「政治が何もしなくても、民間の力で社会が回っていくのが一番いい」～対談：みんなの党・井出ようせい衆議院議員×元経産官僚・宇佐美典也氏～ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年04月03日にBLOGOSで公開されたものです
昨年行われた衆議院選挙では、180人以上の新人議員が当選を果たした。選挙は自民党の圧勝に終わったが、野党の１年生議員は、現在どのような思いで「国会議員」という仕事に取り組んでいるのだろうか。35歳で初当選を果たしたみんなの党所属の衆議院議員・井出ようせい氏に先日経産省を退官したばかりの元官僚・宇佐美典也氏が話を聞いた。【構成：永田 正行（BLOGOS編集部）】みんなの党には”本当のこと”を言って欲しい
宇佐美典也氏（以下、宇佐美）：井出議員は、元々ＮＨＫの記者だったそうですが、議員を目指すことになったきっかけは何かあるのでしょうか？
井出ようせい衆議院議員（以下、井出）： 2002年から09年の終わりまで8年弱NHKに所属していました。記者として、現場で取材し、アナウンサーがニュースのときに読む文章の原稿を作っていたんです。場合によっては、現場でマイクを持ってしゃべることもやっていました。
もともと政治に関心があったのですが、政治家になるには厳しい選挙を経る必要がありますし、「ちょっと無理だろう」と。だから、記者という形で政治に携わっていこうと考えていたのですが、記者として経験を積んでいく中で、「人生は1回きりだし、よし！やるか」と思い立ったんです。
宇佐美：立候補の決め手になった出来事というのはあったんですか？
井出：政治に対して、「物申したい！」という気持ちは、様々な取材の中で感じていました。例えば、規制緩和が話題になった際に、タクシー業界の規制緩和をずっと追いかけていたんです。タクシー業界では、せっかく規制が緩和されたのに業界が一斉に台数を増やすことしかできず、運転手さんの給料も下がってしまった。本来であれば、規制緩和によって、一社一社が様々なサービスを提供できるはずなのに、再規制をかけるようなことを業界がやってしまった。
業界と運転手さん、国土交通省や運輸局などを取材していて、「こうしたらいいんじゃないか」というような話も聞きましたし、自分でもしたのですが、「前例がない」と言われてしまう。業界側も、他が一社だけ飛び抜けたことをやると、足を引っ張る人がいたりする。記者として横から見て騒いでいるだけでは、やっぱり変えられないのかなぁという思いが生まれてきたんです。
そういう形で政治への思いが募っていく中で、32歳になった年に、選挙のことや所属政党を決めずにNHKを辞めてしまったんです。「とにかく国政をやるんだ。衆議院をやるんだ」という思いで活動を始めました。
当時は、政権交代の直後だったので、しばらく衆院選もないだろうと思っていたのですが、みんなの党から前回の参議院選挙の2カ月位前に「やってみないか」と声をかけて頂きました。両親の地元である長野で、ということだったので即断即決して参議院選に出馬したんです。その時は全然ダメで落選してしまいましたが、1回選挙を経験したというのは非常に大きくて、今回の選挙にいかすことができました。
宇佐美：自分が官僚時代に見聞きしたイメージだと、１年生議員は長い期間をかけて鍛えられて、当選3回目くらいから本気出す、といった文化があるように感じたんですけど。
井出：自民党や民主党などの話を聞くと、「1回生は2度目の選挙を当選してくるのが仕事だ」と言われている人もいるみたいですね。選挙は特に2回目が厳しいと言われてますから。
ただみんなの党の場合は、まだ党がそれほど大きくないので、委員会の質問などの順番もどんどん回ってきます。選挙は小さい党で苦労しましたけど、1年生議員にも活躍の場があるというのは非常にありがたいですね。
宇佐美：年次が若くても活躍できるというのが、他の政党との違いですかね？
井出：そこは全然違いますよね。みんなの党は、質問の割り当て時間と議員の数がちょうどよく、一人当たりの質問回数が非常に多いんです。みんなの党より小さくなってしまうと、質問の時間が少なくなってしまうので。早くから国会質疑で活躍の場が貰えるという意味では最もバランスのよい党なんじゃないでしょうか。以前の民主党と今の自民党にいたら、おそらく3回生位にならないと予算委員会で質問に立てないのでないか、と思うんですよね。
