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最後の特別仕様 どんなクルマ?

text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)photo:Keisuke Maeda(前田恵介)

軽乗用規格の本格マイクロスポーツカーとして2015年に誕生したS660が、2022年3月をもって生産終了が決定。

【画像】ホンダS660 標準車/モデューロXバージョンZ【比べる】 全193枚

ホンダの純正用品メーカーであるホンダアクセスの手でカスタマイズしたコンプリートカーのS660モデューロXも、ベースモデルと共に生産終了となり、その最後の特別仕様となるのが「モデューロXバージョンZ」である。


S660モデューロXバージョンZ    前田恵介

モデューロXは、「S660 α」をベースに空力を磨き込んだフロントマスクやリアウイングなどのエクステリア、ホイール弾性も含めてチューンされたサス(5段階減衰力調整ダンパー付き)、シートと加飾にアルカンターラ素材を用いたボルドーレッド/ブラックの2トーン内装などの専用装備を装着。

加えてブレーキディスクもドリルドディスク/スポーツパッドに換装。スポーツカーとしての性能と質の向上を図った特別仕立ての1台といった内容だ。

バージョンZの空力パーツおよびサス周りはモデューロXと共通だが、同仕様専用装備としてカーボン調加飾パネルや2トーンドアライニング、着脱式シートセンターバッグ、ブラッククローム調エンブレムなどの専用装備を採用。精悍さとプレミアム感を向上。

純粋に性能を求めるだけならモデューロXと同じでも、最終仕様に向けて細かなところに手を入れて仕上げたような印象を受けた。

どんな感じ?

発売後の試乗会だが、試乗は袖ヶ浦フォレストレースウェイ。なぜ、公道試乗でないか理由は単純である。

公道では試せないような限界域や高速域でのモデューロXの性能を知るためだ。


比較試乗したホンダS660 α    前田恵介

といっても、オリジナルに対して何処がどのくらい変わったかは同条件下での乗り比べも必要。そこでこの試乗では、標準車(S660 α)、それに外装およびサス周りの純正用品装着車が比較用に用意されていた。

まずは3仕様に共通する点は基本操縦特性。一言でまとめれば徹底した弱アンダー(ステア)だ。

MRレイアウトでは前輪を軸に後輪を振り出すようなオーバー(ステア)に陥ると重心が後方にあるため回復性が大幅に低下する。高速コーナーでそんな状況に陥れば致命傷である。

良識あるMR車は高速コーナリングで弱アンダー傾向を維持する特性とする。S660の基本特性も同様だ。

ただし、アンダー傾向はコーナー半径が小さくなるほど強くなる。高速コーナーで弱アンダーなら低速コーナーでは強アンダーになってしまう。ところがS660は低速コーナーでも弱アンダー。

サス設計とアジャイルハンドリングアシストの絶妙の効果で、コーナー半径や横Gの違いによる操縦特性の変化が至って少ない。

これは純正用品フルスペック仕様も、バージョンZにもそのまま継承される。異なるのは挙動の抑えやコントロール性のよさ。「操る」質の向上である。

標準車との違い

“どこでも弱アンダー”は同じでも、車体周りの動きが違う。

標準車の高速コーナリングではピッチやロールの抑えが甘く、微妙に揺らぐ、あるいは煽られるような挙動が残る。


S660モデューロXバージョンZ    前田恵介

それに応じてスリップアングルも微妙に変化。量的には僅かでありアンダー/オーバーはプラマイ・ゼロなので「悪さ」とまでは言わないが、あまり心地のいいものでもないので、呼応して微妙な舵角修正を入れる。

けっこう面倒、なおかつちょっとスリリングでもある。

これが純正用品フルスペック仕様になると随分と収まる。揺らぎを抑えるような修正舵は不要となる。

速度を乗せて飛び込み定常円限界で、クリップを舐めるようにコーナーのアウト側に孕んでいくような高速コーナーでの安心感とラインコントロール性は段違いである。

バージョンZはさらに収束性とコントロールの精度、高速コーナーでの限界が向上する。

バージョンZ 空力に注目

しかも神経質な反応は皆無。随意でコントロールできる領域が拡大。例えば限界コーナリングでコース幅を使い切るような走り方も容易になる。と記せばいい事尽くめのようだが、そのとおりなのだ。

試乗時のダンパーセッティングはFr.5/Rr.5。


S660モデューロXバージョンZ    前田恵介

これは純正用品のダンパーセッティングとほぼ等しいので、高速コーナリングでの安定とコントロール性は空力の賜である。

ちなみにバージョンZは、マスク周りおよびエアダム下面処理によるフロントダウンフォースの強化に伴い、リアウイングにガーニーフラップを追加。空力バランスは純正用品と同等でも効果はランクアップしている。

しかも、70km/hくらいでも体感できるほどの効果を発揮。スペックのためではなく実践力アップの設計だ。

「買い」か?

車載Gメーターに記される大凡の全開加速度は3速で0.3G、4速なら0.2〜0.1G程度。定常円旋回の横G、全制動の減速Gは1G。

動力性能に対してシャシー性能が圧倒的に上回っている。高出力車と同じコーナリングラインを取ると立ち上がりがスカスカ。動力性能は軽乗用だが、シャシー性能は本格スポーツカー、それがS660モデューロX(バージョンZ)である。


S660モデューロXバージョンZ    前田恵介

S660の基本操縦特性はNSXに似ている。登場年月からすればNSXが似ているということになるが、タイトターンから高速コーナリングまで振れ幅が少なくコントローラブルな弱アンダーで収める。

標準車なら格の違いを意識させられるが、モデューロXではNSXの原点がS660にあった、と思えるくらい振る舞いが洗練されている。フットワークだけならマイクロNSXと称してもいいくらいだ。

標準車のαに対してモデューロXは約72万円高、バージョンZはその約11万円高。

300万円を超える価格は軽乗用としては破格かもしれないが、良質な本格スポーツカーのハンドリングを気軽に楽しめる。

ホンダが考える操安性をはっきりと示したモデルと言ってもよく、NSXの7分の1弱の価格でホンダスポーツの神髄を味わえると思えば極めてコスパに優れたスポーツカーなのだ。

S660モデューロXバージョンZ スペック

価格:315万400円
全長:3395mm
全幅:1475mm
全高:1180mm
ホイールベース:2285mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:20.6km/L(WLTCモード)
CO2排出量:112.7g/km
車両重量:830kg
パワートレイン:658cc直3ターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:64ps/6000rpm
最大トルク:10.6kg-m/2600rpm
ギアボックス:6速マニュアル


S660モデューロXバージョンZ    前田恵介