被災地の人々ひとり一人の決断に対する”寛容さ”が求められている―災害経済学者・永松伸吾氏インタビュー後編 - BLOGOS編集部
※この記事は2013年03月13日にBLOGOSで公開されたものです
BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。前回は「キャッシュ・フォー・ワーク」という新しい復興支援の取り組みがどのように機能したのかについて、関西大学社会安全学部の永松伸吾准教授に話を聞きました。今回は、震災から約２年がたつ今、被災地に対して何ができるのかについて語ってもらいました。【取材・永田正行／構成・亀松太郎（BLOGOS編集部）】被災地にどんどん行って、いろいろな人の話を聞いてほしい
―東日本大震災の発生から約2年がたち、だんだん風化していくのは仕方ないとしても、被災地の外にいながら、何らかの形で復興を支援したい人もいると思います。そういう人たちが何かしようというとき、どういうことができるでしょうか？
永松：やっぱり、被災地に行ってほしいですね。別に、勉強してこいという意味ではありません。現地は、外の人に見てもらうことで元気になるところもありますし、実際、観光でもなんでもいいので、外の人に被災地に来てもらってお金を落としてもらい、それを産業振興のプラスにしよう、ということです。
被災地の中には、既存の産業がなくなった中で、被災の悲惨な爪痕を見にきてもらうことを観光の目玉にしているところもあります。それを応援するという意味でも、ぜひ、どんどん被災地に行って、現場を見て、復興の状況を見守ってほしい。それは、外から行く人が思っている以上に、現地の力になると思います。
―被災地の外にいる人からすれば、「大変なところに観光気分で行っては申し訳ない」という気持ちをもっている場合もあると思いますが・・・
永松：それは、まったく逆ですね。被災地にどんどん行って、そこでいろいろな人に話を聞いて、現地を見てもらったほうが喜ぶと思います。というのは、いま被災地の人たちが一番怖れているのは、「自分たちが忘れ去られているのではないか」ということです。その感覚を口にする人は多いですね。
もう復興が終わったかのような印象を持っている人もいるけれど、「全然そんなことない。もっと見てよ！」といった感じなんです。
―メディアは節目、節目で報道することを考えがちで、その節目と節目のあいだに続いている地道な事業にあまり目を向けない傾向がありますが、現地の人たち自身で発信力を高めようという取り組みはありますか？
永松：たとえば、被災地復興に取り組む人たちに向けて情報を発信する「東北復興新聞」という新聞がありますね。そういうメディアを使って、復興の情報を広く発信しようとしている団体が運営しています。
僕が関わったプロジェクトでいうと、農水省の事業の一つなんですが、「ふるさとふれあいプロジェクト」では、被災地でのボランティアツアーを企画して、ウェブから申し込んで参加できる仕組みを作っています。
―いま、そういうボランティアツアーに行くと、どういう作業をしているんですか？
永松：いろいろでしょうね。たとえば、「3.11」にあわせてキャンドルイベントを実施することになれば、キャンドルを並べたり、企画の手伝いしたりということがあるでしょう。あるいは、どこかの家が「ぼちぼち農業でも始めたいな」と思ったら、その畑を整備するような活動もあったりするし、仮設住宅の環境整備みたいな活動もある。本当にいろいろですね。
たしかに震災直後のように、集団でまとまって、"ここからここまでがれきを片付けるぞ"という仕事はないけれど、いろいろな仕事がちょこちょこあるみたいですね。ボランティアなんだけれども、そんなに肩肘張らなくても良くて、体験型ツアーに近いものも多いです。
―まずは、被災地に行ってみることが重要ということでしょうか？
永松：まず、実際に被災地に行って、その土地に関心を持つことからでしょうね。あるいは、現地でいろいろ活動している団体にお金を託すとかも大事なことだと思います。でも、どういう活動が現地で望まれているのか、分かっていたほうがいいですよね。せっかく同じお金をだすのでも、丸投げではなくて、こういうことが大事だなと思ったところにお金を出したほうが気持ちがいいじゃないですか。そういう意味でも、どんどん被災地に行ったらいいんじゃないかなと思います。
以前に比べれば、現地で宿泊できるところが増えてきていますし、道路もほぼ問題ありません。そういう「被災地を見たい」という人を受け入れようとしている地元の団体もいっぱいありますから、遠慮せずに行ったらいいと思います。
―日本という国は、今回の東日本大震災から何かを学んでいるでしょうか？
永松：学んでいると思いますよ。この国は、起こってしまったことを次に起こさないようにすることはものすごく得意ですね。逆に、起こったことのないことに対する感度が低すぎるのは非常に問題だと思うのですが。
