注文住宅の建築を進めている人、ハウスメーカーなどで間取りを自由に決められるフリープランを選択している人にとって、間取り決めは家づくりにおける最初にして最大の難関です。

「提案された間取りになかなか満足できない」「希望がうまく反映されない」「どこが気に入らないかわからないけれどモヤモヤする」など、悩みを抱えながら進めている人も多いのではないでしょうか。

そんな中、年々注目が高まっているのが間取りのセカンドオピニオンサービス。契約中のハウスメーカーや工務店で提示された間取りを、他社でチェックしてもらうサービスです。今回は同様のサービスを提供している有限会社 宇津崎せつ子・設計室代表の一級建築士、宇津崎せつ子さんにサービスの概要やメリットについて詳しく教えていただきました。

モヤモヤの原因は、住む人の暮らしが間取りに反映されていないから

宇津崎さんは長年、家事をする人の心が軽くなる、家族がずっと仲良く過ごせる「住育」という考え方をベースに住宅設計を手がけてきました。

子育てから介護まで、リフォームなしでずっと快適に過ごせる家づくりで評判を呼び、宇津崎さんのもとには全国各地から相談が寄せられています(写真提供:宇津崎せつ子・設計室)

「家づくりは、おしゃれなインテリアや設備よりもまず間取りがベースになります。でもその間取りを決める前にまず考えなければいけないのが、“その家でどう暮らしたいか”ということ。リビングは何畳必要だとか、3LDKは絶対に欲しいというような具体的な希望ではなく、どんなふうに過ごしたいか、そこで何をしたいかということなんです」(宇津崎さん)

宇津崎さんによれば、どんな間取りにする?という考え方でスタートすると、出来上がるのはただただ便利なだけの間取りになりがち。それが自分の暮らし方に合っているかどうかは別問題だと言います。

「提案された間取りは自分たちの希望通りのはずなのに、なんだかしっくりこない。そう感じたときは、その間取りと実際の暮らしに大きなズレがあるのかもしれません。まずは家族みんなの今の生活を棚卸しして、どんな暮らしがしたいのかを自分たちが知ること。その考え方を、間取りに反映していけばいいんです。でもどうやってそれをまとめたらよいかわからなかったり、依頼しているハウスメーカーや工務店との打ち合わせが行き詰まってしまったりしたときには、セカンドオピニオンサービスをぜひ受けてみてください」(宇津崎さん)

宇津崎さんが提供する「家族が自然と笑顔になる住育の間取りへ! 間取りセカンドオピニオンサービス」(120分・税込み6万6,000円)では、現状の間取り図でモヤモヤするポイントをヒアリングするのはもちろん、家族全員の生活スタイルや考え方などを事前に書き出してもらうオリジナルワークに取り組んでもらうそう。

オリジナルワークの一部。住む人全員のプロフィール、どんな家にしたいかという夢、持ち物のリストアップなど、家づくりを考えるうえで必要な情報をまとめていきます(写真提供:宇津崎せつ子・設計室)

「ただ間取りを書き換えるのではありません。どんな暮らしをしたいのかという土台を整えるところからアドバイスしていくのが、私が提供する間取り診断サービスの大きな特徴です。間取りに暮らしを無理やり当てはめるのではなく、自分たちらしい暮らしに間取りを合わせていくのです」(宇津崎さん)

このワークでまず依頼者が取り組むのは、思っていることを付箋に書き出すことだそう。将来の夢、困っていること、変えたいこと、したいことなどを思いつくままに書いていきます。これは小さなお子さんも含めて家族全員で。そして書く内容は家のことに限りません。英語を話せるようになりたい、趣味のピアノを弾く時間がもっと欲しい、本当はもっと手間をかけて料理したい、早く走れるようになりたいなど将来の夢や願望などなんでもOK。

ある依頼者が書いた、付箋の一部。家族それぞれ付箋の色を変え、誰が書いたものかわかるようになっています(写真提供:宇津崎せつ子・設計室)

「書いているうちに、その家でどう生きていきたいのか、本当はどんな暮らしをしたいのかが自分たちも見えてくるはずです。最終的には、マップに書いた項目の中から特に大切だと思うものを10個選びます。それこそが、家づくりの大きなテーマになるんです」(宇津崎さん)

ワーク一式は、相談したい間取り図と一緒に宇津崎さんへ送付。宇津崎さんがすべてに目を通してからカウンセリングを行う流れです。カウンセリングは対面、オンラインどちらも可能。

アドバイスで1階と2階がガラッと入れ替わる

実際にどんなアドバイスをしてきたのか、宇津崎さんに一例をお聞きしました。

「Aさん一家は、ご主人の趣味を楽しむことがメインの間取りで進めていましたが、しっくりこないということで間取り診断の依頼がありました。オリジナルワークに取り組んでもらい、ご家族皆さんの潜在的な要望や暮らしのイメージをつかんでからご提案しました」(宇津崎さん)

Aさん邸の間取り図。上の図が1階、下の図が2階です。ビフォー(左)はピアノ室をメインに設計されていますが、アフター(右)ではリビング・ダイニングに変更。2階にあった浴室や洗面所を1階のキッチンの横に配置しました(写真提供:宇津崎せつ子・設計室 ※Aさんの許可を得て掲載しています)

