吉野家 牛肉輸入解禁で新価格280円「早い うまい 安い」復権へ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年04月12日にBLOGOSで公開されたものです
4月10日、牛丼の吉野家が4月18日より牛丼を280円に値下げすることを発表した。米国産牛肉の輸入問題が解決に向かい、あらためて「早い、うまい、安い」の復活のめどが立ったとのこと。安部修仁社長のプレゼンを書き起こした。安部修仁社長のプレゼンテーション
みなさま、こんにちは。安部修仁です。お忙しい中集まりいただきありがとうございます。とりわけ今日は北朝鮮からの脅威がピークで、こんなことやっていていいのか、という状況でございます。
4月半ばから全国の吉野家で実施する新商品について発表します。かねてから「うまい」「やすい」「はやい」の3要素に沿って、長らく取組んで参りました。このバランスを牛丼の価値の最大化に向けて取り組もうという発表です。
吉野家には元来の思想として、「客数主義」がある。どれだけ売り上げるかではなく、どれだけ多くのお客様にご利用いただけるか、支持されているか、喜ばれているかを大切にするというもの。しかしながらこの近年、お客様の支持に課題があると私どもは問題意識を持っておりました。そこであらためまして、「うまい」「やすい」「はやい」に加えて、客数をさらに目標水準に引きあげるべく新たな取組を提供したい。
写真一覧
BSE問題による月齢問題が解決
この戦略に至った背景についてご説明します。2003年12月に米国でBSE牛が発見され、即日輸入停止措置が始まった。最適な米国牛の輸入が不可能になったことを受けまして、他の産地の牛肉では吉野家の求める肉質、必要な調達量が確保できないことから、我々が自信をもって商品を提供できないために、牛丼の販売を休止した。
その後、牛丼単品専門店でやってました吉野家から牛丼がなくなって、主力商品のない店として二年半が続いた。牛丼不在の時代を経まして、2006年4月に輸入が部分解禁した。そこで販売を再開したが、依然として残された課題があった。その一点は再開の条件で、月齢の条件が20カ月例という設定でした。この結果、事実上は生後12カ月前後の若すぎる牛肉が多く、脂の乗り、マイルド感など質的な面で十分ではなかった。
もう1点は日本向けの輸出条件ではそれまでの供給量の15％かせいぜい2割程度しかなかったため、需要と供給のバランスが崩れまして、極めて高い価格帯の相場が形成され、売価が380円になってしまった。結果的に、「うまい」「やすい」という2つの価値要素が2003年以前の牛丼にはいたらなかった。結果として販売量を維持できなかったという事情がありました。そして一昨年、旨さの原点のため、商品、サービスの検証と修正を推進。ベストコンディションの2001年頃の牛丼の味を模索するプロジェクトを開始した。この件では肉、玉ねぎ、米、タレなどの主要原材料の見直しなど、加工、保管調理まで108項目に至る見直しをしました。
また牛丼がなかった時期に吉野家を支えた人気メニューの継続にとどまらず、一昨年からは豚肉、鶏肉といった素材を用い、かつ「煮る」という工程だけでなく、「焼く」という調理方法、技術、機材を取り入れ、新商品を積極的に開発することで、牛丼以外の強みを育成してきた。
今年2月に月齢の輸入条件が30カ月齢に緩和が決定した。かつての輸入条件にほぼ近いものに条件が整った。4月からは国内措置として48カ月への引き上げの検証が続いている。事実上、月齢問題は解決した。私ども本来のまろやかな牛を継続的に供給でき、旨さの向上が図られることになりました。
写真一覧
吉野家の旨さのループ
生産工程までの流れを具体的に説明する。20カ月齢以下の場合、素牛はフィートロット（穀物飼育）が約3～4カ月と大変短いので、まろやかさ、脂の乗りが不十分であった。少なくとも穀物飼育を6カ月以上かけるべきで本来の肉の旨さがでる。国産牛が20カ月以上、和牛で30カ月、厳選和牛は40カ月はかける。
その結果、旨さのループが実現できる。最適な肉質の牛丼が、量的にも拡大することで安く確保できる。そこを出発点として素材として、まずおいしくなる。それから価格的に最適化が図れる、安くできる。その結果、お客様が増える。お客様が増えたことで肉鍋で煮る肉の量が増えることで、さらにおいしくなる。その循環性が作れるのが今回私どもが大変嬉しく思っているところです。
安定かつ最適な牛肉の調達が可能になったことで、価値の3要素の「価格」軸も大きく改善できるところ、踏み込める。「うまい」「やすい」「はやい」の3つの価値が最大化した吉野家の牛丼を、是非多くのお客様にお楽しみいただきたい。それでは新しい吉野家の牛丼の価格を発表します。
写真一覧
新価格は並盛280円
新しい価格は並が280円、大盛が440円、特盛が540円。これは2004年の販売休止前の価格。2001年に価値の再設定というコンセプトで当時400円だった牛丼を7掛けで280円にした。280円という価格に決定した理由は、先ほどから申し上げてました本来の最高の牛丼を届ける上で最適な価格だから。そして休止前の本来の価格帯に戻すという2つ意味合いをもった価格。
