【赤木智弘の眼光紙背】安倍政権は働く女性の味方か？ - 赤木智弘
※この記事は2013年04月26日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第269回経済成長の勢いにのる安倍晋三内閣が、企業への賃上げ要請、就活時期の大幅な後ろ倒しを要請したのに引き続き、今度は３年の育児休暇を要請することが明らかになった。(*1)
現行では１年の育児休暇を、子供が３歳になるまで、３年間取れるように自主的な取り組みを求めるという。
これがネット上では評判が悪い。
単純に考えても３年間会社を休むということのリスクは極めて大きい。ネットで多くの賛同を得ている「単純に育児休暇だけを３年延長すると、経営者は男を優先して雇うようになる」という指摘は、まさにそのとおりだと思う。(*2)
それに加えて、もう少々指摘をすると、まず育児休暇の拡大が「待機児童ゼロを目指す」という安倍政権の目標に叶うということを考えておきたい。
厚労省のデータによると待機児童のうち0～2歳の低年齢児が占める割合は、待機児童数25,556人のうち、21,109人と、実に82.6%を占めている。(*3)
つまり、会社で働く母親に育児休暇を取らせることで、低年齢児の保育所ニーズを抑えて、待機児童問題を解決しようとする考え方なのだろう。
しかし、これは話が逆である。そもそも待機児童数の増大は、子育てが高コストとなり、夫婦共に働くダブルインカム家庭でしかできなくなっている現状の結果であり、女性の肉体的負担を減らす意味での休暇は必要であっても、産んだ後まで休暇をとり続けることを女性は望んでいないはずである。
待機児童の解消については、地道に低年齢児の保育環境を整えていくしかなく、女性を家に帰す形での解消は決してありえない。
そしてもう一つ。安倍政権ならではの「道徳教育への執着」がある。
総理就任早々「心のノート」を復活させた安倍晋三だが、今回の３年という期間も「道徳と子育て」という文脈で考えると「三歳児神話」に行き着く。
三歳児神話とは「三つ子の魂百まで」に代表されるような３歳までの子育ては極めて重要であり、母親は子育てに専念しなければならないとする考え方である。科学的根拠はないが、この考え方は「男は仕事、女は家庭」という古典的なジェンダー観を持つ人たちに、今もなお支持され続けている。
僕は今回安倍晋三が３年という期間を持ちだしたのは、実質的にこの三歳児神話の復活に意図があると見ている。それはひいては一方的に女性に子育ての責任を押し付けることで社会進出を阻み、男女不平等の社会に逆戻りさせることを意味する。
そもそも「単純に育児休暇だけを３年延長すると、経営者は男を優先して雇うようになる」というその通りの指摘は、実のところ安倍政権の狙いそのものではないかと、僕は思うのだ。
子育て応援という女性の見方のフリをして、実のところは労働市場から女性を徐々に排除していく。これが安倍政権の本音ではないのだろうか？
いま、日本人の多くは、安倍政権に対して極めて甘い態度を見せている。
確かに景気が上がって、安倍政権に期待する気持ちはわからないでもない。しかし、その甘さが時計の針を逆に戻すような政策を見過ごす土壌を作ってしまってはいないだろうか？
景気のいい今だからこそ、しっかりと安倍政権の政策を精査する必要があるのではないだろうか。
*1：育児休業３歳まで・女性役員登用…首相が要請へ（読売新聞）
*2：女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。 - 中嶋 よしふみ
*3：保育所関連状況取りまとめ（平成23年４月１日）（厚生労働省）
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
・@T_akagi - Twitter