震災から学んではいるんですが、その学び方には注意する必要がある。つまり、何を失敗ととらえ、改善していくのか。たとえば、今回の東日本大震災では、災害ロジスティクスが問題とされました。避難所に必要な品物が届かなかったことが問題だったということです。
それをどうするかというときに、僕や仲間の研究者からすると、素人の行政職員が物を集めてきて被災地に送ろうという発想が不遜である、と。そんなことは行政が効果的にできるわけない。餅は餅屋の発想で、民間の流通業者に全部まかせてしまえばいいのではないかと思うんですよね。
でも実際には、役所主導でどうやったらもっとうまく物を回せるかということを一生懸命、考えているような気がします。首都直下地震に備え、東扇島と有明の丘の二カ所に政府が物流拠点を建設しています。そうした拠点は必要だとしても、そのオペレーションまで政府がやるというのは無理ではないかと思うのです。
―民間に任せるべきことを任せようとしないという面があるということですか？
永松：おそらく、政治の影響なのではないかとも思います。物資を被災地に送るというのは目に見えやすいですから。政府がそれに力を入れているのを見せるという意味で、「民間に全部任せます」とは言えないのかなという気がするんですけど。避難所に物資が届かないということは政府の対応を批判する格好の材料になりますしね。
今回の東日本大震災の物流について研究をする中で、ある小売業者の話を聞きました。彼らからすれば、被災地の店舗をいち早く開けて、そこに物を供給して、被災した人たちに販売するというのが社会的使命ですよね。
ところが政府が来て、救援物資として召し上げられたために、店舗への商品供給に支障が出たこともあったと言います。それでは、本末転倒ではないでしょうか。それでその業者よりも効率的に物資を配分できるならいいのですが、実際はそうではない。そんなことをするよりも、民間の流通業者主導で、災害時物流のあり方について検討してもらったほうがよいのではないか、と思っています。
被災地の復興では、これからが一番「しんどい」時期
―先程「被災地に行くことが重要」という話がありましたが、それ以外で、復興支援のために必要な活動というのはありますか？
永松：質問からはちょっとずれるかもしれないですが、最近、すごく気になっているのは福島の状況です。この間、福島に行って、現地の行政関係の人と話したんですが、そのときにある話を聞いて、ショックを受けました。
福島から県外に避難している人は約5万7000人いるんですが、関西でも県外避難者を支援している団体があります。そうした団体によると、県外避難者の方も大変なんですね。仕事がなくてどうするかとか、お父さんが福島に残って家族は離れ離れになっているとか。あるいは、いまは避難した先の自治体から家賃補助が出ているけれども、それがまもなく打ち切られるとか。さまざまな生活の不安を訴えている人が多いんですね。
ところが、私が会話した人は「県外避難者が風評被害をまき散らしている」と言うんですね。「福島から避難してきて『危ないから避難した』と言ったら、そのこと自体で『福島は危ない』ということになってしまう。県外避難者が福島の風評被害を広げている」という言い方をするんです。
それを聞いて、僕はものすごくショックでした。福島県の外に避難している人の中には、決してのうのうと生きているわけではなくて、すごく辛い思いをしながら暮らしている人がたくさんいる。仲間や友達を残して避難したことに関して後ろめたい思いをもっている人もいっぱいいるんです。
福島については、本来は被災した人たちや県外の我々が一丸となって、どうするかを考えないといけないのに、そうした意識のすれ違いというか、ある意味被災者が分断されているわけですよね。深刻な問題だと思います。
福島から避難した人たちだって、のほほんと暮らしているわけではないし、避難してきたことに後ろめたい思いもしている。県外でもすごく苦労しながら生活していますよ――ということをその時は話しました。
それに対しては「まあ、そうだけど・・」という反応でしたね。口には出さなくても、そういう感覚をもっている人は他にもいるでしょう。もちろん、県外避難者の中にも、ことさらに危険性を強調している人がいることは事実のようです。でも、そういう人は避難者以外にもいっぱいいるから、県外避難者の問題ではないと思うんですよね。被災した人たちがどういう形で復興していくのかということに関しては、個々のいろいろな思いにもとづく「それぞれの決断」を尊重してあげないといけないのではないか、と思います。
放射線の問題はそもそも、科学的にどうなのかというレベルでよくわからない部分もあるけれど、おそらく、いま科学的に判明しているすべての情報を正しく伝えたとしても、それをどのように感じるかは、個人差がすごくあると思います。被爆リスクへの感受性は異なるのです。
