小沢一郎氏公開討論会－「震災は国民主導最大のチャンス」 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年07月29日にBLOGOSで公開されたものです
民主党・小沢一郎元代表と、オランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の公開討論会が自由報道協会主催で行われた。小沢氏は「震災は改革のチャンス」とし、「復興の大義名分を使って、中央集権から地方分権へと舵を切るべき」と語った。また、菅首相に対しては「その時々で思いついたことを言って、自分の言葉に責任を持たない。それが最大の問題」と批判した。【取材・構成 田野幸伸（BLOGOS編集部）】プロフィール
カレル・ヴァン・ウォルフレン
小沢一郎×カレル・ヴァン・ウォルフレン公開討論会
モデレーター：上杉隆氏
上杉：まず、震災について。東日本震災以降小沢さんの影が見えなかった。何をしていたのか。
小沢：いまだかつて経験したことのない大災害。私も被災県の岩手県の出身。福島の原発と放射能汚染の問題。非常に深刻な事態だと機会があるたびに訴えていた。今、日本人の長所が発揮されていると同時に、欠点も露呈されている。長所というのは、大災害にもかかわらず、力を合わせて復興のために頑張っていること。忍耐と努力。それは日本人として誇っていいこと。
ただ、いまだかつてない危険性を秘めている原発事故と放射能汚染の拡大に直面している。こういう事態になると、個人的な力の発揮ということ以上に、国家として前面に立って、英知を集め、思い切って対策を講じていく仕組みと姿勢が必要だと思うが、一般の国民の中からそういった強い要求・動きが出てこない。非常に日本的な現象だと思っている。ほかの国だったら。（今の政治の現状を）黙って見過ごしているようなことはない。大きな国民運動に広まりかねない。
そういうところが日本の国民性の不思議なところ。「まあまあ」と、みんな頑張ってるとなる。この問題は、マスコミ自体も政治家が何をするべきなのか、この深刻な状態をどう克服すべきなのか、そのためにはどんな体制が必要なのか、政治家はどうあるべきなのか、国民に問うべきだと思う。
上杉：相対的に岩手県の復興が進んでいるように見える。小沢さんのお膝元は進んでいる。小沢さんの地元だけでいいのか。仮に小沢一郎政権・小沢一郎総理だったら、どのような形で今回の震災に対応したか。
小沢：岩手県の復興の進捗状況がいいが、別に私が何かをしてるわけではない。ただ、県民の努力と同時に、知事を始め、任務に当たっている人が先頭に立って、あらゆる活動を一生懸命やっている。そういう体制が岩手県が他の県よりしっかりしていたので、他県より進んでいるのと言われているのでは。
私の場合は、放射能汚染の危険を強く主張してしている。東京電力が第一の責任を負うことは当然だが、日本が政府として、国家として、原子力発電を推進してきた。許認可を与えてきた。今日の放射能汚染が依然として続いている深刻な事態は東京電力が責任者だと言って済む場合ではないのではないか。東京電力にやらせておいて、国は支援しますよという姿勢では国民、県民の生活は守れない。政府、国家が全面的にその責任を持って、最も有効とする方法を大胆にやるべき。お金がいくらかかるかか、からないかの問題じゃない。財源を考えている場合じゃない。極端な話、財源があろうかなかろうが、放射能は封じ込めなければならない。国家が全力で対応に当たる。その体制を構築すべき。
ウォルフレン：今回の震災、阪神に比べて政府の対応はどうかと見ていてた。阪神のときよりずっと早い対応だと思った。私はその事を記事を書いて、世界に発信した。半世紀ぶりに変わった政権（民主党）は国民の立場に立った政府と紹介した。しかし、初動の後の対応はダメだった。
官僚体制を政治がコントロールしようした人たちなのに、なぜこうなってしまったのかと思った。一つ考えられるのは、首相が一人で何でも出来る思ってしまっているのではないか。菅さんでなくても、一人では何も出来ない。
災害に対処しながら、原発対応もして、同時に官僚を政治が管理するのは大変なこと。原子力事故が起きたということは沢山の避難民が出るわけだから、政治家一人でとても対処出来ることではない。お互いに民主党を作った人たちが、同じ志を持った政治家たちが協力しなければ出来ないこと。
