エムバペの希望はレアル移籍…だが、7月19日「最終期限」でも結論を先延ばしにする理由
エムバペはどこへいく(後)
メスの監督を務めていたフレデリック・アントネッティ(現ストラスブール)は以前、キリアン・エムバペについてこう言っていた。
「エムバペがもう少し謙虚ならば、もっといいサッカー人生を送れるのに」
エムバペは2021年、パリ・サンジェルマン(PSG)と2024年まで契約を延長した。本人が望めば2024−2025シーズンの終わりまで延長オプションがあった。しかしこの6月の終わりに、彼は「延長オプションを行使しない」とわざわざチームに告げてきた。つまり、2024年6月で彼とPSGの契約は終了することになり、そうなるとエムバペはタダで好きなところに移籍できるようになる。PSGとしては移籍金0で彼を放出することだけは避けたい。そこで出てくるのは移籍か契約更新だ。
エムバペが行きたいのはレアル・マドリードなのだろう。これははっきりしている。昨年もあと少しで移籍というところまで近づいた。レアル・マドリードも彼を欲しがっていて、3000万ユーロ(約45億円)の年俸、年間9000万ユーロ(約135億円)の肖像権料、さらに契約一時金として2000万ユーロ(約30億円)のボーナスを用意していたという。ならば相思相愛で、話はすぐ決まりそうなものだが、エムバペはなかなか首を縦にふらない。
理由は、もう少し交渉すればより金額が上がると、彼と彼の代理人である母は思っているからだと言われている。彼女は現在も、毎日のようにレアル・マドリードに電話をかけて有利な条件を引き出そうとしている。
パリ・サンジェルマン残留か移籍か、去就が注目されるキリアン・エムバペ photo by AP/AFLO
6月7日、カリム・ベンゼマがサウジアラビアのアル・イテハドに移籍した。レアル・マドリードはベンゼマの移籍を「予想外」であったかのように言っている。だが、絶対的エースの移籍は、エムバペにライバルがいなくなったことを意味する。また、ベンゼマが去った後の背番号9はまだ誰の手にも渡っていない。偶然にしてはできすぎだと思う者も少なくないだろう。
ところで、レアル・マドリードの監督カルロ・アンチェロッティには、少し前から、ブラジル代表監督になるとの噂がある。ブラジルサッカー連盟のエドナルド・ロドリゲス会長が「アンチェロッティは2024年のコパ・アメリカからセレソン(ブラジル代表)を率いる」とも公言した(それまでは暫定監督を立てるという)。
【優柔不断な態度に周囲はうんざり】
だがつい先日、アンチェロッティはこれを否定した。「ブラジルとは何回か話をしたにすぎない」と。一見、エムバペとは無関係なこの話も、実はつながっているかもしれない。エムバペを率先してほしがっていたのはアンチェロッティだ。彼がどこにも行かないことがわかれば、エムバペは安心してレアル・マドリードに来ることができる。
また、レアル・マドリードはある秘密の計画も練っているという。エムバペの弟エタン・エムバペは現在16歳で、PSGのユースチームでプレーしている。彼もまたPSGと2023−24シーズンの終わりまで契約があるが、レアル・マドリードは彼にも契約を持ちかけているというのだ。もちろん、レアル・マドリード側がすべてのおぜん立てをした。
一方、PSGはエムバペの『フランスフットボール』誌での発言には怒っているが、彼をタダでは手放したくない。チームは彼に7月19日までに答えを出すように指示している。同時に、彼があと2年契約を更新すれば、レアル・マドリードを超えるような巨額なオファーも考えているようだ。ただし新指揮官のルイス・エンリケは、新シーズンの構想にエムバペが入っているかどうかを明らかにしていない。
そうこうしているうちに別なチームの噂も出てきた。リバプールは彼の獲得に2億ユーロ(約300億円)の用意があると言い、チェルシーは元PSGでライプツィヒに所属していたエムバペの親友クリストファー・エンクンクを獲得、彼にエムバペを説得させようと考えているというのだ。
しかしそれでもエムバペはなかなか結論を出さない。答えを引き延ばせば引き延ばすほど、いい条件が出てくると思っているのだ。
エムバペの優秀不断な態度には、皆がうんざりしている。「最大の目玉」が移籍を決めない限り、芋づる式に決まるはずの多くの移籍も決まらないからだ。例えばPSGは、エムバペが出ていった時のことを考えてヴィクター・オシムヘン(ナポリ)とコンタクトを取っているし、レアル・マドリードはドゥシャン・ヴラホヴィッチ(ユベントス)獲得を考えている。そこにハリー・ケイン(トッテナム)の名前も出ている。
【来日するのかどうかに注目】
エムバペを獲得しようというところは、どこも小さなクラブではない。それだけにその影響力は大きいし、「エムバペに翻弄されるのはたくさんだ」と感じることもあるだろう。
PSGに決められた期限の7月19日までに、エムバペは答えを出すことはないだろうというのが大方の見方だ。PSGは契約更新もしくは放出の決定を急いでいるが、エムバペには急ぐ必要がない。それどころか、7月31日までPSGに在籍すれば、2年目にもらえるはずのボーナスの半分を手にすることができるという。8月以前には決まらない可能性は高いだろう。
アントネッティがいうように、エムバペには自分のことしか考えていないところがある。自分の振る舞いについて、チームやサポーターがどう感じるかはお構いなしだ。そのことを一番的確に表しているのはPSGの元スポーツディレクター、レオナルドの言葉だ。
前編でも述べた通り、レオナルドはエムバペをPSGに連れてきてスターダムに乗せた張本人だが、その彼が先日、フランスの『レキップ』誌のインタビューでこう語っている。
「PSGのためにも、エムバペは今、チームを去るべきだ。PSGはエムバペ以前から存在し、彼が去った以後も存在する。彼はパリに6シーズンいて、その間5つの異なるクラブがチャンピオンズリーグを制した(レアル・マドリード、リバプール、バイエルン・ミュンヘン、チェルシー、マンチェスター・シティ)が、そのどこにもエムバペはいなかった。つまり、エムバペがいなくても優勝する可能性は十分にあるということだ。
この2年間の彼の振る舞いで、彼はチームを率いることのできる選手ではないことがわかった。彼は偉大な選手だが、リーダーではない。彼は偉大なゴールゲッターだが、プレーメーカーではない。彼を中心にチームを作るのは難しい」
PSGは7月10日から新シーズンに向けて練習を開始した。エムバペは6月に代表戦があったため、7月16日、一番最後にチームに合流した。今後、チームは21日に最初の練習試合をした後、22日にジャパンツアーに出発する。実はこのツアーには2つのポスターが用意されているという。エムバペ入りとエムバペなし。この日本行きで、彼の最終的な去就がわかるかもしれない。