「安倍総理くらい、子育て問題、待機児童問題に一生懸命な総理はいない」【各党に聞く福祉・若者政策】 - BLOGOS編集部
※この記事は2016年03月29日にBLOGOSで公開されたものです
今年7月に実施される参院選。憲法改正の争点化や18歳選挙権などに注目が集まっているが、各党は福祉・若者世代向けの政策についてどのように考えているのだろうか。BLOGOS編集部では参院選に向け、主だった党の担当者にインタビューを実施。今回は、自由民主党所属で、前厚生労働大臣の田村憲久衆議院議員に話を聞いた。【大谷広太(編集部)】
■「自民党は働く人々の味方」
-現政権下では、アベノミクスの成果もあり、働く人も増え始めています。ただ一方で、「増えているのは非正規雇用ばかりじゃないか」という批判も一部にあります。雇用の面での現政権での成果や取り組みについて教えてください。田村:「非正規雇用ばかりが増えている」と言われるんですが、少し勘違いがあると思います。そもそも人口構成比上、毎年200万人規模で定年退職者が出る一方で新卒者は120万人なのです。つまり、放っておいても正規雇用は減っていく構造になっている。また、今は仕事が増えているため、定年退職後、嘱託や継続雇用で働いている方も多くなっているのですが、こうした方々は非正規雇用です。女性もどちらかというとパートタイマーの方々が多い。
そうした中にあっても、最近は景気も上向きになり、正規雇用もここ2年ぐらいは良い状況になりつつあります。先ほどお話した前提の中でも正規雇用が伸びたということは、今まで不本意に非正規雇用だった方が正規雇用で働き出しているということなので、雇用状況は改善していると考えられます。
また、現在(1月)、完全失業率が3.2%です。よく3.4%程度が均衡失業率だと言われているので、ミスマッチ以外は、ほとんどの方が働いている状況に近いのではないかと言われています。実際に有効求人倍率を見ても、雇用の部分ではタイトになってきているのが現状ではないかと思います。
とはいえ、今回の春闘について安倍総理は「やはり賃金の上がり方が十分ではない」とおっしゃっています。最低賃金も私が大臣になったときに上げ始めて以来、15、16、18円と2ケタ増が続いていますが、できるだけ早い時期に加重平均で今の798円から1000円まで上げていかなければなりません。
そのためには中小零細企業が利益をあげていく必要があると考えています。なぜなら、そうした企業で働く方々が圧倒的に多いからです。最近は大企業の業績も世界的要因で難しいところもありますが、史上最高益が続き、内部留保の問題も指摘されていますので、大企業は自社の社員だけではなく、取引のある下請け、自動車産業の場合などは4次請け、5次請け、そういうところまでちゃんと発注単価が上がっていかないといけません。それによって下請けの中小企業に勤める方々の給料をあげて行く必要があるので、春闘だけではなく発注金額もしっかりと上げていっていただきながら、日本全体に良い好循環が生まれるよう、お願いしているところです。
-「働き方」も重要なテーマだと思います。最近では、「女性の社会進出」の議論の中で、男性の働き方・休み方についても議論されていると思いますが。
田村:最近は、雇用状況が非常にタイトになってきているので、いわゆる"ブラック企業"はある程度淘汰されていくと思います。大手企業でも待遇を改善したり、非正規雇用から正規雇用に切り変えていくところが出てきています。
「働き方」について言うならば、まず長時間労働を是正する必要があります。様々な働き方がある中で、女性に対して一律に「男性と同じように働け」と言うつもりはありません。しかし、意欲のある女性の方々が男性と同じようなキャリア形成をしていくにあたって、「男性はこんなに残業をしてるから出世するんだ」というのでは、それこそ女性が子どもを産み育てていると、男性と差が付いてしまう、という話になってしまいます。
そうではなくて、男性が無理な残業をしなくてもキャリアが形成できるようになれば、女性も同じ働き方でキャリア形成できますから、「じゃあ二人で協力して、家事も子育てもできるよね」という、非常に良い社会になると思います。そのために、まず男性などの長時間労働を是正するということで、厚生労働省も「かとくチーム(過重労働撲滅特別対策班)」を作って、過重労働への監督、ブラック企業対策をやっていますし、労使で話し合って「労働時間の見直しを進めて下さい」という指針のようなものを法律の中に盛り込んでいくなどしています。
現在、週の労働時間は本来40時間なのですが、「36協定」を結ぶと一定時間の範囲で残業ができるという仕組みになっています。ところが、さらに特別条項を結ぶと、「半年間にわたって上限なし」ということも可能になります。もちろん、実際に使っている企業は多くなく、何かあったときのための企業の“お守り”みたいなものですが、それでも青天井というのはさすがにひどすぎる。個人的には、こうした制度を見直すこと自体が一つのメッセージになりますから、検討していく必要があると考えています。
