井端弘和「イバらの道の野球論」(21)

今シーズンの巨人について

(連載20:「中日はかなり強くなる」と分析する理由 根尾昂の一軍昇格は?>>)

 2023年のプロ野球も間もなく前半戦が終了。セ・リーグはしばらく阪神が頭ひとつ抜けていたが、交流戦を経てDeNA、広島、巨人との差が詰まり、四つ巴の様相を呈している。

 その中で、3年ぶりのリーグ優勝と11年ぶりの日本一を狙う原・巨人は、坂本勇人がケガで離脱し、守護神の大勢も出場選手登録を抹消されるなど戦力に不安も。現在4位(7月12日時点。以下同)につけるチームの後半戦の展望について、2016年から18年まで巨人の一軍内野守備走塁コーチを務めた井端弘和氏に聞いた。


巨人の3番に固定された身長2mの秋広優人

【坂本勇人がケガで離脱した影響】

――現在の巨人の状況をどう見ていますか?

「交流戦はよかったんですが(11勝7敗)、優勝まであと一歩というところで優勝を逃してしまった。最後の楽天との3連戦は、初戦をサヨナラ勝ちしてからの2連敗。リーグ再開後も1カード目の広島に1戦目を勝ってからの2連敗と、そこからチームがバタバタとしてしまった。上位に行けそうで行けない、もどかしい状態ですね」

――加えて、野手陣の中心選手である坂本勇人選手が離脱したことも痛いですね。

「それでも4番の岡本和真をはじめ、他球団に負けないくらいの強力な打線は組めますが、確かに坂本が抜けた穴は大きいです。あれだけの主力選手が抜けると、1、2日は他の選手でカバーできても、長期的に見ると影響が出てきてしまいますから」

――坂本選手の離脱もあり、1、2番が固定できない状況についてはいかがですか?

「もともと今シーズンの巨人は、そこを固定せずに戦ってきた印象ですけどね。1、2番の候補となる選手の調子が安定しないので仕方がない部分があると思います。吉川(尚輝)も、9試合連続安打などはありましたが、今季は調子がなかなか上がってこない。重信(慎之介)や(ルイス・)ブリンソンなども含めてやり繰りしていく感じになると思います」

――現在、ショートはさまざまな選手が起用されていますが、その中のひとり、高卒3年目の中山礼都選手の印象は?

「打撃でいうと、昨年よりもストレート系のボールには強くなりました。中日の高橋(宏斗)の速い真っ直ぐもさばけるほどですから。ただ、ランナーが出た場面で初球を打ち、ゲッツーにしてしまうといったこともありましたけどね。初球を打ってはいけないということではなく、もっと明白な狙いがわかるバッティングをしてほしいと思います。

 守備については、これからでしょう。試合に出てミスをしながら学んでいくことも多いですから。それでも、プロ入りからここまでは順調にきているほうだと思いますよ」

【秋広優人の評価は?】

――苦しい時の戦力として期待される選手のひとり、オコエ瑠偉選手についてはいかがですか?

「楽天時代と比べると、しっかりとしたスイングができています。キャンプ、オープン戦を経て"自分のポイント"で打てるようになった。楽天でコロコロと変えていたフォームも、今年は固まってきたような印象もあります。

 ただ、シーズンが進むにつれて疲れが出てきたのか、ボールを迎えにいくような形になって、詰まったり泳がされたりということが増えました。それで一軍と二軍を行き来していますが、自分のフォームさえ固められたら、そこまで大きく調子を落とすことはなくなると思います」

―― 一方で、3番は秋広優人選手で固定された印象があります。6本塁打、打率も3割前後をキープしていますが、どう評価していますか?

「各チームとの対戦を2、3回りと重ねていくごとに相手も研究してきますから、厳しい攻めに遭っている毎日だと思います。個人的な印象では、外角を中心に攻められている感じがしますね。内角の球はさばけていますが、外の球に少し苦労しているように見えます」

――身長2mでリーチも長い秋広選手ですが、外角のほうが苦手というのは意外です。

「今は『内角の球をしっかり打つ』という意識が高いのもしれません。今後は、どう外角の球に対応していくか注目ですね。プロ野球はお互いに研究し合ってどう相手を上回るかという世界。そんな中で、少し『長打が少ない』という声もありますが、打率3割をキープしているわけですから十分ですよ。

 このまま試合に出続けて一定の成績を残せば、シーズン終了後のオフには、より来シーズンの自分が目指すところをイメージしながら練習ができるはず。球団側もより大きな期待をかけるようになるでしょう」

【投手陣は復帰の中川、若手に期待】

――続いて投手陣については、守護神の大勢選手が右上肢のコンディション不良で登録を抹消されるなど、中継ぎ陣も厳しい状況のように感じます。

「抑えに関しては探りながらになりますね。ただ、中川(皓太)が戻ってきたことは大きいです。全盛期のピッチングとまではいかなくても、やはり安定感がありますね。今は中川が9回を投げることもありますが、その前の回は厚みが出て落ち着いた感じもあります。中川が復帰するまでに、難しい8回を多くの投手が経験できたことも、今後に生きてくると思います」

――先発陣についてはいかがですか?

「チームトップの8勝を挙げている戸郷(翔征)は、『長いイニングを投げなくてはいけない』という思いを感じます。その分、球数が多くなっているところは少し気になりますが、勝ちは拾えているのでうまくやりくりできているということでしょう。

 菅野(智之)は開幕から2軍で調整して、6月後半も出場選手登録を抹消されましたが、いいピッチングはできています。また抹消、とならないことを願うばかりです」

――他に先発投手で気になっているところはありますか?

「山粼(伊織)は昨年より力強いボールを投げていて、井上(温大)も戻ってきた。井上は昨シーズン終盤のボールのキレがよかったですが、そこに近づいてくれば。そのあたりが万全になってくると、巨人も終盤戦に向けて楽しみになっていくと思います」

【プロフィール】
井端弘和(いばた・ひろかず)

1975年5月12日生まれ、神奈川県出身。堀越高から亜細亜大を経て、1998年ドラフト5位で中日に入団。2013年には日本代表として2013年のWBC第3回大会で活躍した。2014年に巨人に移籍し、2015年限りで現役引退。現役生活18年で1896試合出場、1912安打、56本塁打、410打点、149盗塁。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞7度、2013年WBCベストナインなど多くのタイトルを受賞した。2016年から巨人内野守備コーチとなり、2018年まで在籍。侍ジャパンでも内野守備コーチを務め、強化本部編成戦略担当を兼務している。