『若い力。』で、地域から社会を変えていきたい～都議選立候補予定者・森山一氏インタビュー～ - BLOGOS編集部

2022年3月30日 0時0分

※この記事は2013年06月05日にBLOGOSで公開されたものです

実家は街工場を経営しているという森山一氏（編集部撮影）写真一覧

6月14日告示、23日投開票で行われる東京都議会議員選挙。今年30歳になったばかりの森山一（もりやまはじめ）氏は、この選挙戦に『若い力。』を合言葉に挑戦するという。1人の若者は、何故政治家を志したのか。「政治家を目指す」というのは、どのようなことなのか。サラリーマンから都議会議員を目指して日々奮闘する森山氏に話を聞いた。【取材・執筆：永田正行】

ずっと「どこかで誰かが上手く処理してくれている」と思っていた

―まず簡単に自己紹介をお願いします。

森山一氏（以下、森山）：森山一と申します。出身は、墨田区の東向島で、実家は小さな町工場を営んでいます。地元の小学校から、麻布中学・高校を経て東京大学に進学。文科三類から理転して、建築学科から大学院に進み、卒業後は安藤忠雄建築研究所で建築士として勤務していました。在籍中に一級建築士の資格を取得するなど、安藤忠雄事務所には、5年ほどお世話になりました。そして、今回日本維新の会から東京都議選に立候補する予定です。

―何故、政治家になろうと考えたのでしょうか？

森山：以前から建築業界に閉塞感を感じていたんです。その原因は建築業界だけの問題ではなく、社会全体のシステムにあると考え、少しずつ自分で勉強していました。そんな中で、2011年に東日本大震災が起こり、復興構想会議というのが立ち上げられ、議長代理に安藤忠雄先生が就任したんです。

復興構想会議の議題は、非常に多岐に渡りますので、私も主要メンバーとしてリサーチに取り組みました。そうした中で、この国のシステムの綻びや矛盾、問題点を自分なりに認識していったんです。正直に言って、それまでは若者にありがちな「政治に無関心」な状態でした。「どこかで誰かが上手く処理してくれている」とずっと思っていましたが、復興構想会議に携わる中で、「どうやらそうではない」ということに気づいたんです。

自分が仕事をしていた建築業界の中でも、決まったルールの中でしか行動できないため、結果として自分が本当にやりたいことができない場面がありました。ならばルールを変える必要があるのですが、その場合のルールとは法律や国の予算です。それを変えられる立場に建築業界出身の人間がいるのかと見渡してみたところ、見つけることが出来ませんでした。だから、自分が政界に出ることによって、ルールを変えるところから携わっていきたいと思ったのです。

―いきなり仕事を辞めて政治家というのはハードルが高いと思うのですが。

森山：政治の世界との間に漠然とした大きな壁を感じ、ハードルが高いと思っていました。しかし、実際に挑戦してみなければ本当に壁があるのかどうかも分からないので、具体的に勝算やプランがあったわけでもないですが、私はその壁を「エイヤッ」と乗り越えようとしてしまったんです。なので、政治家としての苦労は、現在、活動をしていく中で実際に経験している段階ですね。

―「政治家になる」と言った時、周囲の方々はどのような反応でしたか？

森山：今までに身内から議員が出ているわけではないので、家族は私の活動を見て「こんなに大変なのか」と驚いている状態です。友人たちは、驚く人も多いですが、「期待している」と言ってくれる人も多いです。私がやろうとしている政治活動は特定の勢力に依存するようなものではないので、政治活動も友人にボランティアでお願いしています。

今回の選挙も、自分の選挙というよりは私たちの世代と地域から日本を変えるきっかけと考えています。そのためには若い世代が選挙の仕組みを理解し、本当の選挙の姿を知るべきです。理想論かもしれませんが、選挙とは本来、お金ではなく思いで人が自発的に動くものであり、応援してくれる人によって支えられているのが政治家本来の姿だと思います。

―奥様は反対されたのでは？

森山：家族も、よく状況を理解していない中で活動しているので、苦労をそれぞれでシェアしながら進めています。こうした部分も議員になるハードルを高くしている要素ですが、それを取り除く必要があると思っているんです。つまり、立候補者の奥さんに過剰に負担がいく現状のシステムも変えなければなりません。議員になるために離婚すると言うような話になってしまえば、本当に世間から求められている人が出馬できないということにもつながってしまいます。

―例えばポスターや名刺を作るにしてもお金はかかります。日本維新の会からは資金提供がないわけですから、自身の蓄えや寄付金で作っているということですよね。

森山：そうですね。ただ、そうした「モノ」をつくるハードルは高くありません。ひとつ何円のものをいくつ作るかという戦略の話です。一番お金が掛かるのは人件費の方で、いままでの選挙戦でも頻繁に問題が報告されるのもこの部分です。政治活動に人員を動員するために、特定の団体に頼ることが多くなりますが、政治にまったく関係のない人が立候補するというのであれば、一般の方々に広く支えてもらうシステムでやるしかないと思います。今回、私たちはそのやり方で活動していきたいと思っています。

