「お坊さんも困ってる」Amazonお坊さん便の仕掛人が語る″ネットで僧侶″の必要性 - 土屋礼央の「じっくり聞くと」(第1回) - 土屋礼央
※この記事は2016年05月06日にBLOGOSで公開されたものです
土屋:こんにちは、土屋礼央です。「ざっくり聞くと」というタイトルでやってきたこの連載。18回やっていくうちに「ざっくりもいいけど、馬鹿らしいぐらいにじっくりちゃんと文字にした記事があってもいいんじゃないか」と思うようになりました。そこで今回からは「じっくり聞くと」というタイトルに変えてお送りしていきます。
今日はそのリニューアル第1回として、昨年末、Amazon.co.jpで僧侶手配サービス『お坊さん便』の出品を開始し、大きな話題を呼んだ株式会社みんれびの取締役副社長・秋田将志さんにじっくりお話をうかがいます。よろしくお願いします。
秋田:よろしくお願いします。
◇賛否両論を巻き起こした「お坊さん便」
土屋:『お坊さん便』というのは、法事や法要などでお経を読んでもらいたい人のために、定額・追加料金なしで、好きな宗派のお坊さんを手配してくれるサービスだそうですが、どういうきっかけで始まったのですか。秋田:当社は2009年からお葬式の見積もりをいくつか紹介し、その中から葬儀社を選んでいただくというサービスを行っているのですが、その際に「お坊さんを紹介してほしい」という要望が非常に多くありました。
その背景としてはお客様がお坊さんとのお付き合いがなくなってきているということもあって、「どこにどう頼んでいいかわからない」「お葬式は突然のことなので自分で手配するのが大変」という声が多くあったんです。
またお坊さん側からすると、宗教観が薄れてきたり、檀家さんがだんだん少なくなっていることを心配しているという声を耳にしました。我々はそういうところをどうにかしたい、インターネットを使ってなんとかできるんじゃないかと考え、そこからお客様とお坊さんをつなぐ役割を担いたいということで、2013年からこのサービスを開始しました。
土屋:『お坊さん便』をAmazonさんで販売するということを、僕もネットのニュースなどで見ました。賛否両論大きな話題を呼びましたが、こんなに注目されると思っていましたか。
秋田:予想以上ですね。ある程度は予想していましたし、少しでも認知が上がればと思っていたんですが、それをはるかに超える反響です。
土屋:申し込みの状況はどうですか?
秋田:『お坊さん便』に関しては、Amazonさんへの出品以降、非常に伸びています。また、150人以上のお坊さんから問い合わせをいただきました。
土屋:お坊さんからの問い合わせが多いのですね。
秋田:多いですね。
土屋:それはどうしてなのですか。
秋田:やはり、日本の「都市化・核家族化」と「宗教観」が薄れてきていることがあると思います。これまではたいてい、檀家制度でどこかのお寺と付き合いがあるという状況だったんですけど、それが薄れているというのが一番ですね。
土屋:僕もお寺とのお付き合いがないですし、いくら払うのかとか、いつ渡せばいいのかとかわからない。だからこのサービスに関して、うちの奥さんも周りも「よくぞやってくれた」という意見ばかりなんです。”こりゃすげえな”と思っている中、仏教界の方からはいろいろクレームがあるというのもニュースになっていますが、それは想定していたことですか。
秋田:もともと取り組まれてきた背景がありますから、新しいことをやろうとする時には必ず賛否両論出るものだとは思っています。
その中で大事なのは、時代が変わっていって、いまお客様が困っている状況が一番の問題だということ。お坊さんとのお付き合いがないけれど、なんとか故人を供養したいと思っているということです。なおかつお坊さん側も新しいお客様との接点が持てなくて困っているという状況があるので、まずは、そこを解決していきたい。
人の価値観や時代の状況は変わってきていますから、そのニーズに合わせて順応していくというのは必要なことですし、我々としては時代に求められるようなサービスを提供することを目的としてやっています。
土屋:批判される方は、「読経に値段をつけるんじゃねえ」みたいなことを言うじゃないですか。それはどうなんでしょう。
秋田:お客様からの声としてもっとも多いのが「いくら払っていいかわからない」「お坊さんには聞けなくて困っている」という悩みです。そういったお客様の悩みを解決するために、全国のお坊さんにヒアリングをした上で、価格を設定しました。
◇お坊さんとの接点を作る「お坊さん便」
