前回の筆者の記事―マイホームを「できるだけ高く」売る方法 キーワードは「3カ月以内」「不動産会社選び」―では、一般的に住宅市場で売買しやすい、仲介する不動産会社が積極的に取り扱う住まいの賢い売り方について説明しました。

ところが、築年数が古かったり空き家の状態が続いたりして老朽化している場合は、住宅市場で簡単に売れるとは限りません。家を買う側にとっては、安心して長く住むために状態の良い家を買いたいと思うので、老朽化が見られる家には不安を感じてしまうからです。

そうなると価格を下げていくことになりますが、仲介会社の手数料は売買が成立した価格に対して、「3%+6万円+消費税」という速算式が一般的に用いられますので、価格の低い物件の取り扱いには消極的になる場合もあります。

では、売る方法がまったくないかというと、そういうわけでもありません。

築年数が古いなど売りづらい家の場合の売り方

築年数が古かったり空き家の状態が続いたりして老朽化している場合、その家を売るためにはいくつかの方法が考えられます。

(1) そのままかなり低額の価格で売る
(2) 解体したり(戸建ての場合)、リフォームしたりしてから売る
(3) 買取保証で不動産会社に買ってもらう(買い替えの場合)
(4) 買取再販事業者に売る

(1)と(2)は、住宅市場で通常に売る場合です。老朽化した家については、相応の費用をかけて改修するか、取り壊して建て替えるかになります。(1)の場合は改修費用または解体費用を買い手が負担することになるので、それを考慮した価格設定になります。つまり、かなり価格を下げる必要があります。

また、戸建ての家を取り壊して更地にしたり、マンションや戸建てを改修してリフォーム済み物件にして売ったりする(2)の場合は、解体費用や改修費用を売り手側が負担することになります。ただし、更地の土地やリフォーム済み物件として売れば、必ず希望額で売れるとは限りません。最悪の場合は、売却額では解体費用や改修費用を相殺できず、売ったら赤字になるといったことも起こりえます。慎重に判断したいところです。

(3)は自宅を買い替える場合の選択肢で、新築住宅を買う場合はその住宅の販売会社に、中古住宅を買う場合は仲介会社に「買取保証制度」があれば、保証した額で買い取ってもらうことができます。ただし、一般的に買取保証額は査定額より低い額で設定されますし、そもそも市場で売りづらい家の場合なら買取保証の対象外となることも考えられます。

(4)は買取再販を行う事業者に売る方法です。この場合は事業者側が改修工事を行うので、そのままの状態で売ることができます。事業者は、自社の基準によって事業の採算性を判断し、買うか買わないかを決めます。

買取再販事業者はなぜ古い家を買うのか?

買取再販事業者について、補足説明をしましょう。不動産会社などの事業者が古い家を買い取って、改修工事を行ったうえで、売主となって住宅市場で販売するのが「買取再販事業」です。そうした事業を専門で行っている会社を買取再販事業者と言います。

買取再販事業者は数多くの改修工事を行っていますので、そのノウハウを持っていること、まとめて工事をすることで人件費や建築資材、設備機器を安く抑えられることが強みとなります。そのため、家をできるだけ安く買って、相場より安く改修工事を行い、市場で売りやすい価格や好まれる間取り・仕様などにして、買い手を見つけることで利益を出します。

買取再販事業者は、できるだけ安く家を買うために、築年数が経過した住宅市場では売りづらい家を探しています。自社のノウハウで、およそいくらの改修工事をしていくらで売るかを計算して、ビジネスになるか見極めます。場合によっては、売り手側が売るのは難しいと思っている家でも、買い取る対象になる場合もあります。

空き家の売却で頼るのは、不動産仲介会社と買取再販事業者?

買取再販事業者には、それぞれ得意領域があります。都市部のマンションを中心に扱う事業者もあれば、地方の戸建てを中心に扱う事業者もあります。地方の戸建てを中心に扱う事業者である、株式会社カチタスが「第2回 空き家所有者に関する全国動向調査(2022年)」を行ったので、その結果を紹介しましょう。

一定期間空き家になると家の老朽化が進むので、住宅市場では極めて売りづらくなります。そのため、「空き家を売却する際の、売却先の選択肢」を聞くと、売却予定がないという人も一定数いますが、「不動産仲介会社」か「不動産買取会社」(買取再販事業者)かを選択肢にしている人が多いことが分かります。

出典:カチタス「第2回 空き家所有者に関する全国動向調査(2022年)」

次に、「空き家売却時、売却先に求めること」を聞いた結果を見ると、1位は「信用・信頼できる」(60.3%)、次いで「高く買ってくれる」(40.1%)が上位に挙がりました。一方で、3位に「残置物を処理してくれる」(26.8%)が挙がるなど、手離れの良さを求める人も多くいるようです。

出典:カチタス「第2回 空き家所有者に関する全国動向調査(2022年)」

この調査結果では、空き家を「相続で取得」した人が58.8%という結果もあることから、実家に残された家財一式の処分方法に悩んでいるといった背景がありそうです。カチタスでは、売却先の選択肢として、「不動産買取会社」が前年より倍増しているのは、「荷物を残したままの状態でも買い取りを行うため」、「売却先に手離れの良さを求める空き家所有者が、増えていると推察される」と分析しています。

仲介会社か買取再販事業者か、それぞれの特徴と向き不向き

カチタスはこの調査報告書に、両者の違いについて下図のように説明しています。これについて、説明を補足します。

※参考:不動産買取会社と仲介業者の違い

出典:カチタス「第2回 空き家所有者に関する全国動向調査(2022年)」

買取再販事業者の場合、事業の採算性を計算して価格交渉に入ります。そのため、仲介会社を通じて相場で売り出す場合よりも価格が安くなる傾向にあります。その一方で、価格交渉が成立すれば買取再販事業者はすぐに買い取りますが、住宅市場で売り出す場合は買い手がいつ見つかるか予測しづらいのが実情です。売れるまでに時間がかかった場合は、維持管理に伴う費用が発生することになります。

内覧については、買取再販事業者の場合はその事業者が必ず内覧を行いますが、仲介会社を通じて売る場合は複数の購入希望者が内覧するのが一般的です。

仲介手数料については、直接売り手が買取再販事業者と交渉した場合は不要ですが、仲介会社を通じて住宅市場で売り出したところで、買取再販事業者が買い手になるという場合もあります。その場合は、仲介会社を通じて売買が成立しているので、仲介手数料が発生します。

このように特徴を比較して見ていくと、早く売りたい場合やできるだけ手間をかけたくない場合は、買取再販事業者向きですし、少しでも高く売りたい場合は仲介会社向きという見方もできます。ただし、物件によっては、住宅市場ですぐに売れる場合もあれば、買取再販事業者の価格交渉があまり入らない場合もあるなど、必ずしも特徴通りとは限りません。始めに選択肢を狭めてしまうより、選択肢を広げてそれぞれのプロの見立てを聞いたうえで、どの方法が最も妥当かを判断するのがよいでしょう。

いずれ売るなら、日々のメンテナンスで状態の維持を

家を売却することは、それほど経験できることではありません。しかも、住宅市場で売りやすい家もあれば、売りづらい家もあります。特に難しいのが、今回のテーマのように、古いなどの理由で売りづらい家です。その場合に、どういった選択肢があるのかをあらかじめ知っておき、全体の流れを把握することが重要です。

さらには、老朽化してからでは遅いので、少しでも売りやすい状態にするために、日ごろから家のメンテナンスを行い、状態を維持することも大切なことです。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)