※この記事は2013年09月25日にBLOGOSで公開されたものです

IT企業を中心とした経済団体「新経済連盟」の代表理事を務める三木谷浩史・楽天社長が9月20日、東京・有楽町の外国特派員協会で、外国人記者たちを前に英語で会見を行った。テーマは、グローバル化が進む世界で、日本がどう「競争力」を高めていくか。そのための大きなポイントとして三木谷氏があげるのが「英語」だ。社内の英語公用語化を進めるネット企業のリーダーは、その成果に自信を見せつつ、大学入試の大胆な変革を提言した。【取材・撮影／渡邉一樹】

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楽天社員のTOEICスコアは200点以上、上昇した

「楽天は2010年、非常に挑戦的なプロジェクト『Englishnization』を開始しました。2012年に社内公用語を日本語から英語にすると発表したのです。この宣言は、日本では大きなニュースになりました」

三木谷氏は、楽天の「英語」への挑戦をこう表現した。確かに、この発表は大きな議論を呼んだ。ただ当時は、本当に可能なのか、といった懐疑的な反応が多かったように思う。三木谷氏も「大会社のCEOの中にも『楽天という会社、三木谷という男はクレイジーだ』と、批判してくる人がいました」と振り返る。

しかし、そこから約3年が経ち、少なくとも社内では目に見えた成果が出ているようだ。

「7000人以上いる日本人従業員の平均TOEICスコアは、2010年10月時点の526.2点から、2013年8月には742.3点まで、200点以上も向上しました」

改善したのは点数だけではない。社内会議は英語で行われ、ほぼ全ての従業員が英語でコミュニケーションを取ることができるようになったという。三木谷氏は「思考法、世界観が変わり、従業員の行動までもが変わってきています」と強調する。

「日本語でなんとかなってしまう」という問題

会場からは「外国企業が日本人のIT技術者を雇って、日本以外の仕事も任せる、という考えをどう思うか」という質問も出た。

三木谷氏は「実は、私たちが『Englishnization』を始めた際、一番簡単に適合できるのは、おそらくIT技術者だろうと考えていました。しかし、それは完全に間違いでした。むしろ全く逆だったと言えます」と告白した。

何が間違っていたのだろうか。

「日本では、IT技術系の学部に進学する学生は、総じて英語が苦手な傾向にあります。典型的には、数学などの科学が得意で、文学や英語といった語学系の科目はあまり得意ではない人が多いのです。

また、日本語で書かれた教科書が充実しています。プログラミングの教科書を翻訳する必要があるのは中国と日本でだけ、などと揶揄されていますが……。つまりは、日本語でなんとかなってしまうのです。日本人IT技術者の英語能力が総じて低いのは、そういったわけがあるようです」

それでは日本を代表するIT企業として、楽天はそういった「問題」にどう対処しているのだろうか。

「われわれ楽天は、IT技術者に対しては『例外的措置』をとっています。英語ができないIT技術者が入社した場合には、特別に3カ月間、集中して英語を勉強させるのです。時には英語学習のために、海外に行かせることもあります。彼らはもともと能力が高いので、習得も早いですね。

もし日本人のIT技術者を雇い、海外のスタッフと一緒に働かせようとするなら、そういった事情を考慮しておく必要があるでしょう」

「アジア諸国に比べ、日本のグローバル化は遅れている」

ここまで「英語」に力を入れる背景は何なのだろうか。三木谷氏が強調したのは「使命感」だ。

「楽天は株式公開をしている営利企業ですから、ビジネスを拡大し、利益を生みだすことが使命です。しかし、私はそこに留まらない、もっと大きな『使命』を感じています。それは、日本企業に影響を与え、新しい方向性に導くような、ロールモデルを提供するということです」

自ら、猛烈な勢いでグローバル化を進める一方で、三木谷氏はこのように指摘する。

「グローバリゼーションという観点からは、日本はアジア諸国に遅れを取ってしまっていると感じています。それは、海外留学する学生の数が減っていることにもあらわれています。残念ながら、英語力は他のアジア諸国より低い。TOEFL（米国留学のために課される英語テスト）の平均スコアは、韓国が81点なのに対して、日本は70点しかありません」

英語教育を根本的に変えるためには「大学入試から変革すべき」

なぜ、日本人の英語力は低いのか--その原因は「教育」にあると、三木谷氏は考えているようだ。

「日本の英語教育は、文法と翻訳に特化しすぎています。会話力、表現力といった非常に重要なものが軽視されているのです。会話力や表現力を伸ばすためには、予算を増やして、英語を母語とする教師の数を増やさなければなりません」

そうなると、まず行うべきことは、英会話の教員を雇い入れること……となりそうだが、三木谷氏の思い描くロードマップは、そうではないようだ。

「まず最初のステップは『大学入試を変えること』です。私は内閣にも大学入試を変革すべきだと提案しました。大学入試という『ゴール』を変えれば、過程も変わると考えるからです。

日本国内だけで通用するテストではなく、より国際的で実用的な『役立つテスト』へと移行すべきです。具体的には翻訳と文法中心のテストから、例えばTOEFLのようなグローバルなテストに変更しようという提案です」

確かに、英会話の必要性を漠然と説くより、大学入試という目に見える「ゴール」を設定した方が、中高生やその親、教師たちの意欲向上に結びつきやすいだろう。そのあたりが実務家としてのセンスなのかもしれない。

しかしながら、そうした入試改革は、以前からたびたび指摘されていた事でもある。三木谷氏の提案は政府に受け入れられるのだろうか。

「政府は『やる』と言っています。いつやるのか、どれだけ早く実現できるのかはわかりませんが、基本的な方向性は変化しつつあると言えます。もしこれが実現したら、日本の英語教育に、劇的な変化が起きるでしょう」

三木谷氏はこう、期待を込めた。それは「英語革命」といってもいいほどの大きな変化を、日本の教育界に強いるものだろう。だが、そのような変革なくして、日本のグローバル化ははたせないと三木谷氏は考えているのだ。

外国特派員協会の会見は通訳を介して行われることが多いが、三木谷氏は質疑応答も含め、すべてを英語で通した。三木谷氏はもちろんネイティブではないし、多彩な表現で聴衆を魅了する--ということもない。しかし、全ての質問に素早く、はっきりとした言葉で応対する彼の声には、確かな自信と力強さがあった。

グローバル化するこれからの世界で必要とされるのは、こういった語学力だ--。彼は身をもってそう伝えようとしているのではないか。拍手を受けながら会場を後にする三木谷氏の後ろ姿を眺めながら、そんな風に考えた。

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