シンプルながら無限の可能性を秘めた料理。それが羊串! | 食楽web

 こんにちは。羊齧協会の主席として、羊肉の美味しさを日々啓蒙している菊池です。今回は、日本でも提供する店が増えつつあるものの、まだそこまで一般的に馴染みがない料理「羊串」がめっぽう美味しいお店をご紹介したいと思います。

 私事で恐縮なのですが、今から20数年前、中国・北京に留学していた時期があり、その時に思いっきりどハマりしたのが、「羊肉串」。ほぼ主食のように毎日食べていました。その名の通り、羊肉を串に刺して炭火で焼き上げる、羊バージョンの焼鳥のような料理ですが、複雑なスパイスの香りと羊肉の旨みが相まって、これがもう最高に旨いのです。

 帰国後も、さらにあちこちで羊串を齧りまくってきたので、私の体の一部は確実に羊串で構成されているはずです。そんな羊串を愛してやまない私を歓喜させるニュースが飛び込んできました。東京・西麻布に、この羊串を完全なコースの高みにまで昇華させたお店『串羊 羊サンライズ』がオープンしたのです…!

『串羊 羊サンライズ』内観。羊串の店とは思えぬおしゃれな店内

 こちらを手掛けるのが、チルドラムにこだわるジンギスカンの名店『羊SUNRISE』(麻布十番)の店主・関澤波留人さん。いま話題の「ニューウエーブ・ジンギスカン」の旗手として、多方面で活躍する人物です。これは食べずにはいられない! というわけで、さっそく取材に行ってきました。

国産羊の旨さを味わい尽くせる「羊串」の魅力とは?

シンプルな味付けからスパイスまで。無限の可能性を持つ羊串

 というわけで『串羊 羊サンライズ』にいざ入店。羊串の店とは思えぬおしゃれな雰囲気です。そしてこちらのお店にはメニューがありません。「今回はどの羊に出合えるのか?」というドキドキ感を楽しみつつ、自分の好きな羊と羊生産者に出合ってほしい、という思いから、メニューは「羊肉をめぐる冒険コース(1万1000円)」のみにしているそうです。

 もう一つ、こちらは「国産羊の生産者を応援する」ということにもこだわっています。国産羊を仕入れるとなると、ほとんどの場合、丸ごとか半身で届きます。それを解体し、部位の特徴を生かして料理する…。言うは易しですが、実際にはかなり大変です。肉を解体できる料理人自体が少ないうえ、すべての部位を使い切るのもまた至難の業だからです。

 日本で流通する羊肉の多くがブロック単位である理由がこれで、扱いやすい反面、人気部位は品薄になり、あまり人気のない部位はダブつくことも。在庫が豊富な海外産はこれでも問題ありませんが、流通が希少な国産羊だと、こうはいきません。

端肉など、本来は使われない部位も「キョフテ(中東のひき肉料理)」として楽しめる

 では、どうするか? と考えた結果、関澤さんが導き出した答えが「羊串だったらどんな部位でも使える!」ということ。例えば焼鳥屋さんでは、希少部位を含め、多種多様な部位が食べられていますよね。だったら羊串もいろんな部位を串に刺してベストの味付けで出そう! というわけです。国産の羊を余すところなく活かし切るための工夫。それが「羊串」だったのです。

鉄板焼きで、羊の脂の旨みも生かし切る

 ちなみに、串=炭火焼というのが一般的な認識ですが、『串羊 羊サンライズ』では、あえて鉄板調理にこだわっています。その理由は、羊の脂を残してその旨みを生かしたいから。中華のように野菜を羊脂で油通したり、脂で肉を揚げ焼きにしたりと、鉄板調理なら、多様な料理が生み出せるんだそうです。

ラムのたたき。コースの串以外のメニューももちろん最高に旨い

 まず、産地があり、部位がある。そして味付けがあり、焼き方がある。さらに、仕上げのスパイスやソースがある――この要素をかけていくと、無限に羊串の世界が広がっていきます。

 ぜひ一度、こだわりの羊串を食べてみてください。羊肉の魅力にどっぷり浸れること請け合いですよ。

●SHOP INFO

店名:串羊 羊サンライズ

住:東京都港区西麻布2-10-7-2F
TEL:03-6452-6606
営:17:00~23:00(時短営業要請により変更の可能性あり)
休:日曜
http://kushi-hitsuji.jp/

●著者プロフィール

菊池一弘
羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で、羊肉料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼して羊好きの消費 者団体「羊齧協会」を結成。本業はイベントの開催・運営、場作りのプロとしてのアドバイザー業務など。最近は四川フェスの運営団体麻辣連盟の幹事長も兼務。監修書籍に「東京ラムストーリー」(実業之日本社)、「家庭で作るおいしい羊肉料理」(講談社)など(http://hitujikajiri.com/)