このように国を挙げて長時間労働を是正する。そして、それによって生産性を上げる。もちろん生産性が上がったからといって労働投入量が増えるとは限りませんから、その分を働きたい、活躍したい女性の方々に入っていただく。あるいは、「まだまだ自分は若いんだ」という高齢者の方々にも、週に2、3日と言わずに5日働いていただく。「その代わり残業はしません」ということになれば理想的ですよね。このように様々な方に社会にしっかり参加していただくのが健全なあり方なのではないかと考えています。
これは、これまでの日本型の「企業に人生を捧げます」といった働き方からの転換です。ヨーロッパは「ジョブ型」「職務型」、日本は「メンバーシップ型」「職能型」と言われています。つまり、「終身雇用・年功賃金」といったものが、これまでの日本の働き方だった。そうではなく、例えば勤務地を制限して転勤がない正社員。「ずっとこの仕事やりたいんだ」という希望に応える転属がない正社員。労働時間に制限のある正社員。こうした"限定された正社員"の形があっても良いと思います。
多様な正社員像を作っていく中で、不本意ながら非正規雇用だった方々が正規雇用になっていくことも重要です。また、あえて非正規雇用で働きたい方もおられますから、そういう方々には同一労働同一賃金を適用すべきです。もちろん、何が「同一労働」なのかを明確にする必要はありますが、日本は正規雇用と非正規雇用の賃金格差が大きいので、比較的格差の小さいヨーロッパの国々を参考にしながら、格差を縮めていくことが大事だと考えています。
このような取り組みを進めながら、働きたい方が人間らしい働き方を選択でき、ワークライフバランスを守り、本当にやりがいを持って生活できる環境をしっかり作っていきたいと考えています。よく「自民党は大企業の味方だ」などと言われることがありますが、決してそんなことはありません。我々は働く人の味方でもあります。大企業で働いていない国民の皆さんの方が圧倒的に多いのですから。
-確かに自民党には「企業の味方」「伝統的価値観重視」といった印象があると思いますが、時代の変化に合わせて制度も変革していくと。
田村:工業化社会化した高度経済成長の成功体験を元に「このままで、まだまだ行けるんじゃないか」という部分もあったかもしれませんが、この20年を見れば、「もうそれではうまく行かないよね」ということはわかっています。
例えば、若い方々に聞けば誰だって「結婚したい」と言います。漠然とでもそう思っている方々が結婚できる環境を作られなければいけない。子どもについても、理想では2.4人欲しいと多くの人が答えていますが、現状では平均1.96人ですから、結婚後、産み、育てづらい社会を改善していくことが重要だと思います。
■「『保育園落ちた日本死ね!!!』は非常にすばらしい文章」
-まさに今、待機児童の問題が非常にクローズアップされています。「女性の活躍推進」を進めるためには、この部分の政策が非常に重要になります。田村:私は、例の「保育園落ちた日本死ね!!!」という文章について、散文的に見て非常に素晴らしいなと思いました。無駄が削ぎ落とされていて、非常にインパクトがあって、胸にグサッと入ってきました。あれを書いたお母さんは本当に文才もあり、深刻な状態にあるのだと思います。それだけに、これだけ話題になったのでしょう。
ただ、あれで「安倍内閣は子育てに熱心じゃない」といったイメージが付いてしまった面もあるので、そこは一生懸命説明していく必要があると思います。なぜなら、安倍総理くらい、子育て・待機児童問題に熱心な総理はいないからです。
私は厚生労働大臣だったのでよくわかるのですが、もともと自民・公明・民主の「3党合意」による「税と社会保障の一体改革」の計画では、「保育園の定員を7年間で40万人分増やす」という予定でした。
しかし、私が厚生労働大臣になって総理から言われたのは「7年で40万人じゃ追いつかない、5年でやってくれ」ということでした。私は「2年も早めるんですか?いくらなんでも物理的に…」と答えたのですが、「いや、色々な知恵を出してほしい、田村さん」と総理は言われたのです。
正直申し上げて、安倍内閣以前の保育所枠の増加数は年間で3~5万人でした。それを私が大臣になってからの一年間で7万人分増やしたのです。さらに次の年には15万分増やし、今年度も11万人分増える見込みです。当初予定の「5年で40万」に対して、すでに3年で30万人分ですから、あとの2年でもっと増やせると思います。それでも追いつかないというので、さらに加速をしていきます。「待機児童ゼロ作戦」というのを小泉政権でもやっていましたが、安倍政権ほど、この問題に熱心に取り組んでいる内閣はいまだかつてないと思います。
