※この記事は2013年05月11日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第271回

　５月９日、栃木県佐野市の佐野プレミアムアウトレットと、運行される高速バスに対する爆破予告があった。 　警察署は施設を閉鎖し捜索にあたったが、９日現在、爆発物は発見されてないという。(*1)

　なんとなくだが、ここしばらく爆破予告事件が多い気がする。 　ゴールデンウィークには荒川区の小学校に爆破予告があったし、４月の下旬には富山市役所庁舎への爆破予告があった。 　その理由としては、やはりボストンマラソンでの爆破事件が考えられる。あの事件の衝撃が犯人にインスピレーションを与えたのだろうか。しかし、あの事件で爆破事件が続発するならともかく、ボストンマラソンの爆破事件は予告されていないはずだ。

　これは大半の爆破予告に言えることだが、本当に爆破する気ならば事前にわざわざ予告などをして、計画を危機に晒したりはしない。ボストンマラソンの爆破も、WTCへのテロも、地下鉄サリン事件も、本当の大規模テロはいずれも予告なしに行われている。そう考えれば、大半の爆破予告は眉唾ものであり、犯罪遂行能力のない人間の仕業といっていいだろう。

　爆破予告は本当に厄介な犯罪である。 　なにより、予告をされる側が人身に関わる問題だと考える一方で、犯人はそんな重大事件だとはまったく理解していない点が厄介だ。殺人をするのであれば、それに至るまでの葛藤もあるだろうが、ちょっと郵便やネットを使って文章を送るだけの爆破予告は、思いつきで簡単に行えてしまう。

　また、犯人の目的が達成されやすいのも厄介だ。愉快犯の目的は警察が動いたり、マスコミが騒ぐことである。そしてそれは警察が実際に捜査することや、これをマスコミが報じることですぐに達成されてしまう。

　警察が動いて捜査が始まれば、その区画を閉鎖せざるを得ないことから、特定のイベントなどを中止させることが目的である場合も多い。その例としては、週刊少年ジャンプに連載されている人気漫画『黒子のバスケ』関連イベントへの相次ぐ脅迫があげられるだろう。この一連の脅迫で、犯人は「一部イベントから黒子のバスケ関連作品を排除する」という利益を得てしまった。(*4)

　テロリズムには、要求を頑として撥ね付け、一切の交渉に応じない毅然とした対応が必要である。 　しかし、爆破予告というテロリズムもどきは、毅然と対応すること自体が犯人の思惑通りに動くことになってしまう。 　今回の事件も爆発物は発見されず、事件も忘れ去られたころに犯人も逮捕されて一件落着となるだろう。しかし、こうした爆破予告の連続が、他の爆破予告の引き金になりうることを、こうした事件を報じるメディアは伝えなければならないのではないだろうか？

　確かに爆破予告の犯人は人を殺さないし傷つけない。結果として犯行はすぐに忘れ去られる。しかし、実際に爆発は起こさないにせよ、他人の生命を危機に晒し、自らの欲望を満たそうとした卑劣さは、現実の無差別テロなどと変わることは無いのではないだろうか。

　マスコミがこの手の事件を報じること自体が、犯人の欲求を満たしてしまうこと自体は避けられないのだから、せめてこの手の事件を報じるときには、いかに爆破予告という犯罪が卑劣であるか、強く伝えるべきだと思うのだけれど。

*1：アウトレットモールに爆破予告「高速バスにも爆弾」　閉鎖して捜索（産経新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130509-00000562-san-soci
*2：日テレに小学校爆破予告電話　ＧＷの体育館開放取りやめに（産経新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130502-00000562-san-soci
*3：爆破予告：富山市庁舎に　容疑で立山の女逮捕－－富山中央署（毎日新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130427-00000190-mailo-l16
*4：漫画「黒子のバスケ」にかかる一連の脅迫事案への対応について（東京ビッグサイト）http://www.bigsight.jp/info130403.html

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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