死海文書に「2人目の書き手」が存在することがAIを用いた筆跡鑑定によって明らかに
「死海文書」は約2000年前にヘブライ語で書かれた執筆者不明の旧約聖書の写本で、1947年に最初の断片が発見されて以来、発掘・調査が続いています。そんな死海文書に対して、フローニンゲン大学の研究チームがAIによる筆跡鑑定を実施した結果、死海文書が複数の執筆者によって記されていたことが判明しました。
Artificial intelligence based writer identification generates new evidence for the unknown scribes of the Dead Sea Scrolls exemplified by the Great Isaiah Scroll (1QIsaa)
Cracking the code of the Dead Sea Scrolls | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-04/uog-ctc041921.php
研究チームの一員であるムラデン・ポポヴィッチ氏によると、これまで死海文書の執筆者に関する推測は数多く行われてきたとのこと。さらに、死海文書のうち、初期に発見された長さ7.3メートルの「イザヤ書」の写本には「2つの巻物を縫い合わせた痕跡」が残っていることから、「『イザヤ書』の写本は、複数の執筆者によって記された」という説が存在していました。
しかし、ポポヴィッチ氏は「筆跡鑑定は、主観的な要素が大きく関わります」と述べ、これまでの説が主観的な要素に頼ったものであると指摘。新たに、AIを用いて「イザヤ書」の写本の筆跡鑑定を行うことで、死海文書の執筆者に関する定量的な分析を行うことにしました。
研究チームは、巻物に記された文字を識別するアルゴリズムを作成し、「イザヤ書」の写本から同じ種類の文字を抽出。その文字に対してAIによる筆跡鑑定を実施したところ、「2つの巻物を縫い合わせた痕跡」の前後で筆跡が有意に異なることが判明しました。
さらに、研究チームがは抽出した文字を「2つの巻物を縫い合わせた痕跡」の前後で分けて、それぞれの平均的な形を作成。2つの形を比べたところ、形状が有意に異なることが明らかになりました。研究チームは、これらの結果から「『イザヤ書』の写本は、2人の執筆者によって記された」と結論付けています。
また、ポポヴィッチ氏は「私たちが開発した手法は、他の巻物にも適用できます。死海文書の執筆者に関する研究を進めることを通して、私たちは執筆者たちと握手しているかのように感じています」と述べ、他の死海文書に関する分析を進める意欲を見せています。