日本代表アメリカ戦の勝因は左サイドの改善。だが、相手を崩すアイデアがまだ足りない
ようやく鎌田大地中心のチームになったという感じだ。
森保一監督は、W杯アジア最終予選の4戦目オーストラリア戦(2021年10月)から、最終戦のベトナム戦(2022年3月)まで、何を血迷ったか、鎌田に出場機会を与えなかった。7戦目の中国戦以降は招集メンバーからも外し、構想外としていた。見る目のなさを際立たせていた。
鎌田はご承知のようにその間、森保監督の見立てとは裏腹に、所属のフランクフルトで押しも押されもせぬ看板選手として活躍する。ヨーロッパリーグ(EL)で、あれよあれよという間に勝ち上がり、フェイエノールト時代の小野伸二に次ぐ、晴れの優勝メンバーにもなっている。
森保監督は、鎌田を外したのと同じタイミングで、布陣を4−2−3−1から4−3−3に変更した。4−3−3で鎌田が収まる場所があるとすれば、インサイドハーフになる。2021年3月のモンゴル戦など、実際、森保監督はそこで幾度か使っている。
しかし、鎌田の適性はもう少し高い位置だ。4−3−3に落とし込めば1トップならぬ0トップが適役になるが、森保監督にはそうした先鋭的な志向はない。鎌田の可能性を4−3−3のインサイドハーフに限定したとき、先述のオーストラリア戦で先制ゴールを挙げた田中碧のほうが上だと踏んだのだろう。だからといって招集外にしたことには唖然とするが、それはともかく、布陣を4−3−3へ移行するタイミングで、鎌田は消えることになった。
アメリカ戦。森保監督が選択した布陣は4−2−3−1で、鎌田は案の定、その1トップ下にきれいに収まった。前半25分には先制点もマークした。
アメリカ戦で先制ゴールを決めるなど活躍が目立った鎌田大地
6月に行なわれたブラジルとの親善試合でも、森保監督は途中交代で入れた鎌田を4−2−3−1の1トップ下で使っている。布陣を4−3−3から4−2−3−1に変え、その1トップ下に据えていた。4−2−3−1と鎌田が濃密な関係にあることは、これまでの流れからもうかがい知れる。
一方、鎌田とキャラがかぶる南野拓実には、出場機会は与えられなかった。
先制ゴールもプレスから南野もポジション的な適性は真ん中にあるが、これまでの4−3−3では左ウイングとして出場することが多かった。適性に加え、ポジションをカバーする概念の乏しさも加わるのか、南野は気がつけば真ん中に入り込む癖を、どの試合でも露呈させた。4−2−3−1なら南野もベストポジションは1トップ下となる。
昨季のELを制した鎌田が今季、チャンピオンズリーガーに昇格したのに対し、南野は逆にチャンピオンズリーガーの座から降格した。リバプールから出場機会を求めてモナコに移籍したものの、現状ではスタメンの座を確保できずにいる。代表の1トップ下争いで鎌田に遅れを取るのは順当な結果と言えた。
だが、南野には左ウイングという定位置がある。森保監督は、彼の適性がそこにないにもかかわらず、これまでその一番手として南野を起用してきた。三笘薫、久保建英ではなかった。
ところが、アメリカ戦の先発は久保で、その交代要員として後半23分から出場したのも三笘だった。森保監督はこれまでとは一転、南野に出場機会を与えなかった。甘い関係ではなくなった。
アメリカ戦の勝因はここにあると考える。左ウイングで先発した久保も、好きなポジションはトップ下だとテレビのインタビューに答えていたが、彼は南野とは異なり、持ち場を終始カバーした。左ウイングが穴になることはなかった。対峙するアメリカ代表の右サイドバック(SB)セルジーニョ・デストは、欧州でも名の知られた優秀なSBだが、久保はその攻め上がろうとする道を常に塞いでいた。
森保ジャパンのプレスは、いつになく高い位置から決まっていた。アメリカの最終ラインからの組み立てに、厳しいプレッシャーをかけ続け、ミスを誘った。鎌田の先制ゴールもその産物だった。
ユベントス所属のウェストン・マッケニーは、背後に圧力を感じたのか、バックパスを雑に返した。これが伊東純也へプレゼントするかのようなパスになった。マッケニーに圧を掛けた守田英正がそのまま前に出て、伊東からパスを受けると、すかさず左に展開。鎌田が決めた得点のアシストのパスとした。
ビルドアップは決まらなかった高い位置でボールを奪っては、相手の守備陣形が整わぬうちに攻めきろうとする、まさにプレッシングサッカーで、日本はアメリカに対し優位に立った。その流れは、後半も維持された。変に中盤が間延びし、切るか切られるかの撃ち合いになることはなかった。
だが、アメリカも堅いチームだ。伝統的に穴のない、規律正しい頭脳的なサッカーをする。日本もビルドアップには苦しんだ。チャンスの多くは相手のミスに乗じたもので、最終ラインからのビルドアップは決まらなかった。自慢のパスワークを発揮できたとは言えない。日本が高い位置からプレッシャーをかけても、ドイツやスペインは簡単にミスをしないだろう。日本には自らの力で崩す方法が問われている。
不満を覚えたのはそこだ。そのためには両SBがもっと活躍する必要がある。中山雄太(左)、酒井宏樹、冨安健洋(右)は、立ち位置が数メートル低かった。両センターバック(CB)の間隔が狭いので、高い位置が取れないのだ。遠藤航か守田のどちらかが、アギーレジャパン時代の長谷部誠のように、マイボール時になると両CBの間に割って入り3バック的に構える可変式にするとか、両SBを中盤化して、パスコースを増やすとか、アイデアを練らないと、リアクションでしかサッカーはできなくなる。攻撃的な面白いサッカーにはならない。
日本が後半43分に挙げたダメ押しゴールは三笘の個人技だった。そのドリブルシュートは、久保にはないすごみと切れ味があった。先発から外せない選手だと筆者は思う。
話を布陣に戻せば、森保監督は後半41分、布陣を5バック(5−2−3)同然の3バックに変更した。守りきろうとしたわけだ。6月に行なわれたガーナとの親善試合でも、森保監督は最終盤に同じ手段に出ているが、アメリカ戦で最大の減点材料はここになる。
この「守り」は、うしろで守る、後方を固めるという概念に基づいている。それまで86分間貫いてきたサッカーとは真逆だ。プレッシングに対するカテナチオと言っても過言ではない。その瞬間、主導権は相手に移る。
このアメリカ戦では、その2分後に三笘がゴールを決め、追加タイムも親善試合らしく0分だった。5バックの好ましくない特性が露わになる瞬間はなかった。成功か失敗かと言えば成功になる。最後はしっかり守って、完封勝ちしたという非サッカー的なストーリーが完成した。
プレッシングとカテナチオをなぜ使い分けする必要があるのか。なぜうしろで守るスタイルにしがみつこうとするのか。これぞ日本サッカーの指導者に垣間見える、旧態依然とした習慣にほかならない。