小沢一郎×堀江貴文～経済のグローバル化に政治はどう向き合うべきか？ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年05月23日にBLOGOSで公開されたものです
小沢一郎・生活の党代表と堀江貴文・ライブドア元社長。検察と熾烈なバトルを繰り広げた二人による異色の公開対談が5月上旬、東京都内でおこなわれた。脳科学者の茂木健一郎氏の司会のもと、二人の対話は、政治や司法、経済のさまざま話題におよんだが、なかでも熱を帯びたのは、「グローバル経済と日本の政治」をめぐる議論だ。企業利益の再分配の重要性を訴える小沢氏に対し、堀江氏がグローバル企業家の視点からズバズバ切り込んでいく。そんなホットなやりとりを、ここでは紹介したい。【取材・構成：渡邉一樹】堀江「グローバル化の進展で、企業は日本人を雇う必要がなくなっている」
茂木：さて、日本をこれからどうしましょうか。個人的な見解ですが、グローバル経済の中で日本を繁栄させていくには、例えば、在日韓国人に対する差別だとか、そういうことを放置していたら、経済もうまく回らないと思います。Google共同創業者の1人はロシア人、YouTubeの設立メンバーにも移民がいる。日本も世界中から優秀な人材を集めないと、日本人だけでは無理ですよ。堀江さんみたいな人が1万人いるわけじゃない。そのためには現状をバッシングするだけじゃなくて、何か戦略が必要だと思いますが。堀江：私は経済が活性化すれば、それに合わせて現状も変わると思っています。例えば、私自身の話でいうと、またいろいろな会社を作って世の中を活性化させれば、「俺も会社を作ろう」とか「新しい事業をやろう」という人たちが出てくる。
小沢：僕は具体的なビジネスのことは知りませんけれども、経済が良くなれば国民の皆さんも満足するというのは、その通りだと思います。問題はその中身なんですね。小泉政権のときは「成長産業を大きくすればいい。全体が大きくなれば、その配分で国民全体の収入が増える」という議論だったんですが、あれ以来、国民の所得は10％も下がった。
堀江：でも、それはグローバル化が進展したからじゃないですか。これだけITが普及して、中国人の給与と日本人の給与の格差が明確にわかるようになった。
小沢：能力のある人がお金を儲けて収入があるのはいいんですよ。でも、大多数の国民の所得が下がる一方では、「政治」とは言えないんです。その何分の一でもいいので、一般の人も少しずつでいいからレベルアップしていくというのが政治だと思っています。
堀江：日本人と中国人との釣り合いはどうするんですか。
小沢：彼らの収入が上がってもいいんですよ。日本では「企業の内部留保が260兆円ある」とか言われています。でも、経営者・役員の収入は上がりましたが、一般の従業員の収入は下がっているわけですよ。規制撤廃による非正規社員の増大とか、いろいろな要素があるとは思いますが、もう少し分配をしないと････
堀江：その話は、しっくりこない部分がありますね。日本国内だけの閉じた空間として考えれば、その通りだと思います。だけど、いま仕事はグローバルになってきています。例えば、昔は日本で作っていた衣料品も、今はほとんどを中国とかバングラデシュとかで作っていますよね。今のように国際物流網ができたら、賃金の安いほうに仕事が行くのは明確ですよね。そういう状況下で普通に考えると、グローバルな賃金レベルは収斂してくるはずです。世界平均が年収150万円だとしたら、それに向かって近づいていく。それは自然な流れだと思うんですが、日本人だけはそれに逆らおうという話なのか････
小沢：他の人たちだって、上がったって構わないでしょう。
堀江：例えば、年収10万円とか5万円の国も一杯あるわけじゃないですか。むしろ、そっちのほうが多いのかもしれない。そういう人たちまで全員賃金を上げるって、ものすごく大変なことじゃないですか。それをやろうということなんですか。
小沢：そういう人たちの給与が、その国の産業発展によって徐々に上がっていくのはいっこうに構わないでしょう。
