日本代表はアメリカ代表に2−0と快勝。所属のフランクフルトでも好調な鎌田大地と、ブライトンに移っても変わらぬドリブル突破が魅力の三笘薫という役者が得点を決めた。中盤の構成を見ても守田英正と遠藤航、その前に鎌田という形が機能し、本番を少しは期待して迎えられるのではないかというポジティブな印象を得た試合になった。アメリカのメンバーは本番仕様とは言えず、テンションも低かったが、"自分たちのサッカー"を確かめるには十分だっただろう。

 だが、ここでチームをぐっと引き締めにかかっているのが主将の吉田麻也である。

「結果がついてきたのはもちろんよかったですけど、今のこの時点では、結果はどっちに転んでもいい。結果が重要というより、内容というか、やっていることを固めるのが大事で、今日に限って言えば、そこはすごくできた部分が多かった。ただ、『今日はできたけど、次はできない』とか、『この間はできなかったけど、今日は何だかわからないけどできた』ということではなくて、なぜできたのかを明確にして、それを意図的に次のゲームで出していけるようにしっかり分析して話をしたい。勝っている時こそ、そういうところを詰めていかないといけない。試合前も『磨き上げる時期』と言いましたけど、磨き上げて、カタールを迎えられるようにしたいと思います」

 たまたまうまくいった、というのでは今後、つまり本番にはつながらない。再現性を高めるためにも、分析と共通理解が必要だというわけだ。


主将としてカタールW杯を迎える吉田麻也

 本番まで時間がないなかで、吉田は森保一監督と具体的な話をしているという。

「監督とも話して、『いろいろな条件下で試合の流れに変化をつけよう』とか、『ちゃんと変化をつけられるか、つけられるよね?』『そういうことを試してもいいですよね』と。今日はそれができた、と。たとえば試合の残り10分、勝っていたり負けていたり、いろいろなシチュエーションがあるとして、変化を加えなきゃいけない時に、前からプレスをどうするのか、相手が3バックだった場合、どうシステム変更するのかとか、『確認しましょう』と言いました」

「ディテールを詰めてW杯へ」

 吉田は指揮官に対して相当、踏み込んだ提案をしているようだ。それもこれも、日本は総力戦で戦わないと、ドイツ、コスタリカ、スペインとのグループを勝ち抜き、決勝トーナメントに行くことはできないと思っているからだ。

「このチームは、監督がドーハ(の悲劇)を経験している人で、ワールドカップも、僕が3回目、(長友)佑都くんと(川島)永嗣さんが4回。いろいろな経験、失敗を糧に、ここまできているチームなんです。もちろん、外国人監督ほどのキャリアはないにせよ、それを補うためにみんなで力を合わせて......。

 今回も実際に長谷部(誠)さん来てもらってアドバイスをもらいましたが、日本全員総力で戦う、そういう意識でやっています。(2−0から逆転された前回ロシアW杯の)ベルギー戦の反省は当たり前で、それだけでなく、ブラジル大会とか、いろいろな過去の大会の経験を伝えて、(ネガティブなことが)起こり得るけれど、そうならないようにしようと話をしています。それが外から見た時にピッチの上でわかるくらい徹底する。ここから先、詰めていくべきはそういうディテールのところじゃないかな、と」

 残り2カ月、細かい部分に対してどう共通認識を持って試合に臨めるか。スキをいかにして埋めていくか。そういった作業を、選手同士だけでなく、監督にも提案しながら行なっているというのだ。

 吉田が言うように、今回の遠征で日本代表は、長谷部を臨時コーチ的にチームに招いている。南アフリカ、ブラジル、ロシアと3大会でキャプテンマークを巻き、フランクフルトでもいまだに頼られる存在であり続ける38歳から、話を聞く機会が設けられた。吉田にとって長谷部は、公私ともに親しくしている間柄でもある。

「長谷部さんに来てもらうことは、個人的には心強いし、若い選手にも刺激になることは間違いないです。外から客観的にどういうふうに見えてるか、長谷部さんにしか見えないことも、もしかしたらあるかもしれないし、個人的にも話をしました。貴重なオフに来ていただいて申し訳ないが、長谷部さんは『行っていいのかな?』という話だったが、個人的にも来てほしいと伝えました。総力戦で戦うくらいの(対戦)相手なので、時間を使っていただいて感謝している」
 
 時間がないなかで、使えるものはなんでも使う。吉田の言葉からはそんな気概が伝わってきた。監督に意見や進言もすれば、OBから話を聞く機会ももらう。吉田はピッチ内だけでなく、ピッチ外でも主将として力を尽くしている。