「悲願です」 無法地帯だった「CAの盗撮」、撮影罪の新設で処罰しやすく
性犯罪の規定を大きく見直す改正刑法などが6月16日、参議院本会議で可決、成立した。改正法は「強制性交罪」の罪名を「不同意性交罪」に変更し、「性交同意年齢」を13歳から16歳へ引き上げるなど、大幅な改正となっている。
また、全国一律に性的な部位の盗撮行為を取り締まる「撮影罪」も新設された。この撮影罪を待ちに待っていたのが、客室乗務員(CA)をはじめとする航空関係者だ。
航空関連企業の社員などでつくる労働組合「航空連合」が2022年におこなったアンケートでは、客からの「盗撮被害」にあったという客室乗務員が7割にのぼった。
しかし、これまでは航空機内での盗撮を見つけても、時間や場所が特定できない限り、処罰が難しい現状があった。
航空連合の担当者は「時間はかかったけれど、撮影罪の新設は悲願であり大きな一歩。これで働く仲間も守ることができますし、お客様同士の事例も守ることができてうれしい」と話す。
●コロナ禍でも盗撮被害は増加
盗撮に関するアンケートは2022年11〜12月にかけて、3年ぶりに実施された。航空関連の6組合の組合員を対象におこない、1573人の客室乗務員から回答を得た。
盗撮や無断撮影された経験が「ある」または「断定できないが、あると思う」と回答したのは、あわせて71%にのぼった。コロナ禍で乗務時間が減っていたのにもかかわらず、2019年よりも9%増加する結果となった。
航空連合の皆川知果・副事務局長は「2019年のアンケートで客室乗務員が意識を向けるようになったほか、コロナ禍でお客様が減ったことで、結果的に目の届く範囲が広がったために、気づくことが増えたのではないか」とみている。
このうち、具体的に何を撮影されたのか複数回答で尋ねたところ、撮影罪の処罰対象とされる「スカートの中」と回答したのは86件(8%)だった。
スカートの中を盗撮された場面としては「ベルトサイン点灯中による着席中」が62%と最も多く、「サービス中」(51%)、「お客様の搭乗、または降機のご案内中」(31%)と続いた。
具体的には、通路側に着席中の旅客から、空席だった窓側席のテーブルに食事を提供するようリクエストがあり、前方に投げ出した足を客室乗務員がまたぐ体制での提供となった際、手元にスマートフォンを構えていたという声もあった。皆川さんは「後ろから構えられていても気付けないので、スカートの中の盗撮被害件数はもっと多いはず。86件という数字は氷山の一角でしかない」と危機感を示している。
●盗撮の「法の抜け穴」
機内での客室乗務員の盗撮問題には、2つの壁があった。1つは法律の壁だ。航空連合の中で、「2012年ショック」と呼ばれている盗撮事件がある。
2012年9月、飛行中の国内線の機内で、客室乗務員のスカートの中をボールペン型カメラで盗撮したとして、30代の男性が兵庫県迷惑防止条例違反容疑で摘発された。男性は容疑を認めていたというが、処分保留で釈放された。
日本経済新聞(2012年10月12日)によると、警察は目撃情報から盗撮があった時刻を推定した。航路の分析から兵庫県上空を飛行中だったとみて同県の条例を適用したが、盗撮があった場所を特定できなかったという。
「法の抜け穴があることを世に知らしめてしまった」と航空連合の内藤晃会長。皆川さんも「本人が認めていても釈放されてしまう。自分たちの職場は守られていないという不安の声があった」と振り返る。
どうにかして機内での盗撮被害を取り締まることができないのか――。当時、案として上がったのが、安全阻害行為などの禁止・処罰規定を定めた航空法の中に盗撮行為を盛り込むことだ。
ただ、法律で盗撮についての定義がない中、航空局内独自に定めることは難しかった。盗撮は客室乗務員の業務を妨害する行為ではあるものの、「安全に関わるもの」と言えるかどうかについても意見が分かれ、航空法改正にまではいたらなかった。
●約6割が盗撮「対処できず」
もう1つの壁は、相手が利用客ということだ。アンケートでも盗撮や無断撮影された経験が「ある」と答えた591人のうち、「特に対処することができなかった」と答えたのは57%にのぼった。
その理由を複数回答で尋ねたところ、「お客様の気分を害するかもしれないと考えて躊躇した」が38%と最も多く、2番目が「お客様の声かけや確認に対する恐怖感があり勇気がなかった」(30%)だった。
時間の制約もある。利用客に直接確認するまでには複数の確認事項やプロセスがあり、特に、フライト時間の短い国内線では対応を検討している間に着陸時間を迎えてしまうこともある。
「社内マニュアルでは、疑わしいお客様への声がけは、盗撮が断定できる状況になって初めておこなうことになっています。別のお客様が目撃した場合には、証人になっていただけるかを確認する必要があります。また、着陸前などでは乗務員が確認することが難しく、実質何もできないまま終わることもあります」(皆川さん)
撮影罪が新設されれば、根拠を持って毅然とした対応を取ることができる。皆川さんたちは「迷惑行為ではなく犯罪」という意識が、利用客だけでなく乗務員にも広がると期待している。
「明らかにスカートの中が撮影されたような映像が残っていたり、本人が認めた場合には、すみやかな対応がとれるようになります。客室乗務員が安心して事象に向き合えるような社内マニュアルの作成についても、重要になると考えています」(皆川さん)