堀江：グローバルに考えると、同一労働・同一賃金にはなっていないわけですよ。企業からしたら、日本人じゃなくて、もっと給与が安い人たちに発注したいと思うのは自然ですよね。昔は違ったかもしれないけど、インターネットがこれだけ発達して、メール一本で仕事が発注できるようになった今、企業は日本人を雇う必要はなくなっている。そういう流れで非正規雇用が増え、賃金水準が低下している状況でしょう。小沢さんがいまおっしゃった話でいくと、じゃあ鎖国するのかみたいにはならないんですか。どうやったら解決できるのか知りたいです。
小沢：企業に、配分する能力がないなら別です。日本国内の社員の給料を少しでもレベルアップしていく余裕がないとか、金がないとか言うなら別ですが、その余裕は十分あるわけですから。
小沢「大多数は安定を求めているという判断に立たないと、政治はできない」
堀江：企業って、銀行とかそうですけど、調子が良いときは金を貸してくれるけども、赤字になると貸してくれなくなる。企業経営者として思うんですが、内部留保をどんどんばらまいて、景気が悪くなったら倒産というのはきついですよ。小沢：程度問題ですよ。ばらまけという話ではない。それを否定しちゃうと、社会保障の話も同じになっちゃいます。
堀江：どういうことですか。
小沢：社会保障は一定限度の生活や医療を保障するために、みんなでお金を出し合っているわけでしょう。そういったセーフティネットの考え方というのは、当然一般の所得の中にも取り入れられるべきだと思っています。能力がないのに給料だけ上げろという意味ではないですよ。
堀江：グローバルに考えると、日本人にだって、相対的に考えて能力が低い人がたくさんいますよね。そういう人たちって、グローバル賃金からすると、どうしても割高になりますよ。途上国に10万円で発注できるのに、日本人にやらせたら100万円かかるとなれば、それは日本企業にいくら内部留保があってもきついのでは？
小沢：お互いに程度問題なんじゃないかと思います。ずーっと収入が減り続けるというのは、社会の前途が真っ暗になっちゃう。政治としては、少しでも再分配の機能を働かせる必要がある。
堀江：僕は再分配に関しては、反対していないんですよ。現状は、再分配の仕組みが悪すぎると思っているんです。
小沢：再分配の最たるものは国家予算ですよね。予算の仕組みは無駄が多すぎて、いい加減で本当にダメだから、考え直すべきだと思います。企業はどうすべきかという話にもつながる問題だと思いますけどね。
堀江：企業内での再分配に関していうと、僕は従業員も利害関係者として株主になってほしいと思っているんですよ。従業員の給与を上げすぎると株主から文句を言われるし、内部留保が少なすぎるのも危険だ。なかなか理解されない話ですが、「株式の配当」という形で企業利益の再分配をすればいい。
小沢：従業員に株主になってもらうというのは、すごく良い話だと思う。
堀江：それを目指していたのですが、日本では株式投資に対するイメージが悪かった。マインドセットの話なのかもしれないですが、短期投資に走るみたいなイメージがあって、どこどこの株を1000万円とか2000万円とかで買って、株価が半額になって大騒ぎみたいな････。株式をギャンブルみたいにとらえる風潮は良くないなと今でも思っていますが、それは株式投資単位の調整で解決できると思っています。
ミニ株とか貧乏臭いものじゃなくて、普通の株が500円とか1000円で買えれば、普通の人も100～200社の株をポートフォリオで持てます。そうすれば、投機やギャンブルじゃなくて安定した投資ができます。僕はそれで、株式100分割とかをやって批判されたという流れがあるんですけど。今は誰だって起業もできれば、株主にもなれる。結構フラットな世の中になってきているのに、みんなの頭の中が古いままで、せっかく制度ができたのにフル活用されていない。
茂木：いわゆる左とかリベラルとか言われていた人たちが、いま力を失っているのは、世界観の古さがあるのかもしれないですよね。
