陶器の豆皿でいただく梅雨のさっぱり献立【神谷よしえさんの「旅する豆皿」#5】
生まれ故郷の豆皿と大好きな梅のレシピを紹介します
日本の工芸をベースにした暮らしの道具を取りそろえる「中川政七商店」とフードアドバイザーの神谷よしえさんが、各地の郷土の産品や料理に合わせたアレンジレシピと豆皿の魅力を教えてくれる連載も、いよいよ最終回。最後は、どんなレシピと豆皿を紹介してくださるのでしょうか。
そこで今回は、梅雨のこの時期にぜひ食べてほしい梅のレシピと、生まれ故郷の大分の伝統的な陶器である小鹿田焼、その小鹿田焼と相性がいい滋賀県の信楽焼をご紹介します」
教えてくれた人
フードアドバイザー・調味料ソムリエプロ/神谷よしえさん
大分県宇佐市出身。母が設立した「生活工房とうがらし」を、2015年に株式会社生活工房とうがらしとして継承。食を軸として“人と人を繋ぎ、産地と料理人を繋ぐ”をモットーに、全国各地で食にまつわる講演やセミナー、催事などをおこなっている。趣味はおにぎりを握ること。
副菜:【大分県】鶏ささみの梅肉ソース和え
「私の生まれ故郷にほど近い大分県日田市大山町は、“梅栗植えてハワイに行こう”のキャッチフレーズで村が活気付き、今では梅の産地として全国でも名が知られるようになりました。大山町の梅は、とにかく上質で種が小さく果肉がやわらかいことで有名なんです。
そんな梅干しを大量に手に入れたら、ぜひ作ってほしいのが梅肉ソース。梅肉ソースは作り置きしておくと日持ちがしてとても便利です。活用法は無限大でどんな料理にも合いますし、味のいいアクセントになってくれますよ。
おにぎりや魚にかけて使ってもいいですし、オリーブオイルと混ぜればドレッシングに早変わり。ささみ肉と合わせれば、ダイエットにももってこいなひと品になります」
材料(作りやすい分量)
・ささみ……2本
・きゅうり(千切り)……1/2本
・梅干し……大1個
・酒……大さじ1杯
・塩……少々
・みりん……小さじ1杯
・砂糖……小さじ1杯
作り方
1. ささみを耐熱容器に並べて酒をふり、塩をふる
2. 1にラップをふんわりかけて、600Wで2分ほど加熱して身をほぐす
3. 梅干しは種を取って包丁で叩いて細かくし、みりんと砂糖と混ぜ合わせる
4. ささみときゅうりを器に盛り、3をかける
飯物:【大分県】梅きゅうり巻き
「最終回なので、大山町の梅をもう少しだけアピールさせてくださいね(笑)。じつは大山町では4年にいち度、『梅リンピック』というコンクールを開催しています。梅農家の方々はこのコンクールのために手塩に掛けて梅を育て、技術を高め合っている。だから、大山町の梅は質がいいんです。
そんな梅ときゅうりはとても相性がよく、さっぱりしていてバテがちなこの季節にぴったり。ごはんものは夏場はなかなか喉を通りませんが、梅きゅうり巻きにすると食べやすくなります」
材料(作りやすい分量)
・ごはん……2合
・きゅうり……小1/2本
・梅干し……大1個
・すし酢(市販)……大さじ2杯
A しそ梅酢……小さじ1杯
A 砂糖……小さじ1杯
・鰹節……1袋
・海苔……2枚
作り方
1. 炊き立てのごはんにすし酢を合わせて酢飯を作る
2. Aを合わせ、1に混ぜ合わせて色づけする
3. きゅうりは縦に1/3~1/4本に切る
4. 梅干しは種を取り、果肉に鰹節を混ぜておく
5. 海苔は1/2に切る
5. 巻きすに海苔を置き、2を均一にのせ、きゅうりを置いて4を塗って巻く
人々の生活に寄り添う小鹿田焼
「小鹿田焼は、大分県日田市の山あいにある小鹿田皿山地区で焼かれる陶器です。地元民から親しまれていたのですが、大正時代の民芸運動をきっかけに一躍注目を浴びるようになりました。きらびやかなものが美しいとされていた時代に、日常で使う道具にこそ美しさが宿っていると注目され、瞬く間に人気が高まったのです。
また小鹿田焼は、金属製の薄いヘラで付ける『飛びカンナ』と呼ばれる削り文様が特徴です。現在もひとつひとつ職人さんが手作りで模様を付けているので、窯元によって微妙に違う表情が楽しめるのも魅力。小鹿田焼ならではの繊細な柄が、料理を華やかにしてくれますよ」