土屋:サービス自体は、2013年からやっているということですが、みんれびさんというのは、お葬式の会社なんですか。秋田:会社名は「みんなのレビュー」から「みんれび」になりました。設立時はレビューサイトでして、口コミや評判を集めてそのリアルな情報をインターネット上のポータルサイトとして運用し、それを見たお客様が各取引先に依頼するというものを作りたかったんです。現在は、葬儀プランの比較サービスや定額のお葬式プラン「シンプルなお葬式」を運営しています。
土屋:元からこういう「お坊さん」という発想はあったんですか。
秋田:最初はお坊さんを手配するという発想はなかったですね。ただ、お葬式に関しては当初から事業を拡大していくイメージはありました。自分が喪主として経験することになるのは一般的に人生のうちで2回くらいだと言われていて(両親)、そのときに適切な方法や決め方ができるかというと、なかなか冷静な判断が難しいんですね。
そこを、我々がヘルプすることができるんじゃないかということでスタートしました。我々は事業開始当初、葬儀業界の経験は全くなかったので、あくまでそういうところにニーズがあるんじゃないかという仮説でした。でも、実際に進めてお客様の声を聞いていくうちにやはりニーズがあるとわかり、葬儀事業の展開を拡大していきました。
土屋:『お坊さん便』の立ち上げは?
秋田:各宗派のお坊さんに、「すごく困ってらっしゃる方がいるので対応していただけませんか」というような相談をすることから始めました。
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◇お坊さんは「お坊さん便」ウェルカムだった
土屋:「それは違うでしょ」って方もいたんですか。秋田:ゼロではないですが、お坊さんから拒まれることは少なかったですね。基本的にお坊さんは、お経を読んでほしいと困ってる方がいれば相談に乗ってくださる。
土屋:じゃあ、みんなが待ち望んでいたものの、盲点だったわけですね。苦労はありましたか。
秋田:あまりなかったですね。お客様とお坊さん、どちらも悩みや問題を持っていらっしゃることを知っていましたので、そこをうまくマッチングできればと思っていましたね。
土屋:思ったより大変だったことは?
秋田:宗派はご家庭によってそれぞれですが、地域によって特定の宗派の方が多い、少ないということもあります。地域によっては、希望の宗派のお坊さんが見つからない場合もあります。お客様はもともと住んでいた地域から移り住んでいらっしゃることも多い。例えば静岡の提携しているお坊さんには浄土真宗の方が少ないということで、他の地域から浄土真宗のお坊さんに来ていただく、そんな苦労はありますね。現在は提携数が増えてそういったことも少なくなりましたが。
土屋:自分の宗派はみなさん知っているものなんですか?「家の宗派はなんだろう?」って知らない人も多そうですが。
秋田:知らない方も多くいらっしゃいますね。そういう場合は、親戚の方などに過去にどういうお坊さんとおつきあいがあったのか確認していただきます。またはお仏壇やご位牌を見ていただくとわかることもあるので、それを写真に撮っていただいて、写真を見て想定される宗派をお伝えしています。
土屋:Amazonに出品するとき、最初はどういうところから提案されたのですか。
秋田:我々が提供しているサービスの中で、何かマーケットプレイスで出品できるものはないかということで相談しました。
土屋:その中で『お坊さん便』がOKになった。
秋田:はい、他のサービスは今後検討していくというところですね。当社は葬儀のサービスが軸になりますが、葬儀は緊急性が高いもの。他のサイトを経由すると、お客様が申し込みしてから決済確認などが発生し、その後我々が実際に動くという形なので、申し込みから時間がかかってしまいます。
それならば、まずはお申込みから実施まで時間に余裕のあるものから出品するということになりました。ですので、今回のAmazonさんでの『お坊さん便』の出品では葬儀への手配は行っていません。法事・法要に限って申込み可能です。
土屋:もともと値段がないようなものと言われていますが、「葬儀を除く主要な法事・法要での読経 税込35,000円」という値段はどういうところから決めたのですか。
秋田:もともと我々は葬儀のサービスを提供していましたので、その中でお付き合いのあるお坊さんやお寺さんなどに聞いて、全国の相場を調べ、どれくらいの価格帯が良いかヒアリングした上で設定しました。
土屋:この「35,000円」というのは標準的なのですか?安いのですか?