宇佐美：そういう場で、「若いからこそ」、「1年生議員だからこそ」持つことができる感覚を是非ぶつけてほしいと思います。正直なところ、一若者としておじいちゃん世代に政治を任せてはいられない、という思いを最近強く感じています。
井出：いままでの政治家にとっての「一般的なもの」に慣れてはいけないと思っています。それは小さい政党だからというのもありますし、団体推薦などが欲しくてもあまり相手にされなかったので、選挙を自分なりに試行錯誤してやってきた。その分自分の今までの感覚で活動できるかなという思いはありますね。
宇佐美：自民党などの場合だと、部会があって、政務調査会があって、総務会があってと体系立っていてある意味サラリーマン化している部分があるように感じていました。与党としてはそれも大事だけれど、みんなの党には政界のベンチャーとして各議員が機動的に動き回ってほしい。
井出：みんなの党は1年生にも質問の順番が回ってきますね。維新なども同じかな、と最初は思っていたのですが、維新の会には看板となるような議員の方がいますから、やはり「ここぞ」という時には、看板議員が出てきてしまいますね。そういう意味では、みんなの党はいい党だなと思います。
宇佐美：現在の社会全体が、若者に優しくないと思うんですよね。社会保障も将来的に持続可能だと思えないのに負担ばかり上がっていくし、新卒逃したら雇用も厳しくて八方塞がりになってしまう。このままだとハッキリ言って親の世代の安定のために僕らの世代が割りを食ってしまいますよね。
自民党や民主党クラスの大きい政党になると、バランスを考えた結果、そういう本質的な問題を避けて、その場しのぎの対策を重ねたり「みんなで支え合う」みたいな精神論に走ったりするところがあるじゃないですか。
井出：「落としどころを見据えて…」みたいなイメージですかね。
宇佐美：例えば民主党だったら「若者の雇用の閉塞感は問題だけれど、そうは言っても正社員の人たちの組合から支持もらってるし」みたいな部分で定年の延長を進めちゃったようなところがあると思うんですよね。それじゃ下の世代やってられないですよね。だからこそ、みんなの党には”本当のこと”を言って欲しいな、と思っているんです。「このままじゃもうダメですよ、日本は」という本当のことを、ちゃんと勉強して言える位の規模で、そういう人たちが集まっているんじゃないかと個人的には思っています。
井出：例えばみんなの党の場合、行政改革、大きくなりすぎた官僚、政府のシステムをコンパクトにするという共通のテーマがあります。そのためにできた党なので、やるのであれば、一点突破というか、他のものは妥協するけどそこだけは譲れないみたいな部分がはっきりしてくればいいかなと思っています。
ただ、行政改革の旗が世間的に勢いを失ってきているようにも思うんですよね。経済対策とかTPPとか他の政策テーマに注目が集まっていて、「行政改革」「公務員制度改革」というのは、今の状況だと厳しいかな、という思いがあります。
宇佐美：井出さん自身は、やはりそこに思い入れがある？
井出：そうですね、やっぱりちょっと国、行政が色々やり過ぎるているんじゃないかと。政治家がこんなことを言うのは変なのですが、本当は政治が何もしなくても民間で上手く回っていくのが、1番いいと思うんですよ。今は逆に何でもかんでも行政が引き受けすぎかなと。
官僚は国会の質問を”炎上”させないように苦心している
宇佐美：当選されてからの今までの間、どんな動きをされていたんですか？
井出：12月の選挙が終わってすぐに補正予算などがあったので、最初は官僚から補正予算のレクチャーを受けたり、地元の要望をまとめたりしていました。ものすごい数の来客と資料が来て、資料は新幹線の行き帰りにリュックに入れて一生懸命読んだりしていました。
新年になると、地元の新年会などの会合に呼ばれるようになって、挨拶して回りました。私は初当選なので、呼ばれたところはすべて顔を出したため、時間ぐりが急に忙しくなりましたね。選挙期間中は選挙だけやっていればいいですし、選挙前は街頭演説や集会をやる時間と自分で勉強やインターネットをする時間のメリハリがある程度あったのですが、当選直後は、寝る暇もないような状態でした。今は少し落ち着いてきたんですけど、今度は本予算が始まったからまたこんな風になって…これどうしようって思ってるんですけど（笑）（※デスクに山積みになった資料を見ながら）
宇佐美：委員会が召集されると官僚達のレクチャーで予定がつまってきますよね。
井出：資料を読んでいるだけだと問題は分からないので、官僚の方に話を聞いてやっていかないと何も進みません。これ見ているだけでは、「ふーん」で終わってしまいます。