ただ、それでもなかなか待機児童が減らない。ひとつ不思議な数字があるのですが、毎年4月に大体2万1~6千という待機児童の数字が出てきます。しかし、これが10月になると4万8千という数字になる。先程も申し上げたように、毎年10万人分以上のペースで保育枠を増やしているのに、毎年4月と10月に、ほぼ同じ数字が出てくるのです。現在、厚労省に原因の分析を依頼しているのですが、潜在的な待機児童の顕在化がなぜこのような数字になるのか。ここに何か問題の糸口があるのではないかと考え、分析して原因が分かれば対応していきたいと思います。
すでに30万分の枠を作っていますから、あと20万人分増やせば、3歳未満の子どもの48%くらいは保育所、もしくは、認定こども園等々に入れるという計算になります。だいたいヨーロッパでもそのくらいですし、各自治体でアンケートでも同程度の数字が出てきますが、まだまだ待機児童が出てくる可能性もあるので、「これで我々の仕事は終わりというわけではない」という思いで進めていきます。
また保育士試験も年2回受けられるようにして、一生懸命養成に取り組んでいますが、離職・給料の問題があります。給料の問題については、安倍内閣で私が大臣になり、消費税が上がる前に補正予算で3%上げ、子ども・子育て支援新制度においても処遇改善等加算としてその趣旨が引き継がれています。
また、14・15年度補正予算の際にも人事院勧告に従ってそれぞれ約2%の改善を実施しているので、実は安倍政権になってから6%ほど引き上げているのです。ただ、月給ベースで見るとそれほど上がっていないように見えてしまう。年収ベースで見ると、平成25年が309.8万、26年が316.7万、27年が323.3万と、結構上がっているのです。ただ、一時金で支給しているところが多いので、年収ベースで増えていても月給ベースでは増えていないように見えているのです。
ただ、保育士さんたちと話をしていると、「給料を上げていただくのも有り難いんだけど、そればかり言わないで欲しい」といったことも言われるのです。つまり、辞めてしまう理由は、お金の問題だけではなく、保育日誌などの様々な書類に忙殺されて、次の日の子どもの保育のプログラムなどを考えられないという業務過多の問題もあるのです。あるいは保育園の場合、送り迎えで親御さんと毎日2回会いますから、その時に色々な心配事を相談されます。保育士さんは若い方が多い一方で、お父さんお母さんの平均年齢は上がっていますから、そういう応対もプレッシャーになっているようです。ですから、そうした際の対応能力や知識も研修などで身につけられるようにしていかなければならないと思います。
保育士は、好きでなる方が多い職業なので、それが途中で夢破れて離職…とならないよう、職場環境も含めてちゃんとフォローしていくことが重要です。できうる限り早く保育所の整備を進めて、待機児童を解消したいというのが今の自民党の考え方です。
■「どれを切って」ではなくバランスを見て「みんなが安心できるように」
―年金問題も含めた「世代間格差」を懸念している若者も多いと思います。若者が「上の世代と比べ、自分たちは割りを食うんじゃないか」という負担感を覚える中で、高齢者との利害調整を行うことは、与党としては困難な課題だと思います。田村:よく「安倍総理が高齢者に3万円配った」と批判されるのですが、働いている方々は、給料が若干なりとも上がっていますが、物価に対して高齢者の収入は上がっていない状況があるので、基本的には高齢の“低所得者層”に給付するという低所得者対策の一環なのです。
一方で、一人親家庭の子どもには一人あたり4万2千円くらいの児童扶養手当あるのですが、第二子、第三子以降の加算が非常に少なく、それぞれ5000円、3000円でした。それを第二子は1万円、第三子以降は6000円にしました。(第二子の引き上げは1980年以来、第三子以降は1994年以来)。年間で計算すれば、高齢者よりも多くなります。つまり、困難な状況にある子どもたちには高齢者以上の給付をさせていただいているんです。
「よく高齢者を優遇しすぎじゃないか」と言われるんですが、年金の例で言えば、年金があるからこそ、お年寄りの方々が田舎で独立して生活ができて、その子どもたちは都会などに行って仕事ができるという面があると思います。そして孫が来れば小遣いをあげられる。もちろん一緒に住んでいるところもあるでしょうが、そんな家庭だけではありませんから。
工業化社会が進み、大家族からだんだんと核家族になっていく中において、年金制度があるから支えられてきた部分もあると思うのです。「親の心配をしなくてもいい」という世代間の支えあいが前提なので、一概に「若い俺たちだけが損だよね」とは言えないのではないでしょうか。
ただ、そうは言っても、今の高齢者世代がもらっている年金の水準に比べると、現役世代と2割くらい差がある。「マクロ経済スライド」というのはそういう制度ですし、年金制度を安定化させるためには、物価が上がった分だけは年金は上げる必要があります。しかし一方で、その分だけ我々は平均寿命が伸びているのです。だいたい毎年0.1歳くらい伸びていきますから、30年経つと3歳伸びる。そうすると、5%くらいの損に収まることになるので、年金というのはそういう意味ではある程度公平にできている面もあると思います。さらに「3党合意」のときに決めた話ですけれども、消費税10%になれば低年金の方々には最大月5千円の福祉的給付みたいな形のものも始まります。
