「骨盤が立った状態」があらゆる場面で重要だった

 マツダがMAZDA3に採用した次世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー)」。これは「骨盤を立てる」「骨盤をキーにしてクルマをつくる」という発想から生まれた独自の技術だ。マツダはなぜこの骨盤に注目し、骨盤を立てるシートを目指したのか。

 SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREの開発を担当した、マツダの操縦安定性能エンジニアである虫谷泰典氏によると、大きなきっかけは三つあったという。

 ひとつは虫谷氏自身が操縦安定性の部署で働きながら、オフロードバイクのエンデューロレースを始め、先達から「骨盤を立てて乗らないと、バイクは操れない」とアドバイスをもらい、骨盤を意識してから、のちに全日本でクラス優勝を果たしたこと。

 二つ目は、シニアサッカーの全国大会で膝を負傷し2ヶ月入院したときに、ドクターから「人の動きのすべては、歩行に集約される。骨盤が立っていないと、美しく歩けない」と教わったこと(虫谷氏は、もともとマツダサッカークラブ(現サンフレッチェ広島)にサッカー選手として入社)。

 さらに退院後、社内の技術研究所で人間研究をしていた千葉氏からも、「骨盤が立った状態じゃないと、人はスムーズに動けない」という意見をもらって、骨盤を立てることを重視し、それを人間中心のクルマづくりの核に据えた開発に着手した。

人間とクルマの「人馬一体」を目指し心地良い走りを追求した

 人間の運動の基本は「歩行」。歩くときに身体が上下・左右に揺れ続けているにもかかわらず、頭部の動きが抑えられ、目線が安定していられるのは、骨盤が立っていて、骨盤が右に傾けば、上体は左に、骨盤が左に傾けば、上体は右にと、上体と骨盤が無意識に逆位相することで、バランス保持をしているから。

 こうした人間が本来持つ高度な能力の一つである「バランス保持能力」を最大限に生かすためには、「脊柱がS字カーブを保つよう骨盤が立っていること」と「足から伝わる地面からの反力を滑らかに骨盤に伝えて、骨盤自体が規則的にかつ連続的に滑らかに動いていること」が不可欠ということが研究で明らかになった。クルマ乗車時でも歩行時と同様に、人間が本来持っている「バランス保持能力」を発揮できる「理想の状態」を作るには、

・脊柱がS字カーブを保つように骨盤を立ててシートに着座できること

・人間の足の代わりに、クルマが路面の力を滑らかに骨盤に伝え、骨盤を連続的に滑らかに動かすこと

 が必要だというところに行き着いた。これが、マツダが骨盤を立てるシートを採用した最大の理由。

 自分の足で歩いているかのような、クルマとの心地よい一体感を追求し、クルマの動きをまるで自分の体のように感じることができる心地よい走りを目指したのが、SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE。

 座れば骨盤が立ち、背骨が自然なS字を描くシートをメインに、ボディ・シャシー・タイヤまで、個々のシステムよりもクルマのアーキテクチャー(構造)全体としてコーディネートしたというのが、「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」と名付けられた由縁でもある。

 世界にも類を見ないマツダ独自の新しい“乗車環境”。これは実際にMAZDA3に試乗して、自分の身体で体感してみるしかないだろう。