【赤木智弘の眼光紙背】働け！ 公営住宅 - 赤木智弘
※この記事は2013年06月01日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第274回ネットカフェ大手が運営する、「居室」の基準を満たさないレンタルオフィスが、実質的にシェアハウスとして運営されていた問題で、今度は施設の閉鎖を理由に借手に強引に退去を迫っているそうだ。
住宅ではない契約であるため、借地借家法が適用されず、貸手が自由に即時退去を迫れる契約になっていたという。(*1)
まず、この問題で認識するべきは、これは決して単純に、貧しい人たちが仕方なく、こうした脱法ハウスに住み、不利益を被っているという問題ばかりではないということだ。
こうしたシェアハウスに住む人の中には「ほとんど家にいないので、住居は安ければ安いほどいい」と思っている人もおり、利用者側の真っ当なニーズも存在する。
それを考えるに、僕はこうした「狭い部屋」も、住居として認めてもいいと思う事がある。もちろん消防設備は命に関わるので必須としても、窓や広さについての規制が存在するのは、余計なお世話という気がする。
こうした規制の撤廃の影響は、賃貸の賃料、とくに一人暮らし向けの部屋の賃料の低下という形になって現れるだろう。選択肢が増えればそこに競争が発生する。これからの少子化を考えれば、一人暮らし向け住宅の供給過多傾向は明らかなのだから。
しかし、一方で競争の激化が結果として利用者軽視の風潮を招きかねないという懸念もある。特に住宅は人間の生存にとって飲食と並ぶ重要性を持つことから、住宅設備に関する規制は安易に外すこともできない。
規制の撤廃により競争が促進される可能性は高いが、規制の撤廃により住環境が悪化する可能性も高い。だが、それは結局、人間の生存に重要な住宅という施設を、単純な資本制度の中に置くから、そのような残念な二択を迫られるのだ。
解決方法としては「規制を維持したまま、競争を産めばいい」のだ。それを促進するのが、本来であれば公営住宅の仕事であると、僕はそう考える。
脱法ハウスのシェアは「価格が安いこと」であり、ならばそれ相応の価格の公共住宅を提供すればいいのである。しかし、今の公営住宅は夫婦だったり家族がいたり、高齢者だったり障害者だったりと、いわゆるカッコつきの「弱者」用の住宅が大半である。また、URなどは一般向け住宅を提供しているが、その価格は近隣の住宅相場から算定された価格になっている。だが、本当に配慮するべきは、本当に民間の賃貸業者に対してなのだろうか？
こうした間違った民間に対する配慮をとりやめ、個々の生存に配慮した住宅を提供するのが、本来の公共住宅の役割ではないだろうか。僕はそう思う。
結局、今回のような問題は、公共住宅が民間住宅への牽制になっていないことが、原因であると思う。
公共住宅が、本来の人間が住むべき当然の住環境を、その価格も含めて提供することができれば、あのような悪質な住環境に対するニーズは減るはずなのだ。ニーズを減らさなければ、ああした住宅は決して減ることはないのである。
*1：＜脱法ハウス＞突然閉鎖を通告 利用者に退去迫る （毎日新聞） - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130530-00000020-mai-soci
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
・@T_akagi - Twitter