―よく週刊誌や夕刊紙で「○○は官僚の操り人形だ」といった報道がされることがあります。みんなの党は、行政改革を主張している政党ですから、官僚の受けがよいイメージはありません。井出さんは1年生議員ですし、官僚との関係性というのはスムーズに築けるものなのでしょうか？
井出：たまに官僚から「うわぁ。こいつ何もわかってなさそうだな」みたいな顔されることはありますけど、それほど多くありません。自分でいろいろ調べますし、政策が分からないとなれば、どんどん聞いてます。1番重要なのは、自分が国会で良い質問をするために必要な情報を引き出したり、データ集めたり調べてもらうことですから、そういう場合は積極的に聞いていかなければなりません。官僚の人と話すことで新たに出てくる論点もありますから。
宇佐美：元官僚視点からすると、井出さんはいい議員だと思います。ひどい議員だと官僚側に「質問作ってよ」と丸投げしてきたりするんです（笑）。
井出：みんなの党はそれだけは「絶対にするな」と最初に言われました。衆議院と参議院それぞれにある調査局に頼めばいろいろと調べてくれるので、そこで昔のデータを集めたり、国会図書館にもお願いするといろいろ調べてくれる部門があるので、そういう仕組みを上手く使ってます。
やっぱり国会の委員会や本会議で、自分で作っていない質問は、読み方を見てると分かりますよ。委員会と本会議でも、読み手が違うだけなんてケースもありますよね。質問の持ち時間が違うからちょっと膨らましただけで、なんだ「さっきも同じ内容を質問してたじゃないか」と思ってしまう。
宇佐美：官僚側も楽をしたいので、今までやってきた質問と答弁を再構成して、パズルみたいに当てはめ直せば答えられるような文章を作って送りつけたりすることもあるんですよね。それは、やはり良いことではないので、そういうことをやっている人は大分減ったんですけどまだ少し残っている。
井出：ただ、いろんなわからないことを聞いたり、問題を解明していく上で官僚の人に「お前らなんか悪いからどいてろ」とか「お前らとの話は全部録音する」とかそういう事は絶対やらない方がいいなと思います。
今まで、私個人が見たイメージだと、議員に対応する官僚の人が、虐げられているのかなぁ、と思ってしまうケースがあるんですよね。私はまだいろいろ分からないことがある時に、自分で電話するんですよ。そうすると電話対応した役所の人が「ご本人ですか！？」みたいな反応をするので、「普通は本人が電話しないんだ…」みたいな気づきがあるんです。
他にも、一度予算委員会を急遽明日やるという話になって、夜質問の原稿を書いていたんです。一方で、その時に、みんなの党と民主党で、補正予算の動議を共同でやるか別々でやるかという話があり、その調整が当日の朝まで揉めていました。私は夜中まで原稿を書いていたんですけど、「今日は調整がつかなかったからまた明日」という連絡がきて、12時過ぎぐらいに帰ったんですよ。その時に、事前に原稿を提出しておく部署の人たちが待ってるので、「ちょっと調整がつかなかったらしいので、今日は帰ります」、という電話をしたんです。そうしたら、物凄く恐縮されたんですよね。「わざわざありがとうございます！」みたいな。普通、待っててもらったら電話しますよね。
宇佐美：役人への連絡は議員の秘書がすることが多いので。あそこの秘書はすごく偉そうだとか、あそこの秘書は慎重に対応しようとか、官僚側にもそういうノウハウが溜まってくるんですよね（笑）
井出：恐らく秘書の方もいろんな議員のもとを回っていて、永田町に長くいる人が多いですからね
ただ官僚の人たちとの距離感というのは難しいと思います。取り込まれるようなことがあってはならないし、かといって「そこで正座して待ってろ」みたいなやり方では、絶対だめですから。官僚に都合が悪い質問するときは、しっかりやる。むしろ向こうが嫌そうな顔してても「いや、そこだけはちゃんと調べて下さい」ということを言わなければならない。
宇佐美：官僚の顔を見ればわかると思いますよ。「聞かれたかっ！」ってなりますから（笑）
―やっぱりそういうものもあるんですか？
宇佐美：法律の条文には結構ありますよ。この部分は、グレーというか、様々な人の利害関係で本当はこうしたくなかったんだけど、こうせざるを得ませんでした、というような政治上の妥協の産物みたいな条文が一カ所ぐらいは…。
