福岡北九州フェニックス河西智之代表と堀江貴文オーナー(写真:筆者撮影)

昨年、2021年は日本の野球独立リーグにとってエポックメイキングな年になった。長引くコロナ禍にもかかわらず、「独立球界再編」というべき大きな動きがあったのだ。

何といっても大きかったのが、九州アジアプロ野球リーグのスタートだろう。昨年3月、火の国サラマンダーズ、大分B-リングスの2球団でスタートしたが、両チームの対戦に加え四国アイランドリーグplusやソフトバンク3軍などとの交流戦も行い注目を集めた。

火の国は、参加1年目ながら四国アイランドリーグplusの4球団すべてに勝ち越し、ソフトバンク3軍とも好勝負を演じた。

9月には食品総合商社のヤマエ久野がリーグスポンサーになり、ヤマエ久野九州アジアリーグとなった。

何より注目されたのが10月26日のドラフトで、火の国の救援投手・石森大誠が中日からドラフト3位で指名されたことだ。独立リーグでは今年最高位。九州アジアリーグのレベルの高さを知らしめた。

堀江貴文氏がオーナーの福岡北九州フェニックス

秋には堀江貴文氏がオーナーを務める福岡北九州フェニックスが来季から参入すると発表。元ロッテ、阪神の西岡剛が選手兼任監督に就任するなど話題性にも事欠かない。

さらに12月、リーグはプロ卓球リーグチーム「琉球アスティーダ」を核とした琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社と協力し、沖縄に拠点を設けることを発表した。今年3月19日には北九州で火の国と北九州の開幕戦も予定されている。

一方でルートインBCリーグに所属していた滋賀、福井、石川、富山の4球団は、BCリーグから独立し、新たに日本海オセアンリーグを創設した。このリーグの運営を担うのは神奈川県を本拠地とする企業集団のオセアングループ。グループトップの黒田翔一氏がリーグの代表に就任した。選手の給与水準のアップや週末に集中した試合開催、リーグ製作の試合動画配信などさまざまな改革を行っていく。

4月2日には、滋賀県彦根市に4球団が集結して開幕戦を行う。

こうした新たな独立リーグの動きには、いくつかの共通点がある。1つは、新しい経営者がほかの業界から参入していること。スポーツビジネス、ITやインフラなどの業界で経験を積んだ若手経営者が、既存のビジネスモデルにこだわらず、新しい「独立リーグの形」を模索している。

決め手となっているのはDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。仮想通貨も含めたクラウドファンディング、動画配信、ネットによるファンクラブの構築、チケッティング、ECサイトまで、IT技術を駆使して独立リーグの情報化を推進している。

「人材輩出の重視」するようになったワケ

もう1つは「人材輩出の重視」だ。これまでの独立リーグは「地域密着」を大事にする傾向が強かった。地元に貢献することで小口スポンサーを数多く集め、球団を維持する活動はどの球団もやってきた。近年は、それと並行して優秀な選手を集めNPBに送り出すことを重要視する球団が増えてきた。

独立リーグ球団はNPBに選手を輩出すると育成費の名目で選手の契約金、年俸の何割かを受け取る。それは球団の収入として小さくはないが、一過性の収入のうえに、育成指名の場合、金額はそれほど大きくない。

しかし、独立リーグから選手がプロ野球に行くと、たとえ育成でも地元メディアは大挙して押し寄せる。ドラフト指名日、入団契約の締結日、自主トレ始動、春季キャンプインなど節目の度にメディアは入団した選手の動静を伝える。これが独立リーグ球団にとっては、小さくないメリットになっている。

このコラムで何度も指摘してきたが、独立リーグに欠落しているのは「ステイタス」「社会的信用」だ。地域の人は「あのチームは“プロ野球”を名乗っているが、実力はどんなものだ?」という懐疑的な視線を向けている。NPBに人材を送り出すことによって、地域における信用は高まり、スポンサー獲得や観客動員にも良い影響があるのだ。

また、NPBに人材を多く輩出する球団には、アマチュア球界から良い人材が集まるようになる。四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスは、今年まで9年連続でNPBに人材を送り込んでいる。西武の岸潤一郎のように一軍で活躍する選手も出たことで、徳島には「NPBに行くために」入団する選手が出るようになった。

そういう前例もあって新規参入した独立リーグ球団の多くも「プロに行ける人材の確保」を重要視している。

企業が抱える「会社チーム」は減少

独立リーグが変動している背景には「社会人野球の長期低落傾向」がある。社会人野球連盟に加盟するチーム数は2013年には342、2021年は346と横ばいだが、企業が抱える「会社チーム」は196から97に減り、「クラブチーム」が146から249に増えている。

企業の正社員として給料を得ながら野球をする「会社チーム」の選手は減少し、他に仕事を持ちながら野球をして大会に参加する「クラブチーム」が増加している。独立リーグと大差ない待遇のクラブチームも多い。しかも社会人は高卒なら3年間、大卒でも2年間はプロ野球のドラフト指名にかからない。さらに「育成ドラフト」での指名もない。