―政治家という職業は、免許や資格が必要なものではありません。「政治家をやります」と行動を開始した場合、まずは何から始めたのですか？

森山：他の方のことはわかりませんが、私の場合は地盤も看板もないですし、所属している日本維新の会の場合、党からのお金ももらえません。スタートは本当に０からです。親が区議会議員などだったわけでもありません。ゼロから政治家を目指すという意味では、特殊な人間です。まず、街頭に立って地域の皆さまに挨拶、演説したり、自転車にのぼりを立てて走りまわるなど、私の存在を知ってもらうことから始めています。

―日々、街頭演説と広報活動ですか？

森山：そうですね。他にも「ポスターを貼らせてください」というお願いに上がることもあります。地道な活動をするのが選挙の一部ですが、それも普通に生活していたらわからずにいたことです。立候補する、しないに関わらず、そういった仕組みを知ることによって全体が変わっていくと思います。

くだらないという人もいるかもしれませんが、こういうドブ板的選挙と呼ばれるような実態を知ってもらうことに意味があると思います。現状で、そういうシステムになっているのには、それなりの意味があるわけですから。また、全員が深い意味で政策を理解していないと、立候補者が本当のことを言っているのかどうかすらわかりません。さらに、何年も何世代も先に政策の効果が現れるものだとしたら、その仕組みがわかっていなければ本当の意味はわかりません。それこそ立候補者を信じるか否かという話になってきます。

―サラリーマンから政治家になったことで改めて気付いたことはありますか？

森山：ありすぎてわかりません。また、今は政治家ではありますが、議員でないので議員になったらまた違ってくると思います。

ただ、「政治」というものに対して不信感というか、拒否反応を持っている方が多いように感じます。例えば、活動の一環として、朝の通勤時間帯に駅で挨拶をしていると、「おはようございます」と返してくれる人も、「うるさい」と言ってくる人もいます。たしかに、うるさく感じる人もいるかもしれませんが、誰かから挨拶をされて、挨拶を返すくらいの余裕が今の世の中になくなっているのかな、とも思ってしまうんです。

もちろん「お疲れさまです」とねぎらってくれる人もいますが、一部の方には政治全体に対する不信感があり、明らかに拒絶する姿勢が見られます。それは今までの行いに対するリアクションなので、責任は政治側にあると思います。そこに対する違和感は、自分で経験して、はっきりと感じました。

小学生などは無邪気に名刺やビラを受け取ってくれますが、まれに「いりません」という子もいます。政治に対する妙な拒否感だけが浸透してしまっていると思うので、まずはそこから変えていきたいですね。朝からムスッとしている人が、仕事場について急に仕事に取り組めるのでしょうか。誰かから挨拶されたら、笑顔で挨拶を返すだけでも、しないよりはＧＤＰが上がる気がしませんか？（笑）。

議員としての経験の有無だけでは、有利・不利を語れない

―今回の選挙における勝算はどれぐらいだとお考えですか？

森山：数字で明示することはできないので、「頑張っていきます」としか言いようがありません。有権者とお話させていただいた限りでは、維新の会だからというより、若い人に対する期待感が大きいようです。だからこそ、多くの人にお会いし、私のことを知ってもらう必要があります。そして、それが勝利ヘの道として見えているとしか言えません。

―他の政党の方も立候補してくるでしょうし、政治家としての経験がまったくない新参者が勝つというのは、難しいと思ってしまうのですが。

森山：墨田区の場合、３つの議席に対して、5～6人の方が立候補すると見られています。自民党、公明党、民主党の現職の方、そして新人は共産党と維新の会です。衆院選からは状況が変わっているので一概には言えない部分がありますが、まず直近の衆院選では、既存政党に対する疑問の声が少なからずあった様に感じます。また、若い人間に対する期待というものも感じます。現職の皆さんと私は大分年齢が離れています。そうした他の立候補予定の方と自分を差別化して戦っていくことには意味があると思います。

―若いことにはメリットとデメリット両方あります。有権者に対しては「しがらみがない」「既得権益打破」といったＰＲができる一方で、経験と見識の浅さを指摘されることもあると思います。

森山：自分は、元々建築業界の人間ですから建築という分野においては、他の人とはまた違う経験と見識を持っています。議員は社会の様々な問題に触れる必要もありますが、それぞれの分野で特化して経験を活かすことができる部分もあると思います。”議員としての経験”が必要な部分については、まず機会をいただき、議員になってから経験するとしか言えません。まずは、私の人間性に期待していただいて票を入れてもらい、議員になってから経験を積ませてもらいます。

―森山さんは現職の議員にはない経験を既に持っており、そこに期待をしてもらいたいということですか。

森山：そうですね。加えて、大学を卒業して就職してから議員になる人もあまり多くありません。普通に働いていた期間もひとつの経験ですし、逆に言えば就職をせずに政治畑からそのまま議員になる人には積めない経験があるわけです。一般市民の目線に立って物事を考えられるという強みもあると思います。また、先ほどお話したように私は建築業界出身ですから、その分野の特定の問題に対しては、具体的な改善策を鮮明に打ち出すことができます。こうしたことを考えれば議員としての経験の有無では、一概に有利・不利を語れないと思います。

