横浜FM、神戸、名古屋、浦和のJ1優勝争いを福田正博が解説 後半戦、抜け出すのはどのチームか?
■終盤戦に入ってくるJ1の優勝争いは、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸、名古屋グランパス、浦和レッズの上位4チームに絞られてきている。それぞれが特長ある戦いをしているなかで、頂点に立つためのポイントは何か。福田正博氏にここからの見どころを解説してもらった。
横浜FMは宮市亮が復帰。福田正博氏は後半戦のキーマンとみている
J1はシーズン折り返しを過ぎて後半戦に入ったが、優勝争いは第20節終了時点で負け数が3敗で並んでいる4チームに絞られたと言っていいだろう。
首位を走る横浜F・マリノス、2位につけるヴィッセル神戸、3位の名古屋グランパス、4位の浦和レッズは、7月7日、8日の第20節でも勝ち点を伸ばした。
横浜FMは、名古屋とのアウェーゲームを2−2の引き分け。先制されながら逆転をしたものの、同点弾を許す試合展開となった。逃げきって勝ち点3を手にしたかったところではあるが、ライバルとの直接対決で勝ち点1を手にした価値は小さくない。
次節で川崎フロンターレ、その次の第22節で浦和と対戦するが、この2試合のほかにセルティックやマンチェスター・シティとの親善試合も控えている。サッカーファンはもちろんのことだが、選手自身も対決を楽しみにしている試合だけに、そこでの消耗度がその後のリーグ戦にどう影響するかは気がかりだ。
ただ、それでも横浜FMが今後も優勝争いを牽引していく存在だと思っている。なぜなら、彼らには優勝経験と選手層の厚みというアドバンテージがあるからだ。
しかも、今季はシーズン途中の戦力補強をしなくてもよさそうなチーム状態なうえに、宮市亮が大ケガを克服して戦列に戻ってきた。これは実質的な補強と言ってもいい。彼がピッチに立つことで、チームやサポーターの雰囲気はガラッと変わる。それだけに、宮市は後半戦のキーマンのひとりになると見ている。
【神戸は大迫勇也と武藤嘉紀を休ませられるか】この横浜FMを追う神戸は、第20節でアルビレックス新潟に1−0で勝利した。開幕から守ってきた首位の座を明け渡したものの、ズルズルと後退せずに踏みとどまってきたなかでの勝ち点3は大きい。
しかし、神戸が初のリーグ優勝に向かうには心配な面がある。それは攻撃的なポジションでの選手層の薄さで、顕著なのが大迫勇也と武藤嘉紀のプレータイムだ。大迫も武藤も多くの試合でキックオフから試合終了までピッチに立っているケースが少なくない。
交代枠が5人のなかでは、本来ならばふたりをゲーム終盤はベンチで休ませたいところだが、試合展開だったり交代選手の力だったりで、それが満足にはできていない。これが今後のリーグでどういった影響をもたらすのか。
長いシーズンを考えれば、経験があって、チームにとって替えのきかない選手であればこそ、コンディショニングや故障予防の面などから敢えて休ませる判断も必要だろう。もちろん、吉田孝行監督もその点は理解していると思うが、目の前のゲームを落としてしまっては交代させても意味がなくなるという葛藤もあるはずだ。
そうしたなかでは、クラブのフロントが後方支援をしっかりできるかも、タイトル獲得には大事な要素になってくる。神戸はアンドレス・イニエスタがチームを去り、またここまで活躍していない外国籍選手もいる。彼らを整理しながら、大迫と武藤の代わりがつとまる選手を獲る動きがあってもいい。
無論、1試合を通じて大迫と武藤の代わりをつとめられる選手は、そう簡単に見つかるものではない。それができるレベルの選手を獲れるに越したことはないが、タイトル獲得のために求められるのは、大迫と武藤を試合終盤の15分くらい休ませられる選手でいいはずだ。その仕事も決して簡単なものではないものの、ふたりの存在が神戸の優勝のためには不可欠なだけに、そういう補強をしたほうがいいのではないかと思う。