秋田:標準的だと思います。
土屋:お坊さんが減っているという記事もよく読むのですが。
秋田:減っているというのは、お坊さんやお寺さんとのお付き合いが減っているということですね。
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◇税金はどうなってるの?
土屋:お坊さんにお礼というと税金がかからないわけですが、商品にすることで税金が発生するのでしょうか。秋田:我々としては手配する料金である事務手数料が売り上げになりますので、そこでしかるべき税金を納めています。お布施の内訳はお坊さんにお任せしています。
土屋:Amazonさんはクレジットカードが使えますよね。
秋田:Amazon経由の場合は、我々に一度売上が入りますので、そこで我々がしかるべき税金を支払って、お坊さんに残りの分をお支払いします。その場合も、お布施はそれぞれのお坊さんにお任せしています。
土屋:派遣会社みたいなものですか。
秋田:派遣業ではありません。労働者派遣については、労働者派遣法といって法律で定められていて、私たちのサービスはお客様個人へ僧侶様を紹介するサービスですので、派遣事業でありません。そういったことも含めて、顧問弁護士にひとつひとつ確認をしながらサービスを運営しています。
土屋:本当にちゃんと準備して始められたんですね、付け入る隙がない(笑)。みんれびさんがやっていることの仏教界に対する影響度はすごいと思うんです。
秋田:葬儀や法事法要をインターネットでお申込みをするという形は、今後その比率は上がっても、それが全てにはならないと思っています。少なくなってきているとはいえ、もともとお付き合いのあるお寺さんやお坊さんがいらっしゃる方は多いので、今の我々のサービスを利用する方はまだまだほんの一部だと思います。
ただ、我々は今まさに、お坊さんと接点がなくて困っているという方の悩みを我々が解決していくという意味では非常に大きな使命を持って事業を行っています。
土屋:とはいえビジネスじゃないですか。売り上げ目標とか、どのくらいの規模にしたいという目標はあるんですか。
秋田:2014年度は、年間約8000件のお問い合わせをいただいているんです。2015年は120%くらいのペースで増加していますので、困ってらっしゃる方はもっといると思います。より多くの方にこういったサービスがあると知っていただくことが重要だと思っています。
土屋:今後、安易に「テレビ電話でお経を読んでほしい」なんて要望も出てきそうですが、この先にも何かがあるんでしょうか。
秋田:インターネットで解決できることと、そうじゃないことが絶対にあると思うんです。今、ネット上で完結するサービスは沢山ありますが、葬儀や供養は絶対にリアルはずせないですし、はずしてはならないと思っています。日程調整などの部分をオンライン化していく可能性はありますが、さきほどおっしゃったテレビ電話で供養するというようなことは、我々は考えていないですね。
土屋:リアルというのが大事なんですね。
秋田:葬儀・法要でお経を読んでいただくその供養の大切さは、ネットや電話では絶対に伝わらないですね。そのときにお経を読んでもらう側、遺族側がお坊さんのお経と共に故人を供養する思いが最も大切なので、そこはインターネットを活用したビジネスでも棲みわけて考えています。
土屋:ユーザーが困っているようなこと、他にもあるんですか。
秋田:今の事業の主軸はお葬式ですが、お坊さんの手配から、お墓、お仏壇、相続といったことが、今一番の困っていらっしゃるポイントかなと思うんです。
◇23歳で葬儀ビジネスの世界へ
土屋:今後は、冠婚葬祭全部行けるんじゃないかと。株式会社みんれびさんは2009年に創立された会社ですが、どういう経緯で起業されたんでしょうか。秋田:もともと様々なレビューサイトを運営していて、その中に葬儀関係もあり、今後伸びるようなマーケットはどこだ、と見極めて葬儀の市場に本格的に取り組むきっかけにたどり着いたという感じですね。
土屋:お葬式関係の親戚がいるとかじゃなくて、何かありそうだなというところだったんですね! 秋田さん、その話を最初に聞いたときはどう思いました?
