東武鉄道は2022年7月15日、新型特急「N100系」の愛称を「スペーシアX」(スペーシアエックス)と発表しました。運行開始日は発表からちょうど1年後、2023年7月15日です。

現在運行中の東武100系 特急スペーシアの正統進化版とうたわれるスペーシアXはどのような車両なのでしょうか。運行区間や停車駅など、現在明らかになっている情報をまとめてみました。

伝統と革新のエクステリアデザイン、現行のスペーシアを思わせるフォルム

スペーシアXの外観でまず目を引くのはその上品な白さ。東武鉄道によれば「日光東照宮陽明門・唐門・御本社に塗られた『胡粉(ごふん)』の白を彷彿とさせる高貴な白」をイメージしているそうで、そうした「伝統」へのこだわりは「X」の窓枠にも表れています。これは鹿沼市の伝統工芸である組子に用いられる幾何学模様をイメージした意匠で、窓枠だけでなくそこかしこにあしらっているといいます。

7月15日の記者発表会で展示されたスペーシアXの模型 窓枠の「X」が印象に残ります

運転席のある1号車と6号車は、現行スペーシアのフォルムを現代に進化させた丸みを帯びたデザイン。スカートは100系の形状をアップデートしたものです。ヘッドライトとテールライトには合計39個のLEDを採用しており、点灯数を替えることでロービーム・ハイビームを切り替えます。

旅の目的に合わせた様々な座席を用意

スペーシアX シートバリエーション
最上級の個室「コックピットスイート」

スペーシアXは6両固定編成で、座席数は212席。そのバリエーションは旅人の目的に応じられるよういくつもの種類が用意されており、たとえば贅沢な旅を楽しみたい方には6号車の「コックピットスイート」がうってつけ。私鉄特急最大の11平方メートルにもおよぶ広々とした空間は、最大7名まで利用できる「走るスイートルーム」です。また、6号車には現行スペーシアの個室をアップデートした「コンパートメント」も用意されています。

6号車個室「コンパートメント」

1号車には日本最古のリゾートホテル「日光金谷ホテル」などをモチーフとした「コックピットラウンジ」があり、4人掛け、2人掛け、1人掛けなど各種ソファーを用意。到着前に日光の味を楽しめるよう、カフェカウンターも設置し、ビールやコーヒーなどを提供します。

1号車「コックピットラウンジ」
1号車「カフェカウンター」
カフェカウンターで提供するクラフトビール(写真は開発中のもの)

そうした座席のほかにも、大人1名ずつで向かい合って利用できるボックスシートや、上質なプレミアムシート、お手頃なスタンダードシートを用意。一人一人の旅のスタイルにあわせて選べるよう、様々な座席が用意されています。

向かい合わせで利用できるボックスシート。定員2名2ボックスをセット販売するため、知らない人と向い合せることは基本的にはないそうです。シート同士の間隔は70センチほど確保されており、気の合った大人2人でのプライベートな旅にうってつけ。なお、各席1名のみとされていますが、子供は大人と一緒に座れるので、ご夫婦が乳幼児と一緒に旅をするといったシチュエーションにも対応します
3〜5号車のスタンダードシート。シートピッチは現行スペーシアと同じ110センチで、席の傾きはデフォルトで9°、リクライニングで15°まで倒すことができます(現行スペーシアは17.5°まで)座席の固さやデザインは浅草から日光の2〜2時間半程度の時間を快適に過ごせるよう設定されているとのこと。
肘掛けに小型のインアームテーブルを備えます。コンセントは背面に。アルミの削り出しで作られた背面テーブルは薄く綺麗な仕上がり(リバティは強化ビニル素材)
プレミアムシートは横3列(2+1)の配置で、東武鉄道としては初のバックシェル構造を備えます。手元のボタンを押すことでリクライニングする電動リクライニング。シートピッチは120センチと現行スペーシアより広くなります。
インアームテーブルや読書灯、ドリンクホルダー、コンセントなど装備は充実。枕は可動式で、首に巻くように手で触って形状を変化させることもできます

運行区間・停車駅情報・各座席料金

スペーシアX運行区間

スペーシアXの運行区間は東武スカイツリーライン・日光線・鬼怒川線 浅草〜東武日光・鬼怒川温泉間。停車駅は浅草・とうきょうスカイツリー・北千住・春日部・栃木・新鹿沼・下今市・東武日光・東武ワールドスクウェア・鬼怒川温泉です。

運行日・頻度は「毎日2〜4往復程度」としており、4往復は週末を中心に設定する予定。観光に便利な時間帯の発着ダイヤを検討中だそうです。

スペーシアX 停車駅と運行日・頻度

特急料金は3・4・5号車のスタンダードシートが1,940円、2号車プレミアムシートが2,520円。その他の座席はスタンダードシート特急料金に加えて特別座席料金が必要となります。1号車のコックピットラウンジ特別座席料金は、1人用席が200円、2人用席が400円、4人用席が800円。同様に5号車のボックスシートは400円/室、6号車コンパートメントが6,040円/室、コックピットスイートが12,180円です。

スペーシアX 各種特急・特別座席料金 スタンダードシート・プレミアムシート以外は特急料金(スタンダードシート)に加え、特別座席料金が必要です

「スペーシアX」の愛称に込められた意味は

「スペーシア」は東武特急の代名詞、日光・鬼怒川温泉エリアへの輸送を担います

ところで「スペーシアX」という愛称にはどのような意味が込められているのでしょうか。

前半部分「スペーシア」は言わずもがなです。日光・鬼怒川エリアの輸送の代名詞であり、「東武特急といえばスペーシア」という伝統や知名度・イメージを維持・継承しながら、より上質なフラッグシップ特急として「進化したスペーシア」を端的に表現したものとしたい。そんな想いが込められています。

では「X」はどこから来たのでしょうか? 東武鉄道によれば、

・車両エクステリアデザインにモチーフとして取り入れた鹿沼組子の象徴的な「X」模様
・新型車両による旅体験(Experience)を表す「X」
・新型車両がお客様に提供する様々な価値を表す「X」
・Excellent, Extra, Exciting, Extreme, Exceed・・・

これらに加え、「新型車両が、文化や人々が交わり(cross=「X」)縁をつくる存在であること」「新型車両が、未知なる(X)可能性を秘めた存在であること」から「X」の着想が加わったとのこと。ロゴも車両エクステリアデザインとの統一性を持たせるため、鹿沼組子をイメージした書体を新規開発して作成しています。

なお、期間限定で行われた愛称予想には約21000通の応募があり、現行スペーシアは約15000通であったことから考えるに、大いに注目を集めていると言えるでしょう。なお、予想結果では「スペーシアX」が一番でしたが、もう1つ競った候補もあったそうです。

まず2編成がデビュー、日立製作所が製造

スペーシアXは現時点では4編成を導入する計画ですが、まずは2023年7月15日に最初の2編成がデビューし、その1年後にさらに2編成を投入する予定です。現時点では現行のスペーシアを全て置き換えることは考えておらず、今後の追加はコロナの状況も見つつ検討するとしています。

車両を製作するのは日立製作所で、山口県下松の笠戸事業所で製造されます。同社が東武鉄道向けに車両を提供するのは、2013年に納入した通勤型の60000系以来のことです。