この記事をまとめると

■ホンダはなぜ高性能車にもFFを採用するのかについて考察する

■ホンダは「マンマキシマム・メカニズムミニマム」を重視している

■FFを突き詰めた究極の姿をタイプRに見ることができる

FFは「マンマキシマム・メカニズムミニマム」の構想にうってつけ

 ホンダのクルマづくりは、シビック誕生のころから、「マンマキシマム・メカニズムミニマム」であることを重視している。そこから、シビック・タイプRのような車種も、当然ながら標準車と同様の前輪駆動(FWD)になっている。

 そもそも、2輪車(エンジン付き自転車の次にバイク)の製造から事業をはじめたホンダは、エンジンと変速機が一体の機構に親しんできた。その構想を基に4輪車を考えれば、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)か、リヤエンジン・リヤドライブ(RR)のどちらかとなっていく。また空冷式のエンジンを使っていたこともあり、車体の前にエンジンを搭載したほうが冷却しやすいと考えたかもしれない。

 もちろん海外には、フォルクスワーゲンのタイプ1(通称ビートル)や、フィアット500のようなRRの例もある。だが、荷物もそれなりに詰める実用性を求めたら、FFが合理的だ。英国のミニや、ビートルの後継となるゴルフはFFだ。そしてそれは、マンマキシマム・メカニズムミニマムの構想にもうってつけである。

 こうして、歴代ホンダ車はFWDを基本として車種を増やしてきた。

FFを突き詰めた究極の姿をタイプRに見ることができる

 ホンダが小型車の製造に乗り出したとき、先にホンダ1300という4ドアセダンがあった。その2ドアクーペものちに発売されている。しかしホンダ1300は、日産サニーやトヨタ・カローラのあとからの発売となり、高度な技術を使った高性能車だったが、その分、競合大衆車に比べ価格が高く、販売は思わしくなかった。

 その反省を踏まえ、ホンダならではの小型車を一から考え直したのがシビックだ。ホンダは、2輪車(バイク)の販売から事業をはじめ、自転車販売店で併売するなどして販売店網を拡充していったので、店舗の敷地は小さかった。そういう店でも扱えるように、シビックは車体寸法を限度まで小さくする挑戦も行った。それでいて、乗員は快適に、かつ荷物も載せられるようにと、実用性を最大に発揮する開発手法が、マンマキシマム・メカニズムミニマムの構想だ。

 一方、軽自動車のビートやS660,あるいはNSXやホンダS2000など、2人乗りのスポーツカーは、後輪駆動(RWD)だ。スポーツカーは、運転を楽しむことを第一に考えたクルマであり、俊敏な操縦性の点でも、車体は小柄であることが望ましい。S2000はFRだが、他のホンダのスポーツカーはミッドシップである点も、スポーツカーの純粋さにこだわった証といえるだろう。

 実用のためか、楽しみのためか、クルマ作りを明確に分けたのがホンダといえるのではないか。

 そのうえで、シビック・タイプRは、FWDでありながら運転の醍醐味を味わわせる操縦性が作り込まれている。同時にまた、アクセル操作の繊細さが求められる。FWDならではの技を求めるのだ。そこがまた、ほかの高性能車とは違ったタイプRの面白みともいえる。FWDの究極の姿をタイプRに見ることができる。