火星で最初に生まれた生命は自らが引き起こした気候変動のせいで絶滅してしまった可能性
太陽系の太陽に近い方から4番目にある火星地表には現在水が存在しませんが、太古の昔は水に覆われた惑星であったと考えられています。生命の誕生に欠かせない水が存在した太古の火星では、最初に誕生した生命が気候変動を引き起こし、これにより火星の環境は生命が存続できないほど寒くなった可能性を研究者が新たに提示しました。
Early Mars habitability and global cooling by H2-based methanogens | Nature Astronomy
First Martian life likely broke the planet with climate change, made themselves extinct | Live Science
https://www.livescience.com/mars-microbes-made-themselves-extinct-climate-change
Ancient Mars microbes may have made their planet unlivable through climate change | Space
https://www.space.com/mars-microbes-triggered-climate-chance-extinction
2022年10月10日、学術誌のNature Astronomyで「初期の火星のハビタビリティ(居住可能性)と惑星全体での冷却化は水素ベースのメタン生成微生物により引き起こされた」という論文が発表されました。この論文によると、約37億年前の火星の大気は同時期の地球と類似していたものの、火星で誕生した最初の生命である「水素を消費してメタンを生成する微生物」が大気を生物が生存できないほど冷却してしまったため、今のような生物の存在しない環境に変わってしまったとのことです。
研究チームは「水素を消費してメタンを生成する微生物」をシミュレーションするためのモデルを作成。その結果、地球が生命の溢れる星となり火星は生命の存在しない星となった理由を、「地球と火星のガス組成および太陽からの相対距離の違い」によるものであると推測しています。
火星は太陽からの相対距離が地球よりも離れているため、二酸化炭素や水素などの熱を大気中に閉じ込める役割を担う温室効果ガスから成る層に大きく依存しています。しかし、「水素を消費してメタンを生成する微生物」は強力な温室効果ガスである「水素」を消費し、水素よりも貧弱な温室効果ガスの「メタン」を生成します。その結果、火星はゆっくりと熱を大気中に閉じ込めることができなくなってしまい、最終的に火星は非常に寒い「複雑な生命の進化には向かない惑星」へと変わってしまったそうです。
シミュレーションによると、火星の表面温度が華氏14〜68度(セ氏マイナス10〜20度)から華氏マイナス70度(セ氏マイナス57度)まで下がると、微生物はより暖かい地殻の奥へと逃げ込むようになったとのこと。その後、冷却現象が進むと微生物はわずか数億年で地中1km以上の深さまで潜り込むこととなった模様。
研究チームはこの推論が正しいものであると証明するため、微生物の痕跡を調査しています。微生物の痕跡自体は記事作成時点では見つかっていませんが、2021年にはNASAの火星探査ローバーであるキュリオシティがメタンガスの急上昇を検知しており、これは「エイリアンのげっぷ」なのではないかと話題になりました。そのため、火星にメタンを生成する微生物がまだ生存している可能性があります。
研究の筆頭著者でありフランスのパリにある国立高等師範生物学研究所(IBENS)で宇宙生物学者を務めるボリス・ソーテリー氏は、「生命の構成要素は宇宙のどこにでも存在します。したがって、生命が宇宙に定期的に出現する可能性は十分にあると言えます。しかし、生命が惑星表面で居住可能な状態を維持することは難しいため、生命はすぐに絶滅してしまいます。今回の我々の研究は、非常に原始的な生物でさえ環境に自己破壊的な影響を与える可能性があるということを示しています」と述べました。