【赤木智弘の眼光紙背】回転寿司が大きく変わるのかも - 赤木智弘
※この記事は2013年04月13日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第267回安くて美味しい庶民の味方である回転寿司だが、最近は「回転」している寿司を取らずに、注文をするお客さんが増えているそうである。(*1)
回転寿司が安い理由は、やはり人件費に負う部分が多く、調理場を１箇所にして、そこから寿司を回転させることにより、大きな店舗でも少ない人数で効率よく多くのお客を捌けるようになった。
一方で、長時間流れた寿司が乾いて、不味くなってしまうなどの問題も多く、安かろうまずかろうで良かった時代ならともかく、安くて美味しいのが当たり前の時代に、回転寿司が取り残されかけた時代もあった。
しかし、回転寿司は進化し、お皿にICタグなどを仕込んで、古いお皿を自動的に廃棄するシステムなどが生み出され、いつでも新鮮な寿司が回転するようになった。
また、集中した調理場から、注文の寿司を直接届けるための特別レーンなども開発され、注文のためのタッチパネルなどが備えられるようになった。そうした発展は調理場とお客の距離を縮めたのみならず、お客がいつでも気兼ね寝なく、子供のためのサビ抜きを注文できる環境を整えた。
こうした発展により、デフレの並に乗って回転寿司は一気にファミリー層を取り込んでいった。
しかし、こうして回転する寿司という「作りおき」と、直通レーンという「直接注文」が同時に並ぶと、元々効率化という店側の都合にすぎない「作りおき」が、お客にとって不都合となってしまった。
いくら古い寿司が自動的に排除されるとはいえ、作りたてのお寿司にはかなわないという、本当にそうなのか、できたて幻想に過ぎないのかは分からないが「回転する寿司をとるのは損」というイメージとなってしまうのは仕方の無いことだろう。
「回転寿司は回っているから回転寿司なんだ」という意見もあるかもしれないが、こればかりは時代の流れであり、回転寿司業界はこの流れに対応していくしか無い。大手回転寿司チェーンのかっぱ寿司は、この変化により業績を下げてしまったという。(*2)
これは別に回転寿司業界だけの話ではなく、外食チェーンにおいては必然的な流れである。例えばマクドナルドは10年前くらいまではハンバーガーを大量に作り置きをしていたが、いつの間にか「メイドフォーユー」という注文のたびにハンバーガーを作って提供する方式に変更していた。
しかしそれで提供効率が悪くなっては意味が無い。マクドナルドはそのための設備投資を行ったし、回転寿司チェーンも直通レーンの効率化を強力に推し進めてくるだろう。
ところで、僕もたまに回転寿司に行く。
好物はサーモンとカリフォルニアロールだ。特にカリフォルニアロールが美味しい店は、何を食べて美味しい店だと確信している。 閑話休題。
僕が住んでいるのは都心だから行く店は、テレビCMを打つような大手の回転寿司チェーンではなく、都心に数店舗を展開するような回転寿司店だ。都心のお店はたいてい狭い。回転レーンの中に職人が２，３人働いて、それで十分すべての客席に目も手も届く。タッチパネルなどはないが、すぐに声が届き、注文しやすい。
回転レーンの大半が寿司で埋まりながらも、レーンの総延長が短いから、作りおきされている寿司の数はあまり多くない。それは直接注文が多くても、廃棄リスクはあまり高くならないことを意味する。
つまり、何が言いたいかといえば、ここで問題にされている変化で苦しいのは、地方の店舗が広い回転寿司チェーンだということだ。
客席を広く取り、調理場を一箇所に集約したレイアウトは、あくまでも回転レーンを効率よく利用するという前提で作られている。これを各客席に直接寿司を届ける形式に変更するのは、けっして簡単ではない。一言で「回転寿司チェーンも直通レーンの効率化を強力に推し進めてくるだろう」と言ったが、そのためのアイデアは簡単には出てこないはずだ。直通レーンを単純に複線化しても、それだけでは回転レーンの効率にはかなわない。
今後、大手回転寿司チェーンがどのようなアイデアをつぎ込むかで、回転寿司チェーンの勢力図が大きく変わる可能性がある。僕は経営側でもないし、株式投資をしているわけでもないから、どんなアイデアが出てくるのかを、純粋に楽しみにさせてもらうことにしよう。
*1：「これ握って」、回転寿司で注文派が急増 回転レーン全廃、「回らない」店も出現（J-CASTニュース）http://news.livedoor.com/article/detail/7570982/ *2：かっぱ寿司「新幹線」に急ブレーキ 回転寿司「注文派」増加の裏側で…（J-CASTニュース）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130411-00000001-jct-bus_all
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
・@T_akagi - Twitter