小沢：政治でいうと、堀江さんに代表されるような、自分自身で企業家になって、どんどん活動するという人たちばかりであれば良いです。しかし現実的に大多数の人たちは、長い日本社会の仕組みの中で、官僚支配の中でそこに安住してきました。今後は、自分自身で自立して、自分で考え活動するという意識を持っていかないといけない。でも、今すぐは難しい。「大多数の人は安定を求めている」という判断に立たないと、政治はできなくなっちゃう。
堀江：だからマインドセットをみんなに変えてほしくて････。グローバル化で良くなった部分もたくさんあって、例えばパソコンとかはめちゃくちゃ安くなりましたよね。起業のための資金集めの仕組みもできて、以前では考えられないぐらい安い金額で起業できる。20年近く前には株式会社の設立に資本金だけで1000万円が必要だったのが、今だと50万円、100万円で設立できるような環境が整っている。
小沢：それはよく分かりますね。
堀江：刑務所に入って分かったことがあるんですが、刑務所で働く人たちって、意外と世論をものすごく気にしているんですね。収監一年目の冬は、すごく寒かったんですよ。長野って下手するとマイナス15度ぐらいまで下がるのに、部屋の暖房が作動しなかった。暖房自体は備え付けてあるのに一日もつかなかった。寒くて死にそうだったので、メルマガや『刑務所なう。』という本、週刊朝日の連載など、いろいろなところで書いた。そうしたら次の年は、僕の部屋だけじゃなく、みんなの部屋の暖房が入り、全員に毛布が一枚増えました。おそらく「人権無視」と批判されるのが嫌だったのでしょう。やっぱり言ってみるもんだなと思いました。嫌なところとか、むかつくところとかには、声を上げればいいんですよ。「あいつむかつく」とか、人の足を引っ張るようなことを言うのではなく、ポジティブで建設的な意見を官僚に対して常に浴びせればいい。
茂木：官僚は意見を聞きますかね？
堀江：実際に聞いているじゃないですか。懲役は寒さを我慢させる刑罰を与えているわけではなくて、自由を奪うというのが本質です。本質から外れたところで嫌がらせをするなよという話は、合理的だし論旨明快ですからね。いまは小さな声でもネットで増幅されるし、ある程度増幅されれば、それがマスコミの目にもとまる。官僚の人たちって、実は一番ビビリで怖がっている。だからこそ穴がないように頑張るし、保守的で新しいことはやりたがらないわけですね。
堀江「インターネットを活用すれば、2、3年で政権が取れる」
小沢：いわゆる官僚を中心とした政官業癒着、既得権の支配する構造は、今の話のように国民の声・一票で変えられるんですよ。政権交代も実現できたでしょう。民主主義社会というのは、一票で政権を変えられる。僕は今のやり方で、経済が、特に国民生活がレベルアップするとは思いません。その意味において、経済であれ政治であれ、危うさを含んだ政権だと思います。国民のみなさんは一票で、自由で公平な社会を実現してほしいと思います。堀江：でも、選挙行くのめんどくさいんですよね。正直言って。
小沢：現実の行動としてはね。
堀江：日曜日に行ったこともないような近所の小学校で、なんかわかんないけど机の周りに座っている人から投票用紙を受け取って書く。10分程度の話だとは思いますけど、これをやらせるのがめちゃくちゃ難しいわけじゃないですか。だから、投票率だって上がらない。本当は投票率を上げる方法はいくつもあると思います。僕が2005年の郵政選挙に出たときは、全国平均の投票率が確か7割ぐらいだったんですよ。批判はあるかもしれないけれど、そこはなんだかんだ言ったって小泉さんの功績だと思う。小泉さんや周囲の人がうまくプロデュースをしたから、あれだけの投票率を実現できたと思う。
もっと言うと、私が出た広島6区は80％近くいった。つまり全国平均より10ポイント近く投票率が高かった。それは、僕がお祭り騒ぎにしたからだと思います。亀井静香さん（国民新党）対佐藤公治さん（民主党）だと「どうせ亀井さんが勝つんでしょ」みたいな話で終わりじゃないですか。だけど、何か工夫をすればいける。今は工夫が古くさいんですよね。元柔道選手が出たりだとか････。それはそれでいいんですよ。でも、もっとなんか面白い人を出して、面白い論戦をしかけてよと思うんですよ。そうじゃないと興味ないですよ。