また、それだけでなく、福島に対する愛着や思い入れも、人によっていろいろです。たとえば、親戚がみな福島にいるとか、福島でしか働けない仕事をしている人たちは、どんなに怖くても、福島から避難できないでしょう。逆に、関西出身だけど、夫の仕事の関係でたまたま福島に住んでいたというような人は、小さな子供がいたりすれば、関西の実家に避難することへのためらいは相対的に小さいでしょう。避難することで失われるもの、経済学ではこれを機会費用と呼びますが、それも人によって違うのです。避難するかどうかは、経済学的に言えば被爆リスクと、避難の機会費用のどちらが大きいかという問題です。
だから福島に残っている人が皆、放射線の恐怖を感じていないわけではない。福島に居住しながら、被爆リスクを避ける懸命の努力をしている人もいます。逆に県外に避難している人が皆、県内にいる人よりも放射線を怖がっているかというと、必ずしもそうでもないと思います。
そういうことを、みんなに知ってほしいですね。福島に暮らすことを決めた人々には、できる限り安全に暮らすための支援をしてあげたい。避難生活者については、それによって生じる苦しみをできる限り取り除いてあげたい。どちらも同じ被災者として尊重されるべきだと思います。どちらにも罪はないんです。先日、県外避難者を支援している弁護士の方が、被災者には「被爆を避ける権利」があり最大限尊重されるべきとおっしゃっていて、非常に腑に落ちました。
―福島の中にいる人と外にいる人のあいだに、気持ちのすれ違いがあるということですか？
永松：すれ違いというか、意識のギャップというのか、言葉は難しいのですが、そういった一人一人の決断に対する寛容さが求められている、と思うんですけどね。
他方で、直接被災していない我々のような立場からは、福島に関してなんとなくイメージで「怖い」と決め付けるのではなくて、正しい知識をもって、あいまいな情報に流されないで判断する。そういうことが、福島に関しては、実は一番求められている「復興支援」ではないかという気がします。例えば福島県産農作物については驚くほど詳細な検査結果が開示されています。 こうした情報を参考にして、本当に福島県産が危険なのかどうかを冷静に判断してほしいと思います。こうした数字そのものが信じられないという声も聞きます。ただ、知って頂きたいのは、被災地で行われている放射線モニタリングには、被災者自身が緊急雇用で関わっているものも多いということです。CFW-Japanのサイトでも紹介しています。根も葉もない数字をでっちあげるなんて無理ですよ。
誤解を恐れずに言えば、現時点で福島の人々を苦しめているのは「放射能」ではなくて、むしろそれを巡る人々や社会の反応だと思います。
―被災地と一口にいっても、地域ごとに復興の度合いに差があるようですが、現地の人たちはそのあたりについてどう感じているのでしょうか？
永松：被災地の復興は、これからが一番しんどい時期です。どういうことかというと、街が元に戻ったり、商店が再開したりとか、ぼちぼち復興しだすところが出てくるんですね。復興格差と言われる問題です。阪神・淡路大震災では、だいたい2年目、3年目ぐらいで出てきました。
レベッカ・ソルニットという人が書いた『災害ユートピア』という本があります。災害が起こると、富める者も貧しい者も、社会的地位が上の人も下の人も、みんな裸一貫になって対等になる原始共産主義社会が生まれます。これを「災害ユートピア」と呼んでいるんですね。
ところが、しばらくたつと、財力がある人は自分で家を建ててそちらへ移り、大きな会社に勤めている人は仕事が戻ってくるということで、格差が出てくる。これが一番しんどいんですね。焦るというか。
災害の前にあった格差がいったんなくなって、みな平等になったんだけど、また引き離されていくということです。しかも引き離されていくほうは、ゼロの地点ではなく、マイナスのところにいるわけですからね。そのときの格差はしんどいですよね。それがこれから、ぼちぼち出てくるんだと思います。
―そのような新しい「格差」の出現に対して、外部から何らかのケアをする方法はありますか？
永松：おそらく、生活再建が遅れている人たちを焦らせないこと、最後の一人まで支えることでしょうね。「焦らなくていいよ、俺たちがついているよ」と言ってあげることが大事だと思います。
そういう意味では、外の人たちが関心を持ち続けることが必要なのでしょう。マスコミの関心が薄れていくのは仕方ないとしても、少なくとも国民の一定の割合の人々に関してははそういうところへの関心を持ち続けていってほしいですね。
―本日はありがとうございました。※前編はこちらから
プロフィール
永松伸吾（ながまつ・しんご）1972年生。関西大学社会安全学部准教授。大阪大学大学院国際公共政策研究科から同研究科助手、人と防災未来センター、独立行政法人防災科学技術研究所などを経て現職。一般社団法人CFW-Japan代表理事。専門は災害経済学、防災・減災・危機管理政策。主著に『キャッシュ・フォー・ワーク――震災復興の新しいしくみ (岩波ブックレット) 』『減災政策論入門―巨大災害リスクのガバナンスと市場経済 (シリーズ災害と社会4)』など