井出：ありますね…。例えば補助金にしても、きちんと様々な要件を満たして出すのですが、大雑把に言えば、使ってもらわなければ補助金に何もならないので、要件の設定が難しいんです。結果的にちょっとザルになっている部分があったりすると、不正受給の温床みたいになってしまうケースがあります。だから、そういう部分を質問すると、ちょっと困ったな、というような顔されますよね。
宇佐美：但し書きがついていたり、複雑なスキームになっている場合は、何らかの裏事情があることが多いです。企業の会計資料と一緒ですね。共産党なんかは、そういうところもきちんと見抜いてくるんですよ。見抜くプロがいるんじゃないかっていうぐらいの精度です。
井出：やっぱりノウハウみたいなのがあるんでしょうね、長年の積み重ねの。
宇佐美：そういう意味では、”確かな野党”ですよね。他に永田町の慣習で素朴におかしいんじゃないか、と思う部分はありましたか？
井出：国会の本会議は会議の中でも最も厳粛なところなのでコート持って入っちゃダメとか、いろいろ決まりがありますね。もちろん携帯をいじるのはダメですし、新聞がダメなどといった規則があります。これは規則なのか申し合わせなのか分かりませんが、そういう意味ではちょっとびっくりしています。実際本会議も5分で終わってしまうといった時も結構あって、「このために来たのか…」と思うこともあります。もちろん儀礼として必要な部分もあると思うのですが。
宇佐美：会議はしきたりが多いですよね、独特な読み上げ方とか…
井出：決まりきった文句みたいなものもありますね。今各党で「いじめ防止の基本法を作ろう」という話があり、みんなの党も考えていたのですが、いじめ法案だから子供が読んでも分かるようにできないかと思ったんです。そこで、わかりやすく書いてあるものが出来ないか、と問い合わせてみたら、「正確性を期すためには到底そんなことはできません」みたいに官僚の方に言われてしまいました。
でも、さっきの話じゃないですけど、初めてで、分からないことがあっても、どんどん分かったフリでもして詰め込んででもやっていかないと前に進みません。
宇佐美：そうですよね。そこがやっぱり議員には求められますよね。分かってなくても柔軟に何でも対応しなきゃいけない。
井出：すべてのことに精通しているのがベストですけど、急に知らないことをパッと国会で質問することになれば、徹夜でもしてやっていかなきゃいけないですし。委員会の質問に関しては、今まで2回やって2回とも質問が出来上がったのが明け方でした。しばらくはそんな状況が続きそうです。
宇佐美：質問の到着を待っている官僚側としてもしんどさがあるんですよね。
井出：初めて文部科学委員会でやった時も、前の日の夕方に質問の内容を事前提出してくれって言われて、こっちも勝手が分からないから朝一度、粗々のものを提出して、少し向こうの反応を見てから詳細を詰めようという話になって、文部科学省側にデータ探しを依頼したら、朝4時位にデータが最終的に向こうから来ました。すごいな、この人達は…いつまで仕事しているんだ、、って思いました。
宇佐美：国会対応業務をもっと効率化した方がいい、という話はずっとされているのですが、日程もそうですが国会審議は突然決まることが多すぎるので、役所側としても対応が難しいところがありますよね。そうした事務的な部分は、もう少し与野党協調できないものですかね。
井出：国会は審議日程も与野党の駆け引きの材料になっているので、私自身も3日先の予定が分からない。
宇佐美：国会議員が3日先の予定が自分で決められないっていうのも凄いですよね。そうした国会の仕組みなどの部分で一番問題だなと感じている部分はなんですか？
井出：今1番感じてるのは、他の党のものも含めて、結構いい質問があるにもかかわらず、質問して答えて終わりになっているということです。その後のフィードバックが無い。野党からの質問で、問題点が出てきたとしても、その後ちゃんと動いたの？という部分ですね。いい質問をすれば、それによって与党側が少し考え直したり、実行に移してくれると期待して一生懸命やっているのですが、他の人の質問なんかを聞いて、「あれってあの後どうなったんだろう…」って思いますね。
宇佐美：そうすると野党側の武器としては議員立法とかそういうのが大事になってきますよね。
井出：議員立法も大事ですが、何よりも世論があってこそですよね。世の中の人が国会の質問を見て、マスコミを巻き込んだ騒ぎになってくれれば、政府も動かざるを得ない。ですから「いい質問をする」というのは重要なんです。
