「誰もがすごくテクニカルだった」

 総勢50人ものスタッフを引き連れて大西洋を渡り、デュッセルドルフで日本との強化試合に臨んだUSMNT(アメリカ男子サッカー代表の呼称)。当然ながら、彼らも本気だった。


サッカー日本代表は、アメリカに2−0で勝利した

 試合前日の会見では、グレッグ・バーハルター監督が「W杯までの最後のステップであり、チームを前進させるための最後の2試合(日本戦とサウジアラビア戦)になる。まずは日本戦に集中したい」と語り──アメリカ人ながら「サッカー」ではなく「フットボール」という言葉を使っていたことが印象的だった──、ユベントスに所属するウェストン・マッケニーはW杯本大会が迫るこのタイミングでのケガの心配を訊かれると、「親善試合であろうと、先々の試合のために安全にプレーしたりしない。なぜなら僕らはアスリートであり、常に勝利のために競うのだから」と話していた。

 だが翌日の試合では、客観的に言って、アメリカは日本に0−2と力負けした。クリスティアン・プリシッチやユヌス・ムサ、ティモシー・ウェアら主力を欠いていたとはいえ、先発の平均年齢が23.8歳の若いチーム(対する日本のそれは27.5歳)は、経験の乏しさを露呈したようにも見えた。

 試合終了後のミックスゾーンには、敗れたアメリカ代表の選手が3名だけ現れた。そのうちのひとり、アーセナルに在籍するGKマット・ターナーは、そんな筆者の見方と近い感触を覚えたようだった。

「僕らは若いチームだし、もっといろんなことを経験していかなければならない。今日のようにタフな試合も、そのひとつだ。でもそこから築き上げていけるものもあるはずだよ」

 敗戦後にもかかわらず、アメリカ人らしいポジティブなトーンでそう口にした28歳の守護神は、この日の対戦相手について次のように語った。

「日本は偉大なチームだ。誰もがすごくテクニカルで、ボール扱いには天性のものを感じさせ、時機を心得たプレスを組織的にかけてきた。それだけではなく、泥臭く戦うこともでき、必要な時にはファウルも辞さない。本当に驚かされたけれど、とても楽しい試合だったよ」

 もっとも印象に残った選手について訊くと、「もちろん、冨安(健洋)だよ」と所属先の同僚の名をすぐさま挙げた。「彼のことが大好きなんだ」と付け加えて。

「遠藤航が中盤をコントロールしていたと思う」

 次に報道陣のもとにやってきた主将のセンターバック、ウォーカー・ジンマーマンは、ターナーとは異なり、硬い表情で取材に応じた。前日に指揮官が「本物の戦士」と評していた29歳の守備者は、「本当に悔しい」と語り始め、冷静に試合を分析しようとしていた。

「とくに前半が苦しかった。(日本の)6番(遠藤航)から強いプレッシャーを受け、こちらの中盤は後手に回ってしまった。セカンドボールを拾われることが多く、デュエルでも劣勢だった。うちのインテンシティが足りなかったのは事実だが、選手たちにモチベーションがなかったわけではない。我々は間違いなく、この試合から学ばなければならない。相手はいいチームで、すばらしい試合をした」

 個人の名前を挙げてほしいと伝えると、「キャプテン(吉田麻也)はチーム全体に落ち着きをもたらしていた」と自身と同じ役割を務めた背番号22を称えた。それから「やはり遠藤だ。ポジショニングが完璧で、プレスはすさまじく、うちの選手にスペースを与えてくれなかった。彼が中盤をコントロールしていたと思う」と続けた。

 ただし自らのチームの若さについては「アドバンテージだと捉えている。このチームにはエネルギーが満ち溢れ、相手を困らせる能力もある」と言いつつ、「それが今日は出せなかったけれども」と悔やんだ。

「鎌田大地は本当にクレバーな選手だよね」

 最後に現れたリーズ・ユナイテッドのタイラー・アダムスは、前日にオンライン上の会見で見たとおりの朗らかな語り口で、次のように切り出した。

「日本は統制の取れた動きと見事なゲームプランで、僕らがやりたいことをしていた。トップクオリティの相手だった。彼らのパフォーマンスから学ばないとね。目標に向かう道のりはデコボコしているものだし、ここで叩きのめされて、足元を見つめるいい機会になったよ」

 バーハルター監督が「今日は気概が足りなかった」と言っていたけれど、それについてどう思うかと訊かれると、この23歳のアンカーは「そうだね。加えてインテンシティなど、いろんなことが備わっていなかった」と率直に答えた。

 最後に日本のことを訊くと、「クオリティがある。(昨季までプレーした)ブンデスリーガで何度か日本人選手と対戦したことがあるから、それはよくわかっていたよ。今日はとくに鎌田大地がよかったと思う。本当にクレバーな選手だよね」と笑顔で答えた。

 世界的には日本と同じ中堅国ながら、USMNTは2002年大会で8強入りを果たしている。だが前回大会で1986年大会以来となる予選敗退を喫し、今回は若いチームに生まれ変わって2大会ぶりの出場権を獲得した。日本が目指す地平を知る彼らもまた、カタールで驚きをもたらそうとしている。