当初の間取りでは1階に趣味のピアノ室を作っていましたが、ご家族の日常の暮らしを優先してリビング・ダイニングと水回りを1階にまとめるように提案。家族が自然と1階に集まり、だんらんできる間取りに変更しました。

また、宇津崎さんは占術鑑定士の資格も保有。依頼者が希望すれば家相や気学、風水を取り入れた間取りになるようアドバイスをしています。

ちなみにこのサービスには宇津崎さん自身による新たな図面作成は含まれておらず、既存の図面に宇津崎さんがアドバイスを書き込んだり、口頭やメモ書きで説明をしたりという内容。カウンセリング後は、依頼者自身が契約中の会社に修正希望を伝え、図面を修正する流れです。宇津崎さんは修正後の図面も後日チェックしてくれるので安心です。

廊下のスペースを減らす、階段の向きを逆にするアドバイスも

同様のサービスは、宇津崎さんのほか全国のさまざまな設計士事務所や会社が提供を行っています。福岡市を中心に戸建て住宅の設計・施工を手がける建築プランナー株式会社 一級建築士事務所では、「naomiの『お家なんでも相談室』」という相談サービスをオンラインで実施。マイホーム計画前から現在の住まいについてなど家に関する相談ができる「お家なんでもカウンセリング(60分・税込み1万1,000円)、間取りに関するお悩みを相談し、新しい間取り図を提案してくれる「間取りビフォーアフター」(税込み22万円)の2種類です。

年間12棟限定でオーダーメイド住宅を手がけている建築プランナー。インテリアやエクステリアまで、幅広い提案力で人気を集めています(写真提供:建築プランナー 一級建築士事務所)

間取りビフォーアフターのサービスでは、すでに進めている間取り図をもとに事務所代表のnaomiさんがお悩みをヒアリング。naomiさんが改善作成した間取り図を後日受け取れるというサービスです。ヒアリングや提案の説明はオンラインがベース。電話による相談も可能だそう。

これまでには9帖あった廊下を半分以下に削って収納スペースを増やしたり、階段の向きを変えて移動をラクにしたり、部屋の凹凸をなくしてリビングが広く見えるようにするなど、生活動線を考えた間取り改善を手がけてきたそうです。

オンラインで悩みや要望をヒアリングし、naomiさんが間取り図を改善作成。間取り図面を提案したのち、依頼者による建築会社との打ち合わせ後にもアフターフォローのためのカウンセリング時間が設けられているそう(写真提供:建築プランナー 一級建築士事務所)

「家づくりは、袋小路に入ってしまうと難しい、大変だと思ってしまいがち。でも本来はとても楽しいイベントです! 家づくりそのものも、新しい家での暮らしも楽しくなるようなアドバイスを心がけています」(建築プランナー 一級建築士事務所代表・池田尚美さん)

東京にオフィスを構える一級建築士事務所、セカンド・プランニング株式会社でも、間取りのセカンドオピニオンサービスを実施。改善案を現状の間取り図面に赤入れする「ちょこっとオピニオン」(1フロア税込み2,200円)をはじめさまざまなプランがあり、気軽に相談できるのが大きな特徴です。

設計事務所に依頼するのは敷居が高い、と感じている人にも設計士の間取りを提案したい。そんな思いで現在の間取りセカンドオピニオンサービスが生まれたそうです(写真提供:セカンド・プランニング 一級建築士事務所)

最も問い合わせが多いのは、新たな間取り図とコンセプトを作成してくれる「お試しセット」(税込み2万5,300円)。

依頼者の要望と現状の間取り図を確認し、新たな間取り図面を起こしてくれます。坪数を減らすなどの相談にも対応可能だそう(資料提供:セカンド・プランニング 一級建築士事務所)

リビングから中庭が見えるようにして開放感を高めたり、洗濯室の横にファミリークローゼットを設けて服の収納までスムーズにできるようにしたり、玄関とパントリーをつなげて家事ラク動線を作ったりと、主に子育て世代の暮らしを快適にする間取り修正プランニングを多く手がけてきました。

「間取りはSNSでたくさん情報が流れていますが、それがあなたにとっての正解とは限りません。建築士によるアドバイスで間取りは劇的に変わるので、間取り迷子になってしまったらぜひプロの力を借りてみてください」(セカンド・プランニング 一級建築士事務所代表・齋藤高之さん)

家づくりは一生に1度きりになるかもしれない大きな出来事。自分たちとは違った視点で間取りについてアドバイスをしてくれるのは、とても心強いですね。今まさに家づくりに取り組んでいる人、今後計画している人は、間取りのセカンドオピニオンサービスを利用してみるといいかもしれません。

【取材協力(前半部分)】
宇津崎せつ子・設計室
代表 宇津崎せつ子さん

住む人の生活と心を考えた、“家族を育む場”となる住育の家をコンセプトに住宅の設計を行っている。関西を拠点に活動しているが、全国から設計や講演の依頼が絶えない。一級建築士でありながら、占術鑑定士の資格も持っている。著書『家事・子育て・老後まで楽しい家づくり』も好評。
ホームページ/http://madori-plan.com

画像提供/宇津崎せつ子・設計室、建築プランナー 一級建築士事務所、セカンド・プランニング 一級建築士事務所