※この記事は2013年08月17日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第285回

　スタジオジブリの新作映画『風立ちぬ』が公開されている。
　その中のタバコの描写に問題があるとして、NPO法人日本禁煙学会が要望書を送ったことが話題になっている。（*1）

　タバコの話題には何度も触れているが、ここで改めて、僕の喫煙に対する姿勢を明確にしておきたい。 　タバコは商品として市場に流通しているものであり、未成年者の喫煙が禁止されているほかは、自由に嗜むことのできる嗜好品である。

　たとえタバコに健康被害という問題があるとしても、それを喫煙者自らが摂取することについては、幸福追求権として認められる。一方で副流煙の問題もあるから分煙が進むことが望ましい。分煙はあくまでも喫煙者と非喫煙者が同等な立場になることが求められるのだから、一方が他方を排除するような分煙は認められない。

　故に、昨今の過剰な嫌煙傾向という現状、タバコの話題に触れるときはたいていは非喫煙者が喫煙者を安易に排除しようとすることに反対する記事内容であることが大半である。

　こういうふうに、嫌煙傾向に反対する記事を書くと「喫煙者だからそういうことを言うのだ」という批判を受けることがあるが、私自身は全く喫煙習慣がない。決して自己の利益のために批判しているのではなく、健康被害というもっともらしい御旗のために、私たちの自由が損なわれたり、卑下されることを批判しているのである。

　さて、今回の件については、僕は常見陽平氏の見方(*2)に同意である。
　今回の抗議は日本禁煙学会による売名行為であると考えている。こうして賛否を呼び起こすことそのものが抗議の目的であろう。 　日本禁煙学会は「タバコ規制枠組み条約」を根拠に、スタジオジブリに対して「法令遵守をした映画制作」を求めているが、これも条約の恣意的な解釈によった批判に過ぎない。　

　タバコを描写することと、タバコの宣伝は大きく異なり、いくらタバコを吸うシーンが魅力的に描かれていようとも、それを「タバコの宣伝」とみなすことはできない。

　そして、そのような曖昧な理由をもって、要望という名の抗議活動を行うことは、表現の自由に対する牽制であり、僕は賛同できない。

　こうした批判が多方面からあったからだろうか、日本禁煙学会は条約を盾にするのを避け、映画などの作品によって子供たちが喫煙をすることが問題だとする「日本禁煙学会の見解」を出した。(*3)

　ところが、要望書では法令遵守求めていたのに、見解では子供の喫煙問題が中心になっており、作品の責任については「製作者の意図したものであるにせよないにせよ、結果的に「プロダクト・プレイスメント」の効果をもたらしています」という、ひどく曖昧な態度に変質してしまっている。

　そしてなにより、この変質によって、結局この団体がアニメ作品を「子供が見るもの」としてしか認識していないことが明らかになってしまった。

　日本においてはアニメーションは決して子供だけのものではなく、幅広い年齢層を対象とした作品として成立している。それを単純に「アニメーションだから子供ばかりが見るのだろう」という憶測の上で批判をするのは、作品に対する侮辱に他ならない。

　これでは、禁煙を求める人達であっても、この見解には賛同できないだろう。
　喫煙には様々な問題があるし、禁煙は世界の潮流である。だからといってこのように筋の通らないタバコ批判を繰り返していれば、いずれはタバコ産業がこうした潮流をひっくり返すことがあるかもしれない。

　今回の結論として、僕はこう主張したい。
　今回の日本禁煙学会による抗議活動は、日本禁煙学会の意図したものであるにせよないにせよ、喫煙に反対する人たちの幼稚さを浮き上がらせて、結果的にタバコ産業を利する効果をもたらしているのではないだろうか？

　日本禁煙学会は、「子供のため」という御旗を闇雲に振りかざすのではなく、もう少し相手に対する敬意をもって活動を行ったほうがいいのではないかと、老婆心ながら忠告させていただく。

*1：映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて（要望）（日本禁煙学会）http://www.nosmoke55.jp/action/1308kazetatinu.pdf
*2：『風立ちぬ』に抗議した日本禁煙学会に学ぶ「売名行為」「炎上マーケティング」の極意 - 常見 陽平（アゴラ） - BLOGOS（ブロゴス） http://blogos.com/article/68204/
*3：映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて（要望と見解）8月16日改訂版（日本禁煙学会）http://www.nosmoke55.jp/action/1308kazetatinu.html