西田陸浮のMLBドラフト指名に東北高校時代の恩師は「野球でアメリカに行くと言っていたら止めていた」
朝、目を覚ましたら、携帯電話にメールが入っていたという。
<おかげさまで、MLBドラフトで指名されました。西田陸浮>
「いやぁ、びっくりしました。最初は何のことだかわからなかったぐらいで......」
そう語るのは、東北高校の野球部監督として、また部長として、西田と3年間をともにした我妻敏氏(現・東北福祉大コーチ)。穏やかな口調のなかにも喜びが伝わる。
MLBドラフトでホワイトソックスから11巡目で指名された西田陸浮
7月11日、米国・シアトルで行なわれたMLBドラフトで、オレゴン大の内野手・西田陸浮(りくう)がシカゴ・ホワイトソックスから11巡目(全体329位)で指名された。
西田は2020年3月に東北高を卒業すると、オレゴン州のマウントフット・コミュニティーカレッジに進学。今季、オレゴン大に編入して、地元の大学リーグでプレーしていた。
「ウチ(東北高)に入学した頃は明るくて、にぎやかで、ちょっとヤンチャっぽくて、いかにも大阪育ちの少年でしたけど、入学即レギュラーに抜擢されるような目立った選手ではありませんでした」
体も大きくないし、まずは基礎体力づくりから......とトレーニング班でのスタートとなったが、鈴木雄太コーチ(当時)から「走塁センス抜群です!」という進言もあって、1年秋の新チームからレギュラーに抜擢した。
「西田の学年は、たまたま50人以上入学した代で、そのなかで1年秋からレギュラーというのは、彼の努力が大きかったと思います。盗塁やベースランニングのセンス、攻めの器用さ......送りバントができて、進塁打が打てる。セーフティバントをすると見せかけて、前に突っ込んできたサードの頭上にポンと打ち返して内野安打にしたこともありました。
彼独自の自由な発想で、ファンキーなプレーもやってのけて、一緒にやっていてすごく楽しかった。ただ西田の場合は、身長(168センチ)のわりにストライドが大きな走りで、そんなに速く見えない。でも、タイムを測るとチーム1だったりするんです」
その"快足"で、西田は今季リーグ戦63試合で25盗塁と走りまくり、大学新記録[Office1]をマーク。それが今回のドラフト指名の要因になったとも言われている。
【100%驚きでしかない】東北高3年の夏は、それまでの二塁、三塁から一塁にコンバート。3番を打って、宮城県大会決勝まで進んだが、仙台育英に10対15で敗れて高校野球生活を終えた。
「『将来、経営者になりたいからアメリカに語学留学したいです』って言うんですよ。英語力の足りないところを補うために、英会話スクールにも通っているということで、『おお、それなら頑張れ!』って送り出したんです」
野球は自分の楽しみとして続けるくらいだと思っていたという。
「最初から『メジャー目指します!』なんて勇ましいことを言われていたら、『ちょっと待ちなよ』って止めていましたね、間違いなく」
小柄な体躯、プレースタイル......選手としての「アメリカ進出」は、とてもイメージできなかったという。
「向こうで、西田が野球で頑張っているという話は、彼の同級生たちから聞いていました。でも、まさかここまでだったとは......彼には申し訳ないですけど、100%驚きでしかなかったですね。逆に、『アメリカで新しい会社、立ち上げました!』っていう報せだったら、あいつらしいなと思いましたけど(笑)」
西田が指名された「ドラフト11巡目」というのは、20巡目まで指名が続くと言われるMLBドラフトでは「中位」という評価になろう。日本のドラフトで言えば、4位から5位指名に値する。それに見合う実力があると、ホワイトソックスが認めたということだ。
「西田自身が努力して、ここまで道を拓いたのですから、納得するまで頑張ってほしいですね」
教え子の想像以上の台頭に、高校3年間を導いた者の胸も躍る。
「そういえば......」と、我妻氏が思い出したかのように口にした。
「2年生の新チームになった時、キャプテンはこちらで決めたんですけど、『副キャプテンは西田にしてくれ!』って、同級生たちが言ってきたんですよ。さっきも言いましたけど、彼らの代は部員が多かったですから、よほど信頼されているんだなと......。私にはヤンチャなイメージしかなかったものですから、監督の目には見えてない部分が、一緒にやっている選手にはよく見えていた。私も勉強になりましたね、あの時は」
人のどんなところに才能が潜んでいるのかわからないものだ。切り拓くのは、自分自身の発想と努力を継続できる忍耐力。若いうちから高をくくってはいけないのだと、あらためてそんな思いにさせられた今回の「ビッグサプライズ」である。