例えば、共産党は考え方が違いますが、極めて整然とした、共産党の考え方で筋の通ったいい質問をするんですよ。答弁する側がぐうの音も出ないような場合もあるのですが、その質問の後で実際に何かが変わったの？と聞かれるとそうではない。
残念ながらなかなか報道にも取り上げられないし、質問した時に、「前向きに検討します」といった答弁が返ってきても、「結局全然前向きじゃないじゃん」「またかわされた」みたいな部分がある。この部分がどうにもならないと、野党が力を発揮できないと思います。みんなの党は数の力では勝てないので、質問の内容を聞いてもらったり、やっぱり世の中を味方に付けるような質問をしたりして問題点を指摘しなきゃいけないなと思います。
宇佐美：質問を受けたら、基本的には”炎上しないように”というのが官僚側の思考ですからね。国会で、こういう指摘を受けたらそれを踏まえて直すというような考え方ではなくて、特に与党内で多くの人と調整して、仕上がったものを変えたくない、という考えが強いんです。内部での想定問答でも、こういう答えであれば炎上しない、というものを用意して、その場をメディアに取り上げられないように丸く収める答弁を作り込みます。
井出：最近は、官僚の方が作る答弁がいい加減って言ったら失礼ですけど、本当に答弁する大臣のことを考えた、「この大臣を男にするために一生懸命回答を考えよう」みたいな部分があまり感じられないような気がするんですよね。政治家と官僚の信頼関係がなくなってきているんじゃないかと思います。
宇佐美：民主党政権で変化したところが結構あると思います。2009年の政権交代当初はちゃんと答弁を考えて書いても、まったく使われない事も多かったみたいです。だから、書いても意味ないじゃないか、と答弁チェック体制が甘くなってしまったんじゃないでしょうか。自民党に政権が戻ってからのことは分からないですけど、当時は結構そういうムードの時がありましたね。
井出：答弁も昔に比べると淡白というか、政治家と官僚の関係が希薄になっているのではないかという気がしました。
宇佐美：国会は「議論を活性化させてはいけない場所だ」といった認識が官庁側にあるように思います。僕が官僚時代に共産党がこちらの弱みを突くとても良い質問をしたので、真正面から向き合った答弁を作ったら、「いやいや。こういう事じゃない…、これじゃ折角まとめた案が崩れてしまう」と上から言われてしまいました。だから粗が出ないように論点ずらそうよ、みたいになってしまう。ただ業務効率を考えると確かにそちらの方が合理的なんです。官僚側も日々の仕事で手一杯なので、それ以上仕事を増やしたくないんですよね。そもそも今の国会の仕組み自体が議論して何か新しいものを創り出すような仕組みになっていないところに根本的な問題を感じます。
井出：先日の本会議も共産党の志位さんが、すごく力の入ったいい質問をしてるんですけど、答えは全然つれないんですよ。いかにも官僚が作ったものを安倍首相が読んでいるというか。首相ももうちょっとちゃんと答えてあげたほうがいいんじゃないか、と思ってしまいました。テレビを見ている人の中には、安倍首相に対して「なんだあいつ、チンプンカンプンなこと答えて」と思う人もいるかもしれませんし。
宇佐美：官僚側としては色々抱えている案件が多すぎるので、国会は活発な議論をして色々なものを生み出す場にしちゃいけない。国会は、事前調整してそれを丸く収めるみたいな感じになっている部分がありますよね。
井出：国会に限らないですけど、どこの地方議会も予算案が通らないことがないんですよね、基本的に。予算案が通らなかったら大ニュースですからね。大原則に立ち返るならば、喧々諤々議論して、修正すべきところがあれば修正するっていうのが本来のところでしょう。
宇佐美：そういう原理原則をみんなの党や維新の会には貫いて欲しいですよね。今はフィクションにフィクションを重ねている状態です。
ドイツなどでは、その場に官僚が同席して今から修正入ります、といってそこで議論して直したりするみたいなんですけど、日本の国会は議論しないためのシステムにしているので、たまに問題点を指摘されて、それに火がつくことはあっても、日々議論して改善していくとか切磋琢磨してより良い法案を造り上げるとかそういう発想にはならないですよね。仕組みの問題を感じます。
国会議員の”成果”はどのように図るべきか？
宇佐美：次回選挙のときまでに「こうなっていたい」といったイメージはありますか？
井出：自分は歳も若いんで、党も小さいですから、選挙もそんなに組織を作って「がっちり確実な」という選挙ではないんですよ。半分位はそういう組織固めもやるのですが、残りの半分は街頭演説のメッセージと勢いみたいな感じなんですよね。
