豪州戦に登板し、4回0封8奪三振と好投した山本由伸【写真:Getty Images】

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WBC世界の投手たちをピッチングストラテジスト・内田聖人氏が分析

 連日熱戦が繰り広げられる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。「THE ANSWER」では、多くのプロ野球選手を含め400人以上が参加するパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」を主宰し、最速155キロを投げる自身を実験台にしてピッチング理論やトレーニング理論を発信するピッチングストラテジスト・内田聖人氏が、独自の目線で世界の投手を分析する。今回は日本代表・山本由伸投手(オリックス)。4回0封8奪三振と好投した12日の豪州戦で米国で著名な投球分析家ロブ・フリードマン氏が「カーブの最もユニークなリリースの一つ」とツイッターに動画を紹介して話題に。「親指を上に?」「何の魔法だ?」と米ファンが驚いた。親指の腹が最後までボールについている特徴的なリリースの効果と、山本の“パワーカーブ”の凄みを紐解いた。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 山本由伸投手のカーブのリリースが米国で話題になっているとのことで、注目してみました。

 今回、取り上げられた映像は、リリース時に親指がボールの手前側(身体側)にあり、奥側(打者側)を人差し指と中指でグリップしている。特殊なのは最後に親指を立てるようにして、最後まで指の腹でボールの中心をグリップしていること。

 山本投手のカーブは最近言われ始めたパワーカーブに分類されます。

 定義として大前提には球速があり、山本投手は125キロ前後です。さらにカーブなので当然、弧を描くような山の軌道ができるのですが、ただのスローボールのように抜けるのではなく、投げ出しからベース板上までボールに強さがある。

 山本投手は親指の腹で最後までボールをグリップすることで、フワッと抜けてしまうことを抑えて、ドーンと強く発射される効果があり、最強のパワーカーブを生み出しています。

 ボールの奥側を人差し指と中指でしっかりとグリップして、真っ直ぐと逆のトップスピン回転をかけている。ジャイロ成分が限りなく少ないため変化量もかなり大きくなります。

 カーブはみんな使いたがる球種ですが、ジャイロ成分が入ってしまうと、変化量が少ないボールになってしまう。打者からすると、待っていなくても、バットを出して捉えてしまえば、外野の頭を越えたりスタンドに入れたりが容易な球種。

 ここまで回転効率が高く、変化量が大きく、球が速いカーブを操れる投手は多くありません。

全球種でカウントも空振りも取れる凄さ

 山本投手はカーブも凄いのですが、その他全球種も凄い。全球種カウントが取れるし、全球種空振りが取れる。

 真っすぐが速く、制球もいいので、打者は真っすぐに目付けをしておかなければいけないのに、同じ軌道でフォークが来たり、カット系のボールが来たりする。それで速いボールを待っていたら、パワーカーブが来るので、余計に的が絞れません。

 だから、山本投手からすると無駄なボールを投げる必要がなく、投手としての完成度はとてつもなく高い。今大会、別プールで試合が始まった米国、ドミニカ共和国の投手も見ましたが、この時期にここまで完成されている投手はそういません。

 世界的に見ても凄い投手であると言えると思います。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌2019年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りでピッチングストラテジストに転身。2020年に立ち上げたパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。今も最速155キロを投げる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)