NHK杯で優勝した宇野昌磨(右)と2位の山本草太。全日本選手権で再戦する

 2023年3月、さいたまスーパーアリーナで開催されるフィギュアスケート世界選手権の代表の座を争う、12月22日開幕の全日本選手権。

 男子はグランプリ(GP)ファイナルを今季世界最高得点の304.46点で制し自信を深めた宇野昌磨(トヨタ自動車)が一歩抜け出している状況。

 そして、もうひとりの注目は今季、右足首の疲労骨折回復のために大事をとってGPシリーズなどを欠場している鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)だ。鍵山がシーズン初戦となる全日本選手権でどんな滑りをするか。ケガは完治していないというが、覚悟を持って大会出場を決めた。気持ちの強さが、どんな滑りとなって結実するかがポイントだ。

【宇野昌磨、鍵山優真の「2強」を脅かす存在】

 順当にいけば、宇野、鍵山が優勝争いを演じることになるだろうが、ふたりに続く選手たちもGPシリーズで好結果を出しているため、宇野と鍵山がミスを重ねるようなら、上位争いに食い込んでくる可能性もあり、緊張感のある大会だ。

 その筆頭となるのは、GPシリーズは出場した2戦ともに2位に入り、初進出のGPファイナルでも2位となった山本草太(中京大)だ。

 山本はジュニア時代、ジュニアGPファイナルと世界ジュニア選手権で宇野とともに表彰台に上がり、2016年ユース五輪でも優勝し将来を期待されていた選手。だが、シニア移行を翌シーズンに控えた2016年3月、世界ジュニアへ出発する予定の当日に右足首を骨折してしまった。

 その後も、シニアの大会に出場する予定だったが、右足内側を疲労骨折して手術を受け、同年10月にまた再発。結局、2度の骨折と3回の手術を経て、競技会に復帰できたのは2017年9月だった。

 それから少しずつレベルを上げてきた山本は昨季、4回転サルコウと4回転トーループに安定感が出始め、SPは90点台を出すようになった。合計では自己最高を247.65点まで 引き上げてきた。

 そして、今季はさらに飛躍している。初戦の中部選手権はフリーで4回転フリップに挑戦していたが、GPシリーズでは4回転をサルコウとトーループの3本の構成とした。フランス大会ではショートプログラム(SP)を92.42点で1位発進すると、フリーはミスを2本に抑えて合計を自己最高の257.90点とし、2位になった。

 山本は「シニアに上がる直前にケガをしましたが、その時に出る予定だったシニアのGPシリーズがフランス大会とNHK杯でした。そのフランス大会でやっとメダルを獲れたのはうれしい」と感慨深げに話した。

 そして「ここからがスタート」と言った山本。次のNHK杯では、GPファイナル進出の可能性のある選手が6人も出場するなか、SPは自己最高の96.49点で1位発進。フリーでは崩れたが合計257.85点で2位と、昨季より着実にベースを上げる滑りを見せた。

 そしてGPファイナルでは、SPでノーミスの滑りを披露。94.86点を獲得し2位発進すると、フリーはプレッシャーもかかるなかでミスは後半のトリプルアクセルの4分の1回転不足だけにとどめ、自己最高の179.49点を獲得。合計も一気に274.35点まで上げて2位。2014年のジュニアGPファイナルと同じように、1位の宇野とともに表彰台に上がった。

 ジュニア時代から取り組んでいた4回転ジャンプをやっと安定させて、ここまでたどり着いた山本。22歳で精神的に安定する時期だけに、ここでしっかり結果を出して世界選手権代表に食い込めば、さらなる成長につながるはずだ。その期待も膨らんでくる。

【山本草太、三浦佳生はフリーがカギ】

 そんな山本に迫る力を持っているのが、今季がシニア本格移行ながらも、GPシリーズでは2戦連続で2位になり、GPファイナルに初進出した17歳の三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)だ。GPシリーズ出場は当初はスケートカナダのみの予定だったが、その前週のスケートアメリカ出場も急きょ決まった。

 三浦は、中学時代から4回転を跳んで注目されてきた選手。昨季から4回転サルコウと4回転トーループが安定し始め、全日本選手権4位で四大陸選手権3位とシニア大会で結果を出した。左太ももの肉離れで実現はしなかったが、世界選手権も欠場した羽生結弦の代役で出場する予定になっていた。

 そして、フリーで4回転ループに挑戦し始めた今季は、サルコウとトーループの安定度が増した。準備期間が短かったスケートアメリカでもその成果を発揮して4回転2本を含むジャンプをすべて決め、タイムオーバーの減点1はあったが94.96点を獲得。四大陸選手権優勝で北京五輪5位のチャ・ジュンファン(韓国)を0.52点抑えて1位発進をした。

 記者会見では「体がすごく動いていて自信を持っていますが、『なんでここに自分がいるんだろう』という感じです」と苦笑した三浦。

 フリーでは、最初の4回転ループで転倒し、最後のスピンは「疲労もあってスタミナがなくなり止まりそうだった」とは言うが、中盤でミスをした3連続ジャンプを最後の3回転フリップにつけてリカバリーをする粘りも見せた。得点は自己最高の178.23点。4回転アクセルを含む4種類5本の4回転を跳んだイリア・マリニン(アメリカ)には逆転されたものの、自己最高の273.19点で2位になった。

 さらに宇野との対戦になった翌週のスケートカナダでも、SPは94.06点で1位発進。フリーは6分間練習で靴ひもが切れるアクシデントがあって4回転ループは回避したが、ミスをふたつだけに抑えて合計265.29点で宇野に次ぐ2位。ファイナル進出を決めた。

 初出場のファイナルではSP、フリーともにミスが出て5位にとどまったが、アメリカとカナダの勢いを見れば、ベースを270点台にしたことは間違いない。

 山本、三浦ともにSPはノーミス発進としてくる可能性は高く、勝負の分け目はフリーとなるだろう。山本がGPファイナル2位の自信を、そして三浦が若さと勢いを糧にして、全日本選手権で自己最高得点を上回ってこられるかに注目したい。

【今季スロースタートの佐藤駿、友野一希】

 また、GPファイナル4位だった佐藤駿(明治大)は今季、肩の手術の影響もあって序盤は少し出遅れたが、GPシリーズ最終戦のフィンランド大会では262.21点で2位。徐々に状態を上げている。

 フィンランド大会のフリーはほぼノーミスといえる演技で、自己最高の180.62点を獲得した。苦手意識を持ってノーミスの演技ができないでいるSPを完璧に滑れば、270点台に乗せる可能性も見せている。同学年の鍵山に追いつく意欲をむき出しに、実力を発揮すればもう数段階は伸びるはずだ。

 昨季の四大陸選手権は268.99点の自己最高得点で2位、世界選手権は269.37点で6位だった友野一希(上野芝スケートクラブ)は、今季はベストが251.83点にとどまっているが、そろそろ爆発してもいい頃だ。

 世界トップクラスの実績を持つ宇野と鍵山を追う「第3勢力」の争いが、全日本選手権の見どころになっている。

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