(写真:takeuchi masato/PIXTA)

今年の夏は、例年に増して猛烈な暑さです。EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」と世界気象機関(WMO)は7月27日、2023年7月は観測史上もっとも暑い月になる見通しだと発表しました。地球上で12万年ぶりの暑さだと専門家は指摘しています。

日本でも、今年7月の最高気温の全国平均は33.9度で、気象庁が観測を開始した1875年以降で7月としては最高でした。ちなみに100年前の1923年7月は27.8度で、そこから6度上昇しています。すでに命を脅かす危険な暑さで、対策が急務です。

国は、水分補給やエアコン使用などを国民に呼びかけています。ただ、ひと昔前とまったく違う地球環境になっているのに、過去と同じ対策をひたすら連呼しているのは、「芸がない」「生ぬるい」印象です。

暑さ対策として改めてテレワークを

問題解決の基本は、問題の原因を究明し、対策を取ること。酷暑の直接の根本的な原因は地球温暖化ですが、すぐに解決できる問題ではありません。ここでは即効性があり、考え方を変えればすぐに実行できる3つの暑さ対策を提案します。

第1は、テレワークです。コロナ環境下で2020年以降テレワークを導入する企業が増えました。ところが、今年に入ってコロナが下火になったことを受けて、多くの企業が従業員にオフィスへの出社を促すようになっています。それに伴い、従業員が通勤や外回りなどで外出する機会が確実に増えています。

出社にはさまざまなメリットがあり、まったく否定するものではありませんが、ここまで危険な暑さになると、テレワークによって通勤や外回りを極力減らす必要があるのではないでしょうか。常時とは言わないまでも、7月から9月は「原則テレワーク」とすることが、有効な解決策でしょう。

テレワークには、「対応できない業種・職種がある」「社内のコミュニケーションが悪化する」といった反対意見があります。ただ、コロナ対策でテレワークができたのに、暑さ対策ではできない、という理屈は通りません。「できる」と思えばなんとかできるし、「できない」と思えばいくらでも言い訳は思いつく。要は経営者の考え方次第です。

近年、従業員の健康が生産性や幸福感を高め、ひいては企業の発展につながるという認識のもと、「健康経営」に取り組む企業が増えています。そうした健康経営の先進企業には、率先してテレワークを導入し、企業サイドの暑さ対策を先導して欲しいものです。

マスク着用のリスクを直視しよう

第2に、マスク着用ルールの見直しです。マスクをすると、体内に熱がこもりやすく、脱水症状に気付きにくくなり、熱中症のリスクが高まることが知られています。マスク着用率は徐々に低下していますが、まだ炎天下でマスクを着用している人が多くいます。

マスクを外さない人は、それぞれに理由があることでしょう。しかし、炎天下のマスク着用は、体にとって悪いことは間違いありません。

厚生労働省は昨年6月から、マスク着用は「熱中症のリスクが高くなります」とし、「屋外ではマスクをはずしましょう」と呼びかけていました。ところが、今年3月13日から「マスクの着用は個人の主体的な選択を尊重し、本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう」と方針を転換しました。

この新方針によって、いま国民の間では「マスクを外そう」と言ってはいけないという、腫れ物に触るような雰囲気になっています。マスコミも、昨年夏は「屋外ではマスクを外しましょう」と注意喚起していたのに、今年の夏は一転して無視を決め込んでいます。

コロナも暑さも、刻々と状況が変わっています。コロナに目を奪われて炎天下でのマスク着用を放置しているのは、厚生労働省の怠慢と言えるでしょう。昨年のように夏場の屋外ではマスクを外すよう推奨するべきです。

夏場に屋外スポーツすることの是非

第3に考えたいのが、屋外のスポーツ、とくに部活動や体育の授業の扱いです。スポーツをしているときは筋肉が熱を発するため、熱中症のリスクが普段より高まります。ところが、現在、高校野球など多くのスポーツイベントが普段通り行われています。中学・高校の部活動も、暑さ対策のために中止したという話をあまり耳にしません。

先日、宮城県の小学校で、熱中症対応訓練に参加していた5年の男子児童8人が、実際に熱中症とみられる症状となり、うち1人が病院に搬送されました。高校野球の各地の予選では、試合中に選手や審判が足をつったり、応援団が熱中症で倒れたりして、いつ大惨事が起こってもおかしくない状態になっています。

プロスポーツならいざ知らず、教育の一環である部活動を、まだ体ができ上がっていない中学生・高校生が、健康を犠牲にしてまでやるものでしょうか。夏場は屋内施設を利用する、もしくは夜間に実施するといった特別な対策を施すべきしょう。

ここで、議論になりそうなのが、高校野球。高校野球は日本の国民的行事なので、暑さ対策で「夏の甲子園」のあり方を変えると、「高校球児の夢を奪うな」「伝統を壊すな」といった猛反発が噴出すること必至です。

ただ、時代の移り変わりとともに、現代人の目には、今の高校野球には暑さ以外にも多くの問題点があるように映っていることでしょう。これをきっかけに関係者がしっかりと議論し、球児たちがより安全で快適にプレーできるよう、開催方法・時期・日程・場所などの改革に知恵を絞りたいものです。

ここまで書いてきて残念に思うのは、国が動かないと、あるいは実際に大惨事が起こらないと動き出さないという、企業・学校・国民の反応の鈍さです。

通勤や外回りで従業員が健康を害したり、生産性が低下したら、困るのは企業です。別に経済産業省や経団連からの通達があってもなくても、企業はテレワークを率先して導入するべきでしょう。

学校の役割は、生徒の心身の健全な成長を促すことで、酷暑のような成長を妨げる要因には対処する必要があります。文部科学省からの通達があってもなくても、学校は率先して部活動のあり方を見直すべきでしょう。

そして何より、酷暑で害を被るのは、国民自身です。国や勤務先・学校の方針などに関係なく、テレワークをし、屋外ではマスクを外し、激しい運動は控え、自分の健康を守ることを優先するべきでしょう。

変われない日本でいいのか

日本国・日本人は、自己変革をすることが苦手だとよく言われます。たしかに古くから、白村江の戦い・蒙古襲来・黒船来航・GHQ進駐と、大きな外圧があったときに国家のあり方が変わりました。

もし近年の酷暑を一過性の異常現象だと思うなら、企業・学校・国民は活動・行動を変える必要はないかもしれません。しかし、一過性ではないトレンドの転換だと思うなら、活動・行動を大きく変える必要があります。

そして、どうせ変えるなら、大惨事が起こってからやむなく変えるというのではなく、自ら進んで変革に取り組みたいものです。今回の酷暑では、日本人の自己変革力が試されています。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)