※この記事は2013年10月12日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第293回

　はごろもフーズの主力商品である「シーチキン」シリーズの一部から、会社基準の10倍のヒスタミンが検出されたとして、商品の自主回収を決めたそうだ。
　原因は製造時の温度管理に不備があったと見られている。(*1)(*2)

　このニュースを聞いた時には、我が家にはシーチキンシリーズのストックはなかった。
　しかし、シーチキンマイルドには普段からお世話になっている。料理に使うこともあるが、不精なので大抵の場合は、ご飯を大盛りによそった丼にそのままシーチキンマイルドぶっかけて、醤油と化学調味料をちょっと振って食べることが多い。

　他社の缶詰を食べることもあるけれども、やはりシーチキンマイルドが自分には一番口にあう。ちょっと独特の臭みがあるところがいいんだよね。

　それはともかくヒスタミンだ。
　ヒスタミンは特に赤身の魚で発生しやすく「鯖にあたる」というのは、このヒスタミンによる食中毒(*3)であることが多いそうだ。

　熱に強く、一度増えると加熱しても減らないので、赤身のお魚は常温に放置せずしっかりと冷蔵、冷凍保存。ただし冷蔵の場合は早めに消費することが必要になる。
　缶詰は常温で長期保存されるが、新鮮なうちに調理加工することによって、ヒスタミンの増殖は抑えら得れている。今回はその調理加工が不完全だったと見られる。

　食中毒の危険性とか、きのこの毒で人が死ぬとか、そうした話を見聞きするたびに、僕は「自然って、人間にまったく優しくないな」と思う。
　ヒスタミンの増加は、マグロやカツオが自然のものだからこそのリスクである。そのリスクを踏まえて早めに調理し、缶詰にして空気を通さないようにして長期保存に耐えられるようにしたのは、人間の英知である。

　すなわち加工という人工的な行為によって、自然な変化をコントロールし、僕たちはいつでもシーチキンなどの魚の缶詰を安心して食べられるようになったのだ。
　僕たちが日常生活の中で触れる自然の大半は、人間によってコントロールされた自然である。そうした人工的に作られた自然は人間に対して優しい。しかし人間のコントロールを外れてしまえば、自然は突如として僕たちに牙を剥くのである。

　にも関わらず、世の中にはそうしたことを忘れて「自然は絶対に人間に優しい」と思い込んでいる人たちがいる。人間の英知があまりに当たり前に人間を守っているから、その巨大な傘が見えなくなってしまっているに違いない。

　食の安全安心ということを考えるのであれば、まずはこうした事件から、食品に対してしっかり人間の手が入ることが、いかに大切であるかを学んで欲しい。
　自然はただそこにあるだけであり、人間を守るのはいつでも人間の手であるはずなのだから。

*1：＜はごろもフーズ＞「シーチキン」６７２万缶を自主回収（毎日新聞）
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131011-00000085-mai-soci
*2：お詫びとお知らせ（はごろもフーズ）
http://www.hagoromofoods.co.jp/files/irnews/97.pdf/131011.pdf
*3：ヒスタミンによる食中毒（ 一般財団法人 東京顕微鏡院）
http://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/topics-foods/6784.html