今回私の選挙区は、民主党が1番で、私が2番で、自民党が3番で、2番3番は比例復活したんです。3人当選したのですが、本当に僅差なんですよ。投票率も全国的に低かったので、大激戦というよりは決め手がないまま有権者もモヤっとしていたと思うので、次回は「いままで国会を見ていて一番仕事をしたのは井出ようせいだったな」と思ってもらえるような形にして選挙に臨みたいですね。
―１人の国会議員の方の成果というのは、有権者は、どのように測ればいいのでしょうか？
井出：色々あるのですが、一つは所属政党が何かで成果を上げて自分がそこにいれば「我がみんな党は――」というのはありますよね。果たしてそれが本人の成果なのか、という部分もありますが。
あとは、自分のやってきたことを一生懸命話して、それを評価してもらう以外ないんじゃないかなと思うんですよ。質問に立って、この問題を取り上げて、その結果こうなりましたと。あるいは、全然形にもならなかったんだけど、こういう意図で質問しましたということが、きちんと説明できれば評価されると思います。ただ何回質問しましたとか、数だけではなかなかアピールになりません。
宇佐美：粘り強く発信し続けないといけないんですけど、忙しすぎてそういうのは難しいところはありますよね
井出：議員個人で言えば、しっかり国政報告会を開いたりとか、メディアでどんどん発信したりというのは非常に大事だと思います。政党レベルであれば、経済対策などでしっかり結果を出さなきゃいけないとか大きい動きが当然あると思いますけどね。
あと今、議員のJRのパスを断ったんですよ。年度申請なので、一体幾らぐらいかかるのかやってみようと思って、今年は取り敢えず断ったんです。そういう話を支援者にすると、「そうは言っても金掛かるんだからちゃんと申請しろ」って言われるんです。「議員パスいらないって言いました」って話は、一面では「特権を享受しない」「節約してる」みたいなイメージで取り上げられる可能性もあるけど、ちゃんと話すと、そういうのは申請して、チラシや国政報告の紙をそんな薄っぺらい紙じゃなくて、もうちょっと細かく書きなさいとか、秘書一人でも多く雇って活動を充実させた方がいいよとか、そういう意見がくるんです。発信をするというのは大事だなぁと改めて思いましたね。
宇佐美：そういうのをブログとかで発信すると「納得」という話になると思うので、きちんと発信した方が良いですよね。
僕はネット選挙運動が解禁されることによって浮動票を取り込むことに力を注ぐようになることで、変な政策協定が減ってくるんじゃないかなと期待しているんです。激戦区になると、何千票持ってます、というような怪しげな宗教団体と議員が協定を結ぼうとしたりする例があると聞いています。結構怖い事ですよね。
井出：今回の自分の選挙も、みんなの党は業界の推薦などはあまりないですし、推薦して出してくれても、どうせ力入れてくれないだろうからって全然出さなかったんですよ。それで蓋を開けてみると、「奥さんがお前に入れろって言うから入れた」とか、「子供がようせい君に入れてっていうから入れた」という話を聞くことが多いので、○○業界とか○○団体に頼らないでどうやって戦うかっというのは重要ですよね。
なので、できるだけ議員の活動、仕事の良い所、悪い所、自分の日常の活動の大変な所、楽な所とか、そういうのをできるだけ発信していきたいなと思っています。関心を持って頂いて、その関心を裏切らないようにしなきゃいけないなと思っています。
宇佐美：議員になって、特にこの分野は力を入れたいという分野はありますか？
井出：私は、教育をやりたいと思っているんです。教育は、景気が良くなったり雇用が増えたりするわけではないので、票にならないなどと言われるのですが、国政で最も大事な分野だと思いますし、時間がかかる問題だからこそ若い自分が、という思いはありますね。
―個人的には、若い世代の利益を代弁する政治家の声を聞く機会が少ないと感じています。そういう意味では若い世代の議員には期待しています。
井出：やはり年配の人の方が投票に行かなきゃいけないとか、選挙に関わろうという意識が強いので。若い人間が出馬すれば、若い人がちょっと興味持ってくれると思うのですが、私が10年何もしないで45になったら、そういう部分はなくなってしまいます。だからこそ、今若い人の関心を得られるように活動して行くというのが、若くして国政に出てきた人たちの役目だと思います。
