世界遺産「軍艦島」の劣化が加速…近代化を物語る遺構 後世に残すための道筋は

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長崎市の沖合に浮かぶ端島、通称「軍艦島」。
かつて炭鉱の島として栄え、また日本の近代化を物語る多くの遺構や集合住宅が残っており、2015年には「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の1つとして世界遺産に登録された。

世界遺産登録も追い風に、軍艦島は年間25万人前後が訪れる、人気観光スポットになっている。

旅行が難しい今…リモートツアー

この日、上陸したのは人気の男性お笑い芸人。
今回はテレビの旅番組の収録ではなく、上陸の様子をオンラインで配信する。
新型コロナウイルスの影響でこれまで通りの旅行が難しいなか、軍艦島を身近に感じてもらおうと、介護施設向けのツアーを企画している旅行会社が主催して行われた。

事前に申し込んだ全国の介護福祉施設など約200施設、3,000人が視聴しており、タブレットを通して感想などが届き、一緒に旅行している気分を味わえる。

東京トラベルパートナーズ・栗原茂行社長:
見てくださった方が行ったことないけれども半分ぐらいは行った気持ちになるというか、軍艦島のことを知っているし、見たことあるよという風になってくれればやった甲斐があるかなと思います

コロナ禍によって生み出された、オンラインツアーという新たな旅のカタチ。
しかし軍艦島は今、その姿を保つことさえも難しくなってきている。

強い波風の影響で劣化が加速

建物の崩落、そして護岸の崩壊。長年の波風にさらされ、劣化のスピードが着実に上がっているのだ。
2020年予定されていた世界遺産委員会では、軍艦島の保全についても審議されるはずだったが、新型コロナの感染拡大で2021年に延期されてしまった。

東京理科大学工学部建築学科・今本啓一さん:
(建物の)劣化には進展期、加速期というのがある。
建物の倒壊が最終系だとした時の進行で捉えると、今は「加速期」に入っていると思う

長崎市は2011年から、軍艦島にある建物の調査を専門家に依頼している。
また2018年度から30年間にわたって軍艦島を保全・整備するための事業を決めていて、総事業費は110億円にものぼる。

保全のために重要視しているのは、「島の存続・遺構・景観の維持」の3点。
長崎市はこの3点を踏まえて、明治期の生産施設の遺構を最優先に、石積みの護岸、居住施設の遺構の順で整備する方針を示している。
さらに居住施設の中でも景観への貢献度や保存の実現性が高い棟から優先して整備すると決めている。

すでに長崎市は、明治期に作られ、世界遺産になっている竪抗周辺や島の景観を維持するために大切な小中学校などの基礎補修を進めてきた。
東京理科大学の今本博士は2020年11月に軍艦島に上陸し、建物のコンクリートの耐久性などを調査した。

東京理科大学工学部建築学科・今本啓一さん:
ここ(30号棟の側面)の柱が外にはらんでいる。
おそらく全体的に崩落しながら、こっち向きに倒壊していく可能性がある。

建物はフロアごとに調べると1,2階は波が来るので劣化が激しい。3、4、5階に行くと、いきなり健全な部位が増えてくる。
ところが、最上階に行くと1,2階の部分に近い状態になる。雨の影響を一番受けるのは最上階、そういうメカニズムで建物の劣化が進行している。

今本さんは鉄筋の腐食をもたらす原因を「水」と指摘。「海水」や「雨水」から建物を守ることで崩落を食い止めれば、倒壊から免れると提案する。
しかし島全体の画期的な再生策は手探り状態で、優先順位が低いものは保全が厳しい状況となっている。

長崎市文化観光部世界遺産室・濱本和彦室長:
30年の計画だが、10年ごとに見直しを行っていくという風になっている。

この計画に関しては、当然ユネスコに計画書を提出して、ということになる。
今はこの計画でと考えているが、自然災害が最近多いので、そういった面も考慮にいれながら考えていかないといけない。

東京理科大学工学部建築学科・今本啓一さん:
(1つ1つの建物の)保全する努力は必要と思うが、現状は厳しい。今の状況は誰もが認識できているので、食い止めるアクションを具体的に起こしていくのが重要になってくる

 

今本さんは、費用を度外視すれば、広島の原爆ドームのように建物を支えるような柱を設置したり、水の侵入を防ぐために建物に屋根をつけるなど、これ以上の崩落を食い止める対策はあるという。
この問題については2021年に世界遺産委員会で審議される予定だが、計画を見直すにしても、一旦、報告書を提出し承認を得るなど、さまざまな手続きを踏まなければならない。
劣化の加速期に入った建物に一刻の猶予もない中で、世界の宝ともなった軍艦島の姿を守り、後世に残すための道筋はまだ見えていない。

(テレビ長崎)