暑い夏においしい「冷やし中華」の作り方を伝授します

料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作る方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。

今回は夏の定番「冷やし中華」です。

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スープまで飲み干せる酸味控えめの味に

店内に「冷やし中華、はじめました」という張り紙を見かけると夏の到来を感じます。冷やし中華はそうめんと並ぶ、夏の定番。麺とタレがセットになった市販品もありますが、タレを自作すると好みの味にできます。

冷やし中華のタレの基本はスープ(うま味)+しょうゆ+酢。通常はそこに甘みを加えることで、酢の酸味を和らげますが、市販のタレはさらに酵母エキスやうま味調味料を入れる場合が多いです。

うま味を足すことで味に厚みが出ますが、すっきり感がなくなるデメリットも。そこで今回はせっかく自作するので、後味のいい冷やし中華を目指します。タレまで飲み干せる酸味控えめの味です。

冷やし中華の材料(2人分)
中華麺(生)   2玉
きゅうり     1本
ハム       4枚
卵        1個
トマト      1個
紅生姜      適量

■タレ
水        200ml
鰹節       4g
昆布       5cm角
薄口しょうゆ   大さじ3
米酢       大さじ2(または穀物酢など)
砂糖       大さじ1
ごま油      小さじ1
生姜の搾り汁   小さじ1程度

まずはタレから作っていきます。


鰹節と昆布は小さじ1/4程度の顆粒だしで代用できます

ベースとなるスープは和出汁を選びました。鰹節のイノシン酸と昆布のグルタミン酸の組み合わせはうま味の相乗効果がありますが、合わせ出汁の特徴は「キレのよさ」です。うま味強度をそろえたグルタミン酸+イノシン酸とグルタミン酸の出汁を比較すると、後味の余韻が長いのは後者。日本料理ではキレのいい味が重要視されるので合わせ出汁が使われてきたのでしょう。

タレの材料(ごま油と生姜の搾り汁以外)を小鍋に入れ、中火にかけます。沸いてきたら弱火にして、煮出します。火が強いと煮汁が煮詰まってしまうので、ぐつぐつ煮ないように注意してください。鰹節からは味がすぐに抽出できるのですが、昆布からうま味物質を出すのには時間がかかるので、ゆっくりと加熱することを心がけましょう。


時間に余裕があればあらかじめ昆布を水に漬けておくといいでしょう

2〜3分静かに煮立てたら、ざるで濾します。一度、煮立てることで酢の酸味が丸くなり、むせることなくおいしく飲めるタレになるのです。


濾した鰹節と昆布は包丁で刻むと食べられます

ボウルの底を氷水に当てて、手早く冷まします。そのまま放置すると香り成分が揮発してしまうので、早く温度を下げることが重要です。理想的にはラップをした状態で冷ましたほうが香り成分を保持できるでしょう。最後にごま油と生姜の搾り汁を加えて香りをつければ出来上がりです。冷蔵庫で冷やしておきましょう。


手早く冷やすことで細菌の増殖も抑えられます

薄焼き卵を作っていきましょう。

卵を箸でよく溶き、分量外のごく少量の塩と砂糖で味付けしておきます。余裕があればざるなどで濾しておくと仕上がりがきれいになります。薄焼き卵を作るのに役に立つのが、フッ素樹脂加工のフライパンです。鉄のフライパンを使う場合はよく熱してから油をひき、余分な油を拭き取っておきましょう。余分な油が残っていると焼きムラができる原因になります。

フライパンを中火にかけ、温めます。箸の先に卵液をつけてじゅっと音がする温度が目安です。

フライパンの温度が100℃以上の場合は温度が高いほど卵液のなかの自由水が瞬間的に蒸発し、同時にタンパク質が凝固するのでキメが細かくなり、破れにくくなります。

逆に温度が低すぎると水分が蒸発しないままタンパク質が凝集するのでキメが粗くなったり、破れやすくなったりします。ある程度、温めてから卵液を注ぎ、火を弱火に落とすのがコツです。


ある程度、温めてから卵液をそそぐのがコツ

卵液を注いだらフライパンを回し、鍋肌に広げます。繰り返しますがこの時点での火加減は弱火です。


小さめのサイズのフライパンがあれば便利です

ある実験によると卵液の温度が15℃の場合、フライパンの表面温度が120℃で60秒、140℃で50秒、160℃で40秒、180℃で30秒で全体が固まるそうです。実際には温度や時間を計ることはないので、表面が固まってきたら出来上がりです。卵の縁を箸ではがします。


卵液は一度に全量を焼かずに、何度かに分けて焼きましょう

ざるや木の板などに卵を移します。焼き立てはやわらかいので、冷ましてから扱いましょう。薄焼き卵が上手に作れればちらし寿司など色々な料理に応用できます。


ざるを使うと余分な蒸気が抜け、破れにくくなります

4等分くらいに切りましょう。


フライパンの温度が適正であれば表面がなめらかになります

重ねて端から千切りにすれば錦糸卵の出来上がりです。


卵液に片栗粉を1%(同量の水で溶く)ほど加えると破れにくくなります

錦糸卵ができたら次はきゅうりの千切りを作りましょう。きゅうりはまず斜めに薄切りにします。この時、包丁の先端部分を使い、引くように切るのがセオリーです。刃が薄い先の部分を使うことで摩擦が少なくなるので、スライスしたきゅうりがバラバラになりません。


切れる包丁を使ったほうが作業が楽です

トランプのようにきゅうりの薄切りを並べ、端から千切りにしていきます。この切り方は両端に緑の皮の部分がついた状態になり、色合いがきれいです。


なるべく太さをそろえましょう

ハムも同様に千切り、トマトはヘタをとりのぞき、適当な厚さにスライスしておきます。こんな風に具材を準備しておくことが冷やし中華をおいしく味わうコツです。ほかにゆでたもやしやちくわ、カニカマなど好みで用意してもいいでしょう。


具材を用意するのが面倒であれば1〜2種類だけでもいいでしょう

沸騰した湯を用意し、中華麺(生)をゆでます。温かい麺よりも長めにゆでる必要がありますが、ゆで時間は袋に記載されているはずです。強火でゆでると吹きこぼれるので、沸いたら火を弱めましょう。


中華麺は手でほぐしながら入れます

今回は2分30秒ゆでました。ざるで水気を切り、流水で表面を洗います。


もみ洗いするといいでしょう

仕上げに氷水で表面をしめます。この工程で麺に腰が生まれ、伸びにくくなります。


氷水がなければ省略できますが、冷やしたほうがずっとおいしくできます

麺の水気をよく切ってから、具材とともに器に盛り付け、冷やしたタレをかければ出来上がりです。好みでマヨネーズや練りからしを添えてもいいでしょう。作ったタレですが2〜3日は冷蔵庫で保存がききます。ただ、徐々に酸味が飛ぶので味を確認し、酢やレモン汁で調整しましょう。


タレの量は1人前80〜100mlが目安です

冷やし中華のおいしさは麺と具材が渾然一体となったバランスにあります。成功のカギを握るのは具材の太さ。麺の太さを基準に丁寧に切ることがおいしさにつながります。器まで冷やしておくと、よりおいしく食べられますが、そこまでしなくても十分楽しめます。


麺と具を絡めながらいただきます

(写真はすべて筆者撮影)


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(樋口 直哉 : 作家・料理家)