秋田:当時はあまりピンとはきてなかったですね。葬儀にあまり触れたことがなかったので、インターネットで依頼する人がいるのかと半分くらいは疑っていたんですが、実際に動きだしてみると(これまでの葬儀市場の旧来の仕組みには)課題があることが見えてきたので、そこを我々が解決できるんじゃないかと思ってサービスを考えていきました。
土屋:ところで、いまおいくつなんですか。
秋田:30歳です。
土屋:ええええっ!!若っ!!30歳でお葬式考えますか!?
秋田:23歳でこの業界に入っていますので、その当時から…(笑)。
土屋:秋田さんは、どうしてこの会社に入ったのですか?
秋田:実は、CEOの芦沢雅治とは高校の同級生でして、芦沢が会社を立ち上げたときに、ちょうど私が当時勤めていた会社を辞めるタイミングで、一緒にやろうと声をかけてもらって創業メンバーに加わりました。みんれび入社前は保険の総合代理店で、インターネットでお申込みを受け付ける仕事をしていたので、最初に始めた仕事は多少似ていたと思います。その会社には新卒で入りまして、数ヶ月で辞めてベンチャーに来ました。
土屋:ベンチャーに行こうと思ったのは?
秋田:誰かの下でやるよりも、ゼロベースから自分でやったほうが圧倒的にいろんな経験ができるし、成長できる。もともと保険会社にもそういう思いがあって入ったんですが、みんれび立ち上げの話を聞いて喜んで入りました。
土屋:こんな30歳になると想像していましたか。何かきっかけがあったんですか。
秋田:アメリカに留学してからですね。高校を卒業してからアメリカの大学に行かせてもらったんですが、価値観が変わりました。自分で何か行動を起こせば周りが変わっていくというのを目の当たりして世界観が変わった。芦沢も留学経験があるので、同じようなことを感じたのだと思います。
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◇まずは「行動」してみること
土屋:これから起業しようと思っている若者にアドバイスを…!秋田:やりたいことよりも、どうなりたいかを設定した上でやることを決めて、そこに向かってとことんやることじゃないでしょうか。そうすると自分が変わりますし、自分が変わると周りも変わるんですよね。自分の活動をどんどん発信していくと、「こうしたほうがいいよ」と助けてくれる人が出てきます。僕も目上の方々に可愛がってもらってきて今があるので、まずは行動してみることと発信することですね。
土屋:いま社員さんは何名?
秋田:3人から始まって今は40人です。葬儀事業が伸びていくのと共に、メンバーも増えてますね。
土屋:会社の成長は、想像した通りのスピードですか。
秋田:創業当時よりは少しゆっくりかもしれません。ただ、遠回りしながらも着実に進むことが一番早道だと思っていますので、もっといろいろな経験をしながら成長していけたらと思います。
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■じっくり聞いてみて
土屋:正直に言うと、恐らく既存の仏教界からの雑音に関してに嫌悪感を感じているだろう。そこら辺りへの愚痴や対抗心みたいな言葉でも聞けたら面白いな…と下世話な感じでお話を伺おうと思っていましたがお話を伺えば伺うほど、事業に純粋な秋田さんでした。対抗心を煽ろうとした自分を反省…そもそも、お坊さん便は素晴らしい事業だなと思っていたのですが、 お話を伺って、より一層今後が楽しみに。 そして、みんれびさんのファンになってしまった。
じっくり聞いているうちにお坊さん便の事ではなく、秋田さんみたいな若者が増えたら良いなと思ってしまい、起業をしようとしている若者にアドバイスを…なんて聞いてしまいました(笑) 自分が変われば、周りも変わる…。
チャンスは全部自分の中にあるなぁ。
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■秋田将志
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株式会社みんれび 取締役副社長 兼 COO
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