ガチャ課金がゲーム業界を変えていく - 赤木智弘
※この記事は2016年05月01日にBLOGOSで公開されたものです
スマホのアプリゲームなどによく見られる課金携帯である「ガチャ課金」でのトラブルが相次いでいることから、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、全てのガチャアイテムについて得られる確率を表示することなどを求めるガイドラインを策定したという。(*1)(*2)
記事にあるように、つい最近、グランブルーファンタジー(グラブル)で「期間限定でレアアイテムの出現率アップ」という告知をしたが、その確率が明示されていなかったことから騒ぎになり、結果として個別アイテムの出現率を明示するという事があった。(*3)
それ以前は「レア82%、Sレア15%、SSレア3%」という数値だけが明示されていたが、実際には同じSSレアの中でも出やすいSSレアと出にくいSSレアが設定されていた。そして、その数値が一番低いもので0.007%と小さいものであったため、わずかばかりに出現率をアップしたところで、ユーザーには出現率アップの実感がなかったようだ。もし、単純にそのアイテムだけの出現率を2倍にしても、出現率は0.014%で、ガチャ1万回に1枚強しかでないのだから、実感が無いのも当然だろう。
もちろん、同じSSレアでも同じSSレアのアイテムがいくつもあるのだから、特定の1つのアイテムの出現確率が3%ではないことは少し考えれば分かることである。しかし、SSレアの確率が3%であるというざっくりとした数値だけが明示されていたことが、さも3%程度の確率で目当てのアイテムが出るかのような誤認につながり、実際の確率との差にユーザーの不満が鬱積した結果、大きな騒ぎにつながったと考えられる。
確率の問題は決してグラブルだけが引き起こした問題ではない。
ユーザーは常に全てのガチャ課金の出現率に対して「疑念」を持っていたし、今も持っている。
ネットでは、まことしやかに「あのゲームの運営は、特定のアイテムの出現率を0にしている」とか「課金が多いユーザーに対して、SSレアの出現率を絞っている(一度財布が開いたユーザーの中には、望みのアイテムが出るまで最大限に課金をする人も多いため)」とか「一部の特定の広告塔の役割を果たすユーザーには良いアイテムが出やすくしている」といった真偽不明な流言が流れるものである。中には実際にバグで特定のアイテムの出現率が0になっており、公式に謝罪した例などもある。(*4)
こうした流れを受けて、ゲーム団体が個別確率を表示するようになるのは、当然の対応であるといえる。
ただし、問題はその先である。
人間はたいてい物事を自分にとって都合よく考えるものだ。
例えば単純に、とあるアイテムが1%で出現すると明記されていたとして、多くの人は「50回も引けば出るだろう」と考えてしまう。もう少し賢明な人なら「100回引けば出るはずだ」くらいに考える。しかし実際には100回引いて1枚以上1%のアイテムが出現する確率は約63%であり、約37%の人たちは「100分の1なのに、100回引いても出ない!詐欺だ!!」と感じてしまうのである。(*5)
理由としては4Gamerの記事にあるように、ガチャでは何度試行を繰り返しても、母数が減らず、その確率が全く変わらないから、100回引いてもかならず出るわけではないのである。
しかしこうした理屈を理解してもなお、我々は確率というものを、商店街のガラガラと勘違いしがちである。「すでに何回まわしたから、次はきっと出る」そんな考えでガチャを引き続けてしまう人は後を絶たない。
そして結局のところ、これこそがガチャ課金でゲームメーカーが儲けを産んできた仕組みそのものなのである。
ユーザーが勝手に都合のいい結果を夢想して「少しだけ」とガチャを回し、結果として当たらないからさらにつぎ込む。ガチャ課金を行うアプリゲームの収益は、必ずそのことを前提として組み込んでいる。ならば当然「どうして当たらないんだ!詐欺だ!」というユーザーの怨念も、収益の前提として組み込まざるをえない。例え確率を表示したとしても、そのことは決して変わらないと言える。
これらの問題に対して、グラブルは1つの解決方法を提示した。
ガチャイベント期間中にガチャ利用回数が300回を超えた場合に、対象アイテムから好きなものをひとつ獲得できるという、天井機能を実装したのである。(*6)
ガチャ300回は9万円相当になるが、無料で手に入るゲーム内アイテムや各種プレゼントで貰えるチケットでもガチャを行えるので、実際にはもう少し安く済む。それでも大半のプレイヤーにとっては全く手の届かない、かなりの額であることは言うまでもない。
逆に言えば、アプリゲームの希少なアイテムを手に入れるために、10万以上の課金を行う人が常にいるということでもあり、メーカーはこうしたユーザーを優良顧客としてきたのである。
現在40歳のぼくが子供だった頃、ちょうどファミコンが発売され、家庭の中にゲームが入ってきた。
しかし、そのソフトの価格は5000円前後だった。そして今でもコンシューマ機のソフト価格は新作で7、8000円くらいが平均価格である。当時はその値段で買いきりだった。ソフトの中身は全て自分のものとして遊びつくすことができた。今はネットに繋がっていることが前提で、課金アイテムが販売されることもあるが、見た目の変更などといったゲーム内容に大きな影響を及ぼさないようなアイテムが多く、課金の多少でゲームの有利不利を大きく変えることは比較的控えられていると言える。
ガチャ課金を主とするアプリゲームの場合でも、大半のユーザーは0円なり、常識的な課金額で遊んでいる。自分の実例としても、今は少し離れているが、毎日プレイしていた頃は「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」に月1000円程度を使っていたし、現行プレイしている「予言者育成学園 Fortune Tellers Academy」は、今のところ完全無課金でプレイしている。
しかし大半のユーザーと異なるごく一部のユーザーが、ゲームに数万数十万を突っ込んでいる。メーカーとしては当然、そうした優良顧客を逃さないために、そして最大限財布の紐を緩めさせるために工夫をしている。課金ユーザーは強いキャラクターや有利なアイテムを大量に手に入れ、ランキングの上位に君臨し、特別なアイテムを手に入れることができる、そんな羨望の的になれる。アプリゲームでは、ユーザーは同じゲームをプレイしているというだけでは、等しくゲームの楽しさを享受できる立場にないのである。
そうして、大金をつぎ込むユーザーの声は大きくなり、時には賛美、時には憎悪となってメーカーに跳ね返り、対応を余儀なくされる。 かつてコンシューマ機向けにゲームを開発してきたメーカーが主軸をスマホアプリに移して来ている今、課金という収益モデル独特のユーザーとメーカー間のダイナミズムが、今後どのようにゲーム業界を発展させるのか、もしくは萎縮させてしまうのか。子供の頃からずっとゲームに親しんできたぼくとしては、とても気がかりである。
*2:「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」制定に関するお知らせ(CESA)
*3:「グランブルーファンタジー」 ガチャの出現確率を個別表示開始 0.007%という数字に驚きの声も(ねとらぼ)
*4:スマホ版「パワプロ」がガチャで炎上 対象キャラ排出されず、お詫び配布発表もユーザーの怒り収まらず(ねとらぼ)
*5:出現確率1%のガチャを100回引いても,4割近くの人は全部はずれる。“本当の確率”を読み解いてみよう(4Gamer.net)
*6:「グランブルーファンタジー」の今後の方針について(Cygames)