社会人を経てプロ入りを目指していた選手の中には、独立リーグに進路を切り替える選手が増えているのだ。

火の国サラマンダーズの前身は、社会人野球の熊本ゴールデンラークスだった。オーナーの田中敏弘氏は、熊本での野球振興を推進するためにはプロ化が必須と決断し、熊本ゴールデンラークスを火の国サラマンダーズにするとともに、九州アジアプロ野球機構を創設し、代表理事に就任した。これも社会人野球と独立リーグの位置関係の変化を象徴する一例だろう。

こうした状況下、昨年オフには、独立リーグ、球団主催の「トライアウト」が全国で数多く行われた。

注目すべきは「合同トライアウト」が多かったことだ。日本海オセアンリーグは4球団の合同トライアウトを行ったが、新球団、福岡北九州フェニックスは単独でのトライアウトのほか、堀江氏が経営に参画していたBCリーグ武蔵ヒートベアーズとの合同トライアウトを行った。


3球団合同トライアウト(写真:筆者撮影)

また九州の火の国サラマンダーズ、関西独立リーグの堺シュライクス、BCリーグの茨城アストロプラネッツは、3球団で九州、関東、関西で3回合同トライアウトを行った。ほかの球団も積極的にトライアウトを実施したから、今オフは有望選手をめぐって独立球団の「人材争奪戦」の様相を呈した。

筆者はそのうちいくつかのトライアウトを取材した。

福岡北九州フェニックスの河西智之代表は、「地元福岡ソフトバンクホークスとの交流戦や人材交流に期待したい」と語った。


左から火の国サラマンダーズ神田康範代表、堺シュライクス夏凪一仁代表、茨城アストロプラネッツ山根将大代表

火の国、堺、茨城の合同トライアウトでは3人の経営者が顔を合わせた、火の国サラマンダーズの神田康範代表は「うちは前年から契約を継続する選手が多いので、獲得するのは若干名です。それよりも各地の独立リーグの現状を知ることの意義が大きい」と語った。

堺シュライクスの夏凪一仁代表は「こういう形で3球団でトライアウトをすると、より多くの有望選手を見ることができる。また他の球団の経営者や指導者と意見交換できることも意義がある」という。

世界の野球事情に精通した野球指導者の存在

とりわけ面白い動きをしているのが、茨城アストロプラネッツだ。昨年年、世界の野球事情に精通した野球指導者の色川冬馬氏をGMに招いた。

色川GMは、バルガス、アルバレスの2外国人選手を獲得したが、バルガスは7月の東京五輪ではメキシコ代表に選出された。茨城に復帰後、オリックスに入団し、日本シリーズでも投げている。アルバレスも7月にソフトバンクに入団した。

さらに今年1月17日には所属する投手の松田康甫が、MLBのロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約をしたことが発表された。

山根将大代表は「色川GMは、日本人選手にも的確なアドバイスができる。独立リーグでは勝つことももちろん大事だが、それ以上に人材を育成し、輩出することのほうが重要だ。NPBだけでなくいろんな世界に人材を送り出したい」と語った。

この3人の経営者は、それぞれプロスポーツチームの経営で苦労しながら経験値を高めてきた。しかも進取の気質に富み、新たなビジネスの創出に意欲的だ。リーグをまたいでの交流、連携が新たな展開につながる可能性は大きいだろう。

2005年に四国に独立リーグが誕生して来年で17年、四国アイランドリーグplus、ルートインBCリーグなどに所属する独立リーグ球団は、経営の徹底的な合理化を図り、損益分岐点を下げて、地域密着型の営業、マーケティングを展開してここまでやってきた。今ではNPBとは異なるビジネスモデルを曲がりなりにも確立したといってよい。

「淘汰の時代」を迎える独立リーグ

しかしながら、将来性、発展性を考えたときに、既存の独立リーグにどんな「次のビジョン」があるのか、やや疑問があるのは否めないところだ。新規参入する独立リーグ球団は、既存リーグ、球団にとって大きな刺激となるはずだ。

さらに言えば、独立リーグは今後、「淘汰の時代」を迎えるそうだ。
現在、独立リーグ球団は全国に30もある。

四国アイランドリーグplus 4球団
ルートインBCリーグ 8球団
日本海オセアンリーグ 4球団
さわかみ関西独立リーグ 4球団
ヤマエ久野九州アジアリーグ 3球団
北海道フロンティアリーグ 3球団
北海道ベースボールリーグ 3球団

単独(琉球ブルーオーシャンズ)1球団

存立基盤も運営体制もさまざまではある。今後は、「人材輩出」「地元貢献」「新たなビジネス」など何らかの独自性、先進性を打ち出せない球団は淘汰される可能性もあるだろう。

【2022年2月22日11時32分 追記】記事初出時、独立リーグの球団数等に関する記述に誤りがあったため上記のように修正しました。

今オフの多くのトライアウトによって優秀な人材が多数独立リーグに入団した。来年以降、独立リーグの実力はさらに上がるはずだ。

コロナ禍で経営的に大きなダメージを受けたNPB球団は、今も独立リーグとさまざまな形で連携しているが、さらに結びつきを強める可能性はある。しかしそのときにパートナー足りうるのはしっかりしたビジョンと、それを実行できる経営手腕を持った球団に限られるだろう。

(広尾 晃 : ライター)