副菜:【滋賀県】新生姜の甘酢漬け
「笠原生姜が有名な滋賀県守山市笠原町では、江戸時代から続く伝統野菜としてその味が守られています。水分を多く含んだみずみずしい笠原生姜は、辛味が少なく香り高いのが特徴。種類にもよりますが、酢につけると10分もしないうちにきれいなピンク色に染まります。その様子を見ているのも楽しいです。
よく水分を絞って酢に漬ければ、冷蔵庫で1カ月ほどは持ちますよ。刻んだり和えたりとアレンジも多様なので、多めに作っておくと便利です」
材料(作りやすい分量)
・新生姜……100g
・すし酢(市販)……大さじ2杯
作り方
1. 生姜は薄くスライスする
2. 1をさっとゆでて、ざるにあげる(生姜っぽさを残すなら湯通しくらいでもOK)
3. 絞ってしっかりと水気を切り、すし酢に漬ける
飯物:【滋賀県】かんぴょう巻き
「滋賀の水口かんぴょうは、昔ながらの手法で作られ続ける歴史ある伝統野菜のひとつです。そもそも、かんぴょうを買ったことがないという方も多いのではないでしょうか?ぜひこの機会に手に取ってみてください。
かんぴょうは、だしをたっぷりと含むので煮物としてもおいしくいただけます。繊維質でボリュームがあり、意外にもアレンジ方法がたくさんあるので、ひと袋買ったらまとめて炊いておくと便利ですよ」
材料(作りやすい分量)
・ごはん……2合
・かんぴょう……25g(乾燥した状態)
A しょうゆ……大さじ2杯
A みりん……大さじ2杯
A 酒……大さじ2杯
A 砂糖……大さじ1杯
A 水……大さじ2杯
・すし酢(市販)……大さじ2杯
・塩……少々
・海苔……2枚
作り方
1. 炊き立てのごはんにすし酢を合わせて酢飯を作る
2. かんぴょうに塩をふってよくもみ、10分ほど水につけて戻し、よく洗って絞っておく
3. 鍋にAを入れて、かんぴょうを並べて水分がなくなるまで炊く
4. 海苔は1/2に切る
5. 巻きすに海苔を置き、酢飯を均一にのせ、かんぴょうを置いて巻く
鎌倉時代から多くの人に愛されてきた信楽焼
「もっとも有名な陶器のひとつともいえる信楽焼は、鎌倉時代に始まり、安土桃山時代にはその素朴さが茶器として美しいと評されていました。信楽焼といえば狸の置物をイメージする方も多いかもしれませんが、これは昭和26年に昭和天皇が信楽に来た際、歓迎の意味で日の丸の旗を持たせた信楽焼の狸を置いたことをきっかけに、イメージが広がったとされています。
信楽焼は、素朴ながらも絶妙に違う色や風合いを楽しむことができる焼き物。古くから人々の生活に寄り添いながら歩み、今もなお、植物鉢や傘たてなどに形を変えながら日常を彩っているんですよ」
汁物:梅とわかめのすまし汁
「最後に梅干しを使った汁物をご紹介しますね。
梅干しには酸味や旨味が入っているので、お湯を注ぐだけで充分おいしいスープができ上がります。わかめやネギなど風味のあるものを入れると、さらに味わい深くなりますよ」
材料(2人前)
・梅干し……2個
・わかめ……適宜(乾燥わかめは戻しておく)
・長ネギ……小1/4本
・水……300cc
・白だし……小1/2杯(好みに合わせて加減する)
作り方
1. 鍋に水を入れて沸かし、わかめ、斜めに細切りにした長ネギと梅干しを入れる
2. 梅干しの塩分があるので、味を見ながら白だしを加えて火を止める
暮らしのなかに小さな幸せを見つけていこう
「気落ちしがちな梅雨ですが、さっぱりレシピと伝統的な豆皿で、少しでもさわやかで晴れやかな気持ちになってもらえたらうれしいです」と話す神谷さん。
「旅する豆皿」は今回で最後となりますが、豆皿と神谷さんのレシピを通じて季節の移ろいを感じたり、日本の工芸産地をめぐる旅気分を味わったりすることができた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
コロナ禍によりまだまだ先が見えない日々が続きますが、こんなときだからこそ毎日の暮らしと食事のなかに小さな幸せを見つけていきたいですね。
取材・文/鎌上織愛
撮影/あんりちこ(macaroni ライター)