去年の秋、民主党のトロイカ体制はすごくいいと思った。みんなで一緒にやるべきだった。新しい政党が新しい（日本の）システムを作らなければならないと思った。小沢さんは官僚をうまく使うことが出来る人だと思っているから、小沢政権が出来た場合は協調体制ができるのではないか。
上杉：ウォルフレンさんが書いた「誰が小沢一郎を殺すのか」に日本は人物破壊のキャンペーンをやっていると書かれています。本に書ききれなかったこと。聞いてみたいことがあればぜひ。
ウォルフレン：私は直接知っているわけではないし、友達でもない。政治体制を制する才能を持った人だと考えている。今の政治体制のメカニズムはこういう有能な人を抹殺する。そのシステムに興味を持っている。
（日本の）マスコミの主流派は、政治的のリーダーが出てこない、出てこないと言っておいて、出てくると抹殺しようとする。なんて不思議なシステムなんだ。マスコミが悪いとは言わない。だが、既存の秩序を守るのが義務だと思っているのではないか。20年～25年の間、官僚を始めとするいろんな方に会ってきたが、彼らは現体制をなんとしても守りたいという気持ちがあるのではないか。
小沢さんに対するマスコミの当たりようは外から見ると本当に馬鹿げている。検察の小沢さんに対するやり方も本当に馬鹿げていると言わざるを得ない。名前は忘れてしまったが、自民党のある議員は、小沢さんと同じ事を国会議員みんなにやったら、国会は空っぽになると言った。検察が証拠を集められなかったのに、朝日新聞の論説では、証拠は無いけど有罪だといった。どうしてそういうことが言えるのか。
検察審査会はアメリカの占領下で出来たシステム。どうやって出来たかというと、アメリカ占領軍は日本の法務省を信頼しなかった。信用できない検察制度をチェックするためだった。しかし、今まで、審査会が発動したのは交通事故や軽犯罪だけだった、小沢さんの件ではなぜか魔法のように使われた。
上杉：日本は総理を持ち上げて、いざリーダーになると潰す、不思議な国という話が出ましたが、小沢さんにその実感はありますか？
小沢：日本人の特殊性では。歴史的に強烈なリーダーは必要なかった。日本は平和で豊かな国。「和を持って尊し」という言葉に代表されるような、悪く言えば談合社会、よく言えばコンセンサスの社会。結論は誰も責任取らなくていい社会。我々は官僚主導から、政治家主導、国民主導に変えるんだと訴えて、政権を任せていただいた。ところが、現実は自民党のときよりひどいじゃないかと言われる始末。官僚機構に乗っかっているだけ。
こういう非常事態においては、国民主導の政治をするために、国の統治の方法、中央主権から地方分権、震災に対処するという大義名分があるので、思い切ってやれば出来る。その最大のチャンスなのに、結果としては、酷評される。そのゆえんは、政治主導、国民主導の政治とは、政治行政の政策を実行する時に、自分自身の責任で実行するということ。それがなければ国民主導なんてのはただの言葉でしかない。政治家が責任を取らなくてて、どうして官僚が言うこと聞くのか。「オレが責任取るからやってくれ！」といえば官僚は付いてきますよ。それをやらずしては我々は国民にウソを付いた事になる。今からでも遅くないから、こういう危機を上手く活用して、政治家主導の政治をやり、国民生活が第一というキャッチフレーズに恥じることない震災対策、政治を実現させなければならない。
上杉：先ほど、トロイカ体制の話が出ましたが、震災においては民主党内バラバラ、与野党の連携も取れていない有様です。トロイカ体制が出来ない理由はどこにあるのでしょうか？
小沢：それは、菅さんに聞いてもらって・・・（会場笑）ウォルフレンさんが言ってましたが、総理一人で何でも出来るわけじゃない。いろんな人の知恵と力を借りるというのはその通りなんですが、僕や鳩山さんを相手にしなくてもいい。菅さんが自分の責任でちゃんとやればいい。その時々で思いついたことを言って、自分の言葉に責任を持たない。それが最大の問題。政治家、特にトップのリーダーは自分の言動に責任を持つ。でなければ誰もついてこない。国民も信じない。それは日本にとって不幸なこと。これでは日本に民主主義は永久に根付かない。マスメディアもオピニオンリーダーというのならば、それらしい論理で行動してもらいたい。
上杉：菅さんはなぜ辞めないのか、何をすべきなのか。
ウォルフレン：菅さんが総理になったこと自体、小沢さんあっての物だった。公約を実行するためには、官僚をコントロールしなければいけない、それには党内協力体制が必要だ。