逆に言えば、我々は年金をもらえる年数が延びると同時に、その分だけ元気なんだから、働きたい人は働けるという社会になって、その分だけ年金受給を自ら選択して遅らせれば、もらえる年金の水準はあがります。今、受給開始時期は70歳まで選択できるのです。70歳を選択すれば、月々4割2分支給額が増える。早くもらいたい人はもらっていいし、「俺は元気だから70歳まで頑張って月々受給額を増やす」という形でも良いのです。
高齢者が働き続けることも含めて、様々な選択肢がある社会を作ることが重要だと思うので、高齢者も社会の中でご活躍いただいて、若い人とともに協働していく社会にしていきたいですね。
いずれにしても、少子化対策をしっかりやらないと、今のままで行けばどこかで破綻するのは間違いありません。どこかで人口減を止めないといけませんし、子育てと、将来高齢者になった時にもある程度安心できるということが相まって、「じゃあ消費に回そうか」という話になってくるわけです。そうすれば、景気もよくなって若い人も給料を稼げるようになるといった好循環を作らなければならない。ですから、「どれを切って」ということではなく、バランスを考えなから、みんなが安心できるようにする。それが政治の一番大きなテーマだと考えています。
―ただ、現状でも子ども6人に1人が貧困だという問題がありますね。
田村:こうした問題については、「生活困窮者自立支援法」という法律を大臣の時に作りました、住宅などについても対応しながら、働ける環境を作って…ということなのですが、特に母子家庭に関しては、働いているのに50数%が貧困、という数字が出ています。これもちょうど厚労省に分析を依頼しています。
そもそも一日何時間働いているのか。最低賃金ゆえに、ダブルワークで1日10時間働いているのにも関わらず貧困なのか。こうした実態を分析して、そこに対する対策を打たなければいけません。もちろん「高等職業訓練促進給付金」のような、3年間、毎月10万円を支給することで、その間の生活費を支援し、例えば看護師になっていただくという制度もあるのですが、まだすべての方々がアクセスできていないという問題もあります。
制度の存在が伝わっていないからなのか、それさえも受けられないような、もっと根深い問題があるのか、という実態を分析しながら、きめ細かく対応する必要があります。現状の制度で対応できないのであれば、例えば児童扶養手当の金額を上げるだけではなく、住宅、教育などを現物支給できないかなども含めて考えていく必要があるでしょう。
また、教育については、現在中学校で始めている「地域未来塾」という、教師OBや学生が、放課後に勉強を教える制度があります。これは全国の中学校の半分程度への設置を目安にしているのですが、中学校だけではなく、小学校も含めすべての学校に設置した場合、年間75億円程度の予算だと聞いています。
であれば、こうした枠組みを普及させても良いと個人的には思いますが、我々は与党ですから財源の確保なしに無責任なことは言えません。財源が確保できるなら、こうした取り組みを大きく打ち出していくのも良いと思います。
このように「子どもの貧困」については、教育と住むところと食事、この3つは最低限、どういう事情の家庭に生まれたとしても対応できるようにするべきです。「この家に生まれたから教育が受けられず、豊かになる道が閉ざされた」ということは、国として絶対許されない。その分野の政策はまだ十分でないところがあるので、私も呼びかけ人になって、超党派で「子どもの貧困対策推進議員連盟」を作りました。各党から様々意見が出てくるので、可能な限り迅速に進めて行きたいと考えています。
―すべての分野について、課題があることを認識をした上で、濃淡、スピードの差はあるけれどもきっちり対策はしているし、今後も取り組んで行こうとお考えのわけですね。
田村:やりたいことはたくさんあります。しかし、財政的制約や、今あるサービスを制限すれば、そこに負担がかかってしまう。高齢化によって、経常的にかかってくる費用もあります。国の借金も多額にある中で、「どれを選ぶのか」が問題です。
政権を担った政党に属したことのある方ならば、この苦しみをわかっていただけると思います。我々も苦しみながら、今ある課題に優先順位をつけて対応していく。本音を言えば、与党には実現できるからいいこともあるし、逆に実現できないから辛いこともあるというジレンマがあるのです。
田村憲久(たむら・のりひさ)1964年生まれ。1996年、初当選。連続当選7回。
現在、自民党政務調査会長代理。
厚生労働大臣、総務副大臣、文部科学大臣政務官 厚生労働大臣政務官を歴任。
自民党副幹事長、国対副委員長、政調副会長 、衆院厚生労働委員長の経験も。