4月18日（木）開始、1週間は牛丼のみの提供に
開始日は4月18日10時。この日をもって全国一斉で新価格を開始する。競馬場の中とか数店舗は前の価格のまま。場内の制約の中で提供する。我々が2月から調達した（30カ月齢の）肉が出揃う時期でもある。4月18日からの1週間だけは、他の商品は休止して、牛丼に専念した店舗の運営を目指す。4月24日15時から通常のラインアップの品目に戻る。
そして広告も一新する。北大路欣也さん、宮川大輔さん、相武紗季さんの世代性別の異なる3人にご登場いただいて、CM楽曲には斉藤和義さんの新曲、「ハローエブリバディ」を採用しました。これは斉藤さんが吉野家の牛丼をイメージして作ってくださったと認識している。後ほどご本人に「そんなつもりはありませんよ」と言われるかもしれないが。
吉野家の歴史的転換点をより多くの生活者に知ってもらうために、国内外のメディアに展開し、これまでにない立体的なアプローチをとる。屋外メディアは渋谷109、大阪道頓堀、他の都市でも仙台や名古屋でも予定している。東京駅のコンコースでも柱の4面にデジタル画像を掲載し、幅広い世代に吉野家の新たな試みを印象づけたい。
吉野家誕生からこれまでおおむね10年サイクルでいろんなアクシデントが起きてきた。あまり歓迎していないが、我々はそれをテコに次の時代への進化、自己変革を遂げてきたことについては自負を持っている。次の100年に向けての新しいプレゼンスを提供することの開始と思っている。今後もますます多くのお客さまに商品を提供していきたい。
宮川大輔氏・相武紗季氏（撮影：田野幸伸） 写真一覧
写真一覧
◆報道陣との質疑応答
Q:今回新価格の牛丼。社長にとって新価格はどんな意味があるのか
280円という価格は競合も含めて一番ポピュラーな価格となっている。それなりの思い入れはある。そのくらいのことしか話せない。
Q:以前と比べてどれだけ調達価格が下がっているのか。
コマーシャルベースの相場観の方が強くて、為替の影響因子は低い。相場形成のいろいろな要素があって、どれだけのコストなのかははばかるところなので勘弁してほしい。実績の中での説明を後日、結果を受けてやるのが精一杯。
Q:売上の見通しは
これまで1年以上、複数店舗で様々な価格の取り組みもやってきた。だいたい客数増で3割増で落ち着いた。客単価の動きも初動で、中間、期末は別の計画、要素と複合的なことになるので、売上は現在のところ、客数が3割伸びれば、売上は15％伸びるというところ。
Q:100円の値下げ、すべてが牛肉の分ではないと思う。安くないと勝てないのだと思うが、価格戦略を教えてほしい。
勝ち負けの観念がそもそも薄い。客数のアベレージがどう動いているかをモノサシにしている。満足できる客数にいかない、そのためにどういう要素が欠けているか、だから何を付加しないといけないのか。その唯一の要素が価格というわけではないが、「バリュー＝プライス分のクオリティ」。いくらクオリティが高くても、価格差がマーケットの水準から逸脱しているとバリューを損なう。そういうことでいまは価格は最大の要素といえる。
Q:昨年は牛丼以外の商品も出し、価格以外の取り組みをした。今回の戦略で価格に回帰したのか
価格、品目については、お客様が何を求めているか、一定のものではない、動態的なものとして、お客様の志向、期待を私どもなりに測りながら、優先、タイミングを考えている。
Q:30カ月齢の商品が店頭に並ぶのはいつか
時期は4月18日。
写真一覧
価格へのインパクトについては、その一面もなくはない。7年前の3社の合計2000店から4000店に倍増した。その影響も当然ある。牛丼セクターは他の2社はそのような傾向。前年に対し割れていると思う。当社は決算発表が来週なので詳しく言えないが、既存店の前年比は6勝6敗。6カ月は勝って、6カ月は負けた。かならずしもすべてが悪いという認識ではない。
Q:10年前と市場環境が違うなかで280円で戦っていけるのか
視点は常にお客様。マーケットと私どもの相対で考えている。同業他社ではなく、さまざまなアプローチや実験・研究のアプローチの結果、280円が最も適しているとの判断。
Q:消費増税のなかでどういった価格戦略があるのか
おそらく（消費増税は）施行されると思う。それを織り込む、織り込まないかは、「決めない」といま決めている。
今後のプライスラインについては、280円、380円、480円のプライスポイントのところで充実させていこうとさまざまな取組を2年ほどやってきた。どのタイミングでリリースするか考えている。
Q:牛丼に専念して勝負する狙いは
1週間単品にするのはもっともいいコンディションで、スピーディーに牛丼をお召し上がりいただくためのベストウェイ。ほかの商品の固定的なお客様もおり、好きな商品がないと帰ってしまうかもしれない。申し訳ないが1週間は我慢いただいて、最高のコンディションで牛丼を召し上がっていただきたい。1週間は客数が減るかもしれないが、1週間はしぼって提供させていただくように割り切る。
関連情報
・吉野家 新価格280円で「早い うまい 安い」復権へ--商品戦略発表会レポート－NAVERまとめ