小沢：菅さんの性格や人間性は知りません。僕の常識ではなかなか理解が出来ない。ただ、問題は日本人の曖昧さ。あの時に辞めるとか、辞めないとか、何事もはっきりしない。クローズと曖昧さがいけない。私はえらく批判されるけど、会見・会談はオープンにするし、記者会見で話すことと個人的に話すことは同じ。オープンで明確な意見の交換を日本人は嫌う。何事も曖昧な言葉でごまかす。そうするとだれも傷つけない。結論を出さない。「誰が決めたんだ！」となると「あの会議でなんとなく決まった」とする。感情論や、ああだろうこうだろうの憶測で大切なことを話してはいけない。「常識的に辞めるだろう」で話していても、常識の通じない相手（菅首相）ではどうにもなりません。
ですから、不信任案で菅首相を辞めさせるしかないという結論に達したのは、こういう状況を予想してたからで、もう少し日本社会をオープンで正確な結論を出すということにしなければ。日本の会議は多数決をとらない。決を取ると角が立つとか、波風が立つとか。だから自民党では、意見がまとまらないと、反対者に最後の会議を休んでもらって全会一致にする。民主党は決すら取らない。民主主義を理解しているのか。自分の意見をはっきり言い。はっきり結論を出す。そしてみんなで出した結論には従う。
上杉：自由報道協会のオープンな会見に一番多く出てくれているのは小沢さん（4回）菅さんはお願いしているけど1度も出てくれない。どちらがオープンかは明らかだが、記者クラブの報道では、小沢は密室政治の権化とされるのはどうしてなのでしょう？
ウォルフレン：なぜ、日本のマスコミは一人の政治家に長期間、世界でも類を見ない抹殺キャンペーンをするのか。それは（小沢氏が）既得権益を壊すという恐れからではないか。
今、いいアイディアを思いついた。日本の国民が選んだのは政治家であり、検察やマスコミを選んだのではない。だから、国民が選んだ法務大臣に直接訴えればいい。小沢問題を集結させて、政治活動が普通にできるようにしてくれと。
上杉：検察問題について。最近石川知裕さんの調書が不採用になったりしましたが、どうお考えですか？
小沢：個別の問題については差し控えるが、民主主義の根幹である選挙。それは主権者が唯一権利を行使する場。その選挙や政治活動には独立した第三者機関が管理指導を行うというシステムを作るべきだと考えている。直接警察検察が権力を行使するという仕組みは後進国的な要素を強くするだけで、健全な民主主義の発展のためにはならないと思う。
選挙でも何でもそうだが、朝から晩まで監視されていれば、ちょっとした道交法違反とか軽犯罪法に引っかからない人はいないだろうと思います。特定の人間にターゲットを絞ってやったら、全部罪人になってします。選挙には1億人が参加する、投票するほうもされるほうも些細な問題点はは沢山ある。買収とかは別だが。それを全て公権力が取り締まるのはおかしい。狙われたらアウトである。こういう中で民主主義は定着しない。選挙を監視する第三者機関が必要。それにより選挙の公明・公正を確保する。仕組みを変えないといけない。この国は国民の生活隅々まで官僚支配が行き届いている。これを打破するには、国民が自ら政治家を選び、政治家に思い切った活動をさせる。それが大切だと思う。
ウォルフレン：最後に一言だけ。無関心になる事は、たやすいこと。日本は復興しなければいけない。だがもっと大きい問題は沢山ある。国際的な金融問題やアメリカ国内を見ていれば、何かが終わりに来ていることは分かると思います。第二次世界大戦後の金融システムが終わろうとしている。ということは、日本にも多大な影響を与える。本当に深刻な問題なんです。今のままではダメなんです。それを伝えたかった。
小沢：今の指摘、非常に大切なことだと思います。日本人はあまり深く受け止めていないが、アメリカもヨーロッパも財政が危機的状況になってきている。ミスター円と呼ばれた榊原（英資）氏が「世界同時不況がすでに始っている！ 」という本を書いていて、その中で日本全国に無責任体制が広がっている中で、経済が本当に大恐慌でも起きた日には無秩序な社会に陥る心配をしている。放射能汚染の問題、世界全体を覆っている金融不安の問題。これを日本人はもっと深刻に捕えて、対処の仕方をあらゆる分野で整えていかなければならない。
関連記事
・菅首相 お盆前には退陣か－小沢一郎氏が時期に言及
・「小沢氏はホリエモンと似てる」 東京地検に逮捕された元秘書・石川知裕衆院議員が熱く語る
・特捜の取り調べ「すごい怖い」 小沢一郎氏の元秘書が打ち明ける“怨念の捜査”