【特定の選手への依存がある名古屋】特定選手への依存という点で言えば、名古屋にも懸念材料がある。名古屋のサッカーは守備を固めて相手を自陣に引き込み、ボールを奪ったら少ない手数で相手陣の広大なスペースを使いながら相手ゴールに迫っていく。
これは、キャスパー・ユンカー、マテウス・カストロ、永井謙佑がいるからこそ。つまり、スピードという武器を主体にした得点パターンの生命線となっている3選手のいずれかが欠けると、苦しくなるだろう。
ただし、攻撃に比重を置いたところからチームをつくっている横浜FMと異なり、名古屋の長谷川健太監督は手堅い守備をベースにするスタイルだ。そもそも得点数は少なく、チャンスをつくる回数も少ないのは想定内で、むしろチームの土台である守備での主力選手を欠く事態になるのが痛手になると感じる。
実際、横浜FM戦では出場停止明けで起用した米本拓司を、負傷のために本来の動きではなかったと前半37分で交代させたが、その判断の根底には勝負どころはまだシーズンの先にあると見ている部分もあるだろう。今季好調のチームを支えている米本には、そうした重要な試合で万全の働きを見せてもらいたい思いがあるはずだ。
首位の横浜FMとは勝ち点6差の浦和レッズは、第20節はFC東京とスコアレスドローで終えたが、相変わらず攻守のバランスが取れたサッカーをしている。
開幕から2連敗スタートとなった時は行く末を案じたが、その後のマチェイ・スコルジャ新監督の軌道修正は見事と言うしかない。開幕2連敗以降の18試合で負けたのは5月10日のサガン鳥栖戦のみで、ここ10試合は負けなしの5勝5分となっている。
ただし、注意しなければいけないのは、無敗という響きに誤魔化されてはいけない点だ。たとえば、5勝5分も10連勝もどちらも無敗と表現できるが、得られる勝ち点は「20」と「30」で、10点もの差がつく。勝ち点10差は単純計算で3試合+アルファになるが、実際には相手が負けてくれないとその差は埋まらないわけで、そこを理解しておく必要がある。
それを踏まえて浦和の話をすれば、名古屋よりも攻守のバランスの取れたサッカーをしているが、総得点は名古屋と同程度しかない。横浜FMや神戸のような圧倒的な得点力で勝ち点を積み重ねてきたチームではないだけに、ここから連勝していくためにはゴール数を増やしたいところだ。
しかし、そう簡単にいかないのがサッカーの難しさでもある。気がかりなのは、FC東京戦の開始6分で負傷交代した酒井宏樹の状態だ。浦和の攻撃は右サイドの酒井の攻撃参加があって初めて機能すると言っても過言ではないだけに、彼を数試合でも欠くことになれば、得点力に大きな影響が出る可能性はある。
【浦和は先を見据えた選手起用が実るか】一方で先々を見据えると、選手の起用法にブレがないのは浦和のポジティブな要素だ。神戸は大迫や武藤のプレータイムをひっぱり続けているのに対し、浦和は興梠慎三の使い方が一貫している。興梠はチーム総得点27の浦和にあってチームトップの4得点の働きを見せているが、それでも毎試合後半20分くらいで交代している。
サッカーは年齢でするものではないとは言え、興梠も36歳。長いシーズンでコンスタントに力を発揮するには、温存すべき時があるのをスコルジャ監督が理解しているということだ。目先の結果にとらわれず、先を見据えた起用を貫くスタンスが勝負どころで花開くのを期待している。
J1リーグの1位と2位で勝ち点差「3」、1位から4位までの勝ち点差は「6」。だが、まだ残りは14試合ある。優勝決定はリーグ終盤までもつれこむと予想しているが、そこで勝負を分けるのは、この夏場での戦い方にあると見ている。
それだけに、各チームが今シーズンの先を見越した一手をこの夏に打てるかに注目していきたい。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。