2020年12月に3代目となった「ノート」価格は202万9500円〜(写真:日産自動車

現在、日産で最も数多く売れているのが、コンパクトカーの「ノート」だ。2017年から2019年まで3年連続でコンパクトカーナンバー1の販売台数を記録。2018年は登録車全体としてもナンバー1となった。年間での登録車販売1位は、日産にとって1968年度の「ブルーバード」以来、50年ぶりの快挙だ。

そんな、日産のエースとなるベストセラーカーがフルモデルチェンジを実施し、3代目へとしたのが、2020年12月23日のこと。

人気モデルの販売動向が注目される中、2021年2月に、日産は発売1カ月での新型ノートの受注台数を発表した。その数、およそ2万台。正確には、2月1日の時点で2万0044台であったという。

「2万台」というこの数字、正直なところ相当に微妙なものだ。


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月間8000台という目標販売台数に対すれば、2.5倍という結果は上々と言える。しかし、前年(2020年2月)にデビューしたトヨタ「ヤリス」の発売1カ月での受注は、約3万7000台(月間目標販売台数7800台)。同じく2020年2月デビューのホンダの新型「フィット」は3万1000台超え。ノートは、トヨタとホンダのライバルモデルに届かなかったのだ。

さらに2021年1月の新車登録台数は7532台(一般社団法人 日本自動車販売協会連合会発表)で月販目標に届いておらず、前年比で100%。2021年1月の「乗用車ブランド通称名別順位」では6位にとどまった。

つまり、目標の2.5倍の受注は得たもののライバルよりも少なく、1月の登録台数は目標に届かないだけでなく、1年前の旧型時代の数字と変わらなかった。


2012年から2020年にかけて販売された先代モデル(写真:日産自動車

日産を支えるベストセラーカーの数字としては、物足りないものだったのだ。では、なぜ新型ノートの数字が今一歩にとどまってしまったのだろうか。その最大の理由は、ハイブリッド専用車となったことだろう。

e-POWER専用車になり価格帯が上昇

新型ノートのパワートレインは、日産が「e-POWER」と呼ぶシリーズハイブリッドだけになり、ガソリンエンジンのみグレードがなくなったのだ。これは、地球環境に対するエコや電動化という意味合いだけではなく、“ノートに安価なグレードがなくなった”ことを意味する。

具体的にいえば、先代まであった100万円台のグレードがなくなり、全グレードが200万円以上に。オプションを数多く追加していくと、300万円にも達するようなクルマになったのだ。

200万円からという価格はコンパクトカーとしては少々高く、従来あった“安価なコンパクトカーが欲しい”というニーズに新型ノートは応えられなくなった。

先代モデルでは「e-POWER」の比率が6割であったというが、逆にいえば購入者の4割が“安価なエンジン車”を選んでいた、ということだ。新型になって、そうした“安価なコンパクトカー”を求める層に届かなくなったことが、販売台数に表れたのだ。

一方で、ライバルであるヤリスやフィットには、従来通り100万円台のエンジン車が用意されている。安価なエンジン車の存在の有無が、販売台数に影響を与えたのは間違いない。

ノートよりも小さく安価な「マーチ」の販売台数が増えたことが、それを裏付ける。2021年1月のマーチの販売台数は、前年比115.9%と増加しているのだ。


「マーチ」は1.2リッターガソリンエンジンを搭載。価格は128万9200円〜(写真:日産自動車

現行マーチのデビューは2010年のこと。誕生10年を超えるモデルが前年比プラスとなるほど売れるのは、普通ではありえない。ノートの価格帯の変化が、マーチの販売上昇の理由と考えるのが妥当だろう。

“低価格帯グレードの切り捨て”は既定路線

しかし、この結果は日産にとっては想定済みのはず。いや、逆に狙い通りだったのではないだろうか。なぜなら、日産は現在、「NISSAN NEXT」と呼ぶ事業構造改革計画のまっただ中。この計画は「最適化」と「選択と集中」をテーマにし、具体的には「数を追わない」「1台当たりの販売価格を上昇させる」、つまり利益を重視する方針だ。

そういう意味で、新型ノートの低価格帯グレードの切り捨ては、まさに「NISSAN NEXT」に則ったもの。そして、販売の内容も、最上級グレードとなるX(218万6800円)が84.2%を占めている。

さらに、オプションとなるLEDヘッドランプやアラウンドビューモニターの装着率は約7割にもなるという。


LEDヘッドランプはLEDフォグランプなどとセットで9万9000 円のオプション(写真:日産自動車

さらにNissanConnectナビゲーションシステムやプロパイロットなども装着してフル装備にすると、車両価格は270万円を超える。当然、1台当たりの販売価格は旧型よりも高い。

これは数を追わずに利益を重視するという方針にも合致する。そうした日産全体の方針に沿ったうえで、目標の2.5倍の初期受注は、それほど悪いものではないといえる。こうした、狙い通りのスタートを切ることができた理由は、やはり商品力の高さがあったからだろう。

今回のフルモデルチェンジでは、プラットフォームとパワートレインが一新されている。デザインも、昨年に公開した日産の新フラッグシップEV「アリア」と同じ路線のものとなった。


「アリア」はEV(電気自動車)のSUVでおよそ500万円からの価格帯となる(写真:日産自動車

走りはパワフルになって、静粛性も向上。乗り心地もよりしなやかになり、先進運転支援システムもカーナビゲーションとの連携機能を追加するなど、しっかりと進化させている。ドアの開閉音や、各種警告音の音質にもこだわり、高品質感を高める努力も行われた。

外見だけが新しくして、中身のプラットフォームやパワートレインは古いままという、残念なフルモデルチェンジではない。サイズ感こそ先代と大差ないが、中身がまったく新しくなっており、まさにフルモデルチェンジと呼ぶにふさわしい、久々に日産の本気を感じさせる内容であったのだ。

しかし、そんな新型ノートにも課題がある。まず、大きな問題はユーザー層の高齢化だ。

若年層にアピールできる魅力は備わるか

なんと、新型ノートの購入者の約半数が60代以上だという。具体的には70代以上が20%、60代が30%ほど。一方、30代以下は15%程度にとどまる。とはいえ、この年代構成は、先代モデルとあまり変わっていないという。つまり、必要なのが若年層の拡大だ。

これは、日産側も課題ととらえているようで、今後は、若者向けのコミュニケーションを考えているという。すでに、より上質なモデルとした「AUTECH」が用意されているが、きっと「NISMO」など、スポーティなグレードの追加もあることだろう。


カスタムカーとしてラインナップされる「AUTECH」(写真:日産自動車

もうひとつの懸念は、半導体不足だ。世界的な半導体ニーズの高まりにコロナ禍での供給遅れが重なり、自動車用の半導体不足という問題が発生しており、日産も生産調整が実施されている。

この半導体不足が解消されなければ、新型ノートの販売が伸びることはない。とはいえ、「数を追い求めない」への変更は、生産数が絞られるという苦境には、たまたまとはいえ悪くない路線だ。

ただし、クルマの魅力度が下がれば、販売台数は簡単に落ちてしまうもの。ましてや、ハイブリッド専用車となった新型ノートは、低価格を売りにすることはできない。すでに2020年度内発売予定として4WDモデルの発売がアナウンスされているが、スポーティグレードの追加や運転支援システムの進化など、継続的なブラッシュアップが欠かせないだろう。

初期受注の2万台という数字は微妙なものだが、今後の展開次第ではライバルを超え、再び年間販売ナンバー1の座を奪取できるポテンシャルは持っているといえる。