―具体的にどのような政策に携わりたいと考えているのでしょうか？

森山：例えば、現在の住宅のシステムは破綻をきたしています。戦後の日本は、年功序列制度の中でサラリーマンが専業主婦と結婚し、退職するまでローンを払い続けて持ち家で暮らすというのが一般的なモデルでした。しかし、現在の東京では世帯の平均人数が２人を切っています。これは、1人暮らしやDINKS（共働きで子供を意識的に作らない夫婦）が多くなってきているということです。さらに、今後は女性の社会進出が予想され、もはや持ち家を家族で購入することが一般的でなくなるかもしれません。

そういった変化に合わせて、もっとフレキシブルに住宅政策を考える必要があります。家賃は、一般サラリーマンの所得に対して大きな割合を占めていますし、欧米に比べて日本の借家の床面積は少なく、家賃はより高いのです。欧米の場合は、賃貸や借家のステータス、クオリティは日本より高くなっています。

社会を構成する上で住宅というのは基本になるものなので、そこに対する政策は重要です。特に墨田区の場合、地域のコミュニティが強く、新しい住まいのモデルを作れる可能性があると考えています。具体的には、銭湯を共有するマンションなどが考えられます。マンションの一室一室にすべてユニットバスを設置するのではなく、お風呂を部屋から取り払えば部屋の面積はより広くなり、別の利用方法が生まれます。代わりに、銭湯という広く快適なお風呂を住民で共有し、さらに福祉施設としての側面も付加できるかもしれません。そういった新しい住まいの形を、墨田区の地域性を活かして提案できる可能性はあると考えています。

―自分がもともと身を置いていた業界の知識を活かして政策を進めていくということですね。

森山：そうですね。東京都には建築に関わる問題も多くあります。例えば、木造住宅密集地域の問題です。一度取り壊してから再開発をするのではなく、耐震化・不燃化などを進めます。一方で、その中で増え続ける空き家を活用しコミュニティ内に核として埋め込めるように、老人や子どもが集まる施設をつくることもできるでしょう。むしろ、そういったことをしなければならない状況にあると思います。今あるコミュニティを活かしつつ、安心・安全に配慮し、ハード面では建築の提案をしていくという、これからの新しいモデルをつくっていかなければなりません。

私が、議会に出ることが出来れば、こうした取り組みを法的にも予算の面でも提案していける可能性があります。こうした分野であれば、これまで携わってきたわけですから専門家の方々と個人的なネットワークもありますし、現場の求めることに柔軟に対応していけるようになると思います。

―都議選はネット選挙運動が解禁される参議院選挙の直前の選挙でもあります。ネット選挙運動については、どのように考えていますか。

森山：ネット選挙運動が解禁されたからといって、いきなりすべてが劇的に変わることはないと思います。投票率自体、特に若者の投票率が上がるのであれば、ネットを利用した空中戦を仕掛ける意味はあります。

しかし、現状で言えばネット世代の投票率が急に上がることは期待できないため、ネットの利用は、現状の選挙という仕組みの中ではまだまだこれからの部分があるのではないでしょうか。重要なのは、やはり１対１で会話をして「この人だ」と思ってもらうことだと考えているので、ネットの情報で「いいね！」を押したから得票率が上がるのかは疑問ですね。

どこに投票するかを毎日考えている人はいないと思います。みなさんそれぞれの生活があり、その中で、たまたま駅で私の演説を見かけ、そこで私を知ってもらう働きかけをしています。その一瞬と、ネットで「森山一」を見たときのどちらが重いかと言えば、やはり直接会っていろいろな面で感じてもらった「森山一」の方でしょう。

―「日本を変える」「社会を変える」といっても、1人の議員の影響力は限られていると思いますが。

森山：議会では数が必要になりますので、当然１人では何もできません。

まず選挙を経ないと議員になれないですし、普通の人は選挙の仕組みを理解することすら難しい。普通に暮らしていれば理解する必要もありません。ただ、政治に関わろうとする若い力を増やすことで、「政治はハードルの高いものだ」という意識を変えていきたいと思っているんです。もし当選することができれば、私のようなゼロから政治家を目指した人間でも議員になれるというモデルとして広く認識してもらいたい。そして、同年代やさらに若い人に私の後をついてきてもらいたいんです。そして、その数が一定の勢力を占めるようになれば、まずは墨田区から変えていけると思っています。墨田区で始めることができれば、ゆくゆくは東京、東京から全国に影響を及ぼせると思っています。

若い人間の力によって地域から変えていくことができる。これを示すことができれば、日本全体で私の後に続いてくる人が出てくるのではないでしょうか。なので、ひとつのモデルケース、実験として政治活動をしていくつもりです。ここで私が成功しなければ、後に続く人が出てこなくなってしまうと思って活動しています。私が勝手に思っているだけですけどね。責任重大です。

―本日はありがとうございました。