小沢：もう一度出てくださいよ（会場笑）
堀江：いまは、やりたいことが一杯あるんです。例えばLINEというメッセージングツールが、たった2年足らずで1億5000万ユーザーを獲得しました。LINEは韓国企業の100％子会社ですが、株式市場では、今年上場するのではないか、上場したら総額1兆円行くのではないかと期待されています。たった2年でそういう価値が創造できたのは、スマートフォンがこれだけ普及して、小さな端末でインターネットに繋げるようになったから。いま僕はなんでもできるなと感じています。
ソーシャルネットワーク、TwitterとかFacebookとかで、世の中の人たちと簡単につながれるようになっています。僕は引っ込み思案だったのですが、今はいろいろな人に直接「会いたい」ってメッセージを書いています。昔は広報に電話して「なんかそんな知らない人とうちの社長は････」とかいう話になっていましたが、今は簡単に個人に到達できて、本人に興味があれば、すぐ話が付く。
農業にも興味があります。中国ではどんどん市場規模が大きくなっている。でも、日本で技術を持っている農家の人たちは、補助金をもらって、衰退産業の気分でいる。私は今度、農業経営を2社ぐらいやろうと思っていますから。そんな風にビジネスチャンスが溢れているにも関わらず、それを見ていないのは、単純にみなさんのマインドセットの問題だと思っています。
茂木：政治状況を見ると、日本は保守化しているように思えますが。
小沢：このままだと参院選でも、自民党や自民党と同じような考え方を持った集団が、結果として勝つだろうと思います。しかし、昨年末の選挙結果をみても国民が積極的に自民党を支持しているわけではない。第三極が分裂したことや民主党への失望感から、投票率が10ポイント以上落ちた。今度の参議院選挙も、このままだと投票率は低いのではないかと思いますが････。
堀江：私はスターが出てきたら変わると思いますよ。僕のことじゃないですよ（笑）。僕は選挙に出られないですからね。
小沢：「リーダーが出てくれば」というのは、その通りだと思います。受け皿がありさえすれば、国民の支持はそちらに向かうと思います。
茂木：参院選までもう時間がないですが。
小沢：参院選について言うと、旗振り役になるべき民主党がはっきりしない。例えば、改憲なり何なり大きなテーマをはっきり打ち出し、選択肢を国民に与えるべきなのに、そこがごにゃごにゃ混在している。国民の側からすると、また選択ができない状況ではないでしょうか。ただ、参院選には間に合わないかもしれませんが、次の衆院選までには時間がありますから、スター性のあるリーダーが出れば、また政権交代が可能だと思っています。
堀江：小選挙区制はそういうシステムなんですよね。民主党が政権を取ったときに、ノウハウが完成したと思うんですよ。今後のポイントになるのは、ネットの活用でしょう。今はネットでの投票呼びかけだけに焦点が当たっていますが、僕はそれよりもむしろボランティアを集めて、集票するための組織作りにインターネットがうまく使われるようになるんじゃないかと思っています。
もう一つは、資金集めですね。「クラウドファンディング」なんかが、日本でもだんだん流行ってきている。僕も有料メルマガなんかをやったりしていて、約15000人ぐらい会員がいるのですが、そのシステムが政治にも応用できると思っているんですよね。政治に興味を持っている大金持ちを核にして、クラウドファンディングの形でサポーターを集め、インターネットで組織化すればいい。
民主党と自由党とは2003年に合併して6年で政権が取れました。次はネットの活用で、もうちょっとスピードアップできて、2、3年で取れるんじゃないかと思います。次の衆院選で、自民党以外の第2極ができる可能性は高いと思うし、逆に言うとそういうのが出てきてほしいなと。「俺はこうしたい。こういう国にしたいからこの法案だけは絶対通す。1期で辞めてもいい」という人がどんどん出てくればと思います。
（編集部注）この小沢氏と堀江氏の対談は、シアター・テレビジョンやIWJによってインターネット中継されました。
