜1970年代に活躍し、1970年にはマスターズで12位という当時の日本人最高成績を挙げるなどした河野高明プロが、1990年に残り9ホールを監修、開場。

多くのホールからは海が見えてロケーションもいい本格コースだという。筆者も含めて、回ってみたいと思う人もいるのでは。

ちなみに五島CCのプレー料金は、大手予約サイトによると平日1万円前後、土日祝日1万5000円前後で、ジュニアも2000円かからずにプレー出来る。レンタルクラブやレンタルシューズもあり、福江空港、福江港からの無料送迎も行っている。

ゴルフと釣りの親和性は高い?

ゴルフをする人の中には釣りも好きという人も多いのではないだろうか。

プロゴルファーにも、趣味は釣りというプロもいる。男子ツアーの選手を紹介するオフィシャルガイドを見ると、ツアーを主管する日本ゴルフツアー機構の青木功会長や中嶋常幸プロ、片山晋呉プロといった永久シード選手をはじめ多くの選手が趣味欄に「釣り」と記しているように、ゴルフと釣りは親和性がある。


釣りの聖地といわれている五島列島(写真:五島市提供)

ゴルフと釣りをセットで、またはゴルフに来た人に釣りを勧め、釣りに来た人をゴルフにも誘い込むというのは、確かに観光客側が滞在を延ばす「理由づけ」になりえる。

また、五島市には高浜海水浴場など白砂の海水浴場もあるので、補助金などを活用できるようであれば、学生の夏のゴルフ合宿などの需要もあるかもしれない。釣り部というのがあるかどうかわからないが、たとえば釣り合宿に来た学生たちをゴルフに誘い込めば、新たなゴルファーが誕生するかもしれない。


白砂の高浜海水浴場(写真:五島市提供)

「五島は釣りの聖地として認知されてきていますが、今後はゴルフでもそうなってくれたら」と松野尾氏はいう。

多くの自治体が、コロナ後の観光需要を取り込もうとしている。市内に1つだけあるゴルフ場に白羽の矢を立てた五島市の取り組み。今後の推移によっては、ゴルフ場が「観光資源」になりうることを示してくれる機会になるかもしれない。

(赤坂 厚 : スポーツライター)