―子育てや働き方の議論などを見ていると、年配の議員の方の感覚が非常に古いと感じてしまうシーンがあります。
井出：自民党の教育再生会議などを見ていると、「教育再生」というのがそもそも何なんだ、と思ってしまう部分があります。「古き良き時代」みたいなものが頭にあると思うのですが、多分具体的なイメージは誰も持っていないと思うんですよね。「戦前の日本はしっかりしてた」みたいなイメージだけで。
宇佐美：民間の力をもっと上手く使って欲しいんですよね。最近だと「勉強カフェ」というサービスを良く利用しているんですけど、自習室を自由にしたイメージでそこでは会員がラウンジに集まって、好きな本を置いて共有したり、うるさくならない程度で自由に議論しあったりするんです。
そうすると自然に会員の興味が広がっていったり年配者の知識が伝承されたりする。勉強だけじゃなくて教育の場にもなっているんですよね。就業教育なんて言って無理に学校でジョブトレーニングさせるよりも、そういった社会人が集まる場に高校生が来れるようにすればいい。だって国が「変われ」といっても、現場の先生が入れ変わるわけじゃないんですから、急には学校も変われないじゃないですか。
井出：私の地元にもシェアオフィスとか、コワーキングスペースで集まって仕事をする企業があったりしますが、ああいう取り組みは良いですよね。
宇佐美：子育てなども同じなのですが、コミュニティが生まれると、その中で自律的に教育や人間同士の支え合いが形成されていくので、そういう発想を大事にして欲しいですよね。おじいさん型はどうしても昔の枠組みに当てはめて、道徳教育の強化とか、そういう発想に走りがちなので。
井出：いじめの法案についても精神論的なものが多いように感じています。本来であれば、今までのいじめから傾向を分析したり、傾向を分析できないのであれば年2回全国調査をやって、学校ごとに分析してもらうとか。そうするとおそらく色んな傾向が出るんじゃないかとか思うんですよ。こうした取り組みを30代の若い専門家の方から案を聞いて、そういう実行型のものをやろうと、今話しています。また、道徳とか、そういう議論じゃなくてもっと子どもの勉強の中身を議論しなきゃいけないと考えています。
宇佐美：いじめの問題は、いじめがあったときに相談する人が教育委員会とか学校しかいないことだと思うんですよね。学校もいじめだなんて言ったら問題になるから隠蔽したいし、最近だと先生たちも1年で交代するよなので、見て見ぬふりをして1年乗り切るっていうモチベーションを持ってしまってもおかしくない。いわゆるモンスターペアレントなんかも増えて、うかつに子供を叱れないらしいですからね。
だから学校の中で何でも解決しようっていうんじゃなくて、仕組みとして学校外で子供がいじめの相談をできるところがあって、学校とそこが緊張感を持ちつつ連携をする仕組みを作る方がいいと思うんですよ。子どもの立場に立った議論をもうちょっとしないといけないと思います。学校というプラットフォームに何でも乗せようとしようとしても、もうアップアップになってて、それが機能しない。であれば、他の仕組みをつくろう、という発想の転換がいるんじゃないでしょうか。
井出：若い人の方が、そういう今の現実に合ったアイディアを持っていると思うんですよね。後はそれをどうやって形にするか。議員の若い人だけで騒いでいてもダメなんで、なんとか上を説得したり、世論を味方につけたりする必要があります。そういう意味では、ウチの党は自由裁量な所が大きいからやりやすいかなとは思いますし。そういう話題に関しては、他の党の方とも議論してみたいですね。
―是非、お願いします。本日はありがとうございました。
プロフィール
井出ようせい：昭和52年11月東京都生まれ。東京大学教育学部卒業後、NHKに入社。仙台、横浜でおよそ8年間記者として勤務。平成21年12月にNHKを退職。平成24年12月に行われた衆議院選挙にみんなの党から出馬し、当選。・井出ようせい議員の記事一覧
宇佐美典也（うさみ のりや）：1981年、東京生まれ。東京大学法学部を経て経済産業省へ入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しなどを担当。新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）への出向を経て退官。
・本人のブログ：うさみのりやのブログZ～三十路